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第五十九話 ① 明けぬ夜は

 束の間の光に希望を見出した人々は、再び立ち込めた暗雲に恐怖を覚えていた。

 その雲の示す意味を知るものは一人もいないはずだが、

 人間というものは生命の危機を本能で察知できるようだ。


 泣きださぬ子供はおらず、傍に居る大人もそれを宥めようとはしない。

 分かっているのだ。そうした所でどうにかなるものではないと。


 暗雲の指す意味に答えを知るものは居なくとも、誰しもがその空を見上げた。




「なんだ、急に暗くなったが」

 空を見上げて猫は言う。


「……ほんとだな。今太陽が昇ったばっかなのに。

 それじゃ……夜明けはまだでしたーってことにならない?」

「ならない」


 千鶴さんの酒場前。

 つい先ほどまで地下に居たので気づかなかったが、いつの間にか夜明けを迎えていたらしい。


 冗談の一つでも言わないとやっていられない。

 律さんとデュオさんはもう、特異点を過ぎてしまったのだ。


「それと……辺りが騒がしいけどなんなんだ? 皆何をそんなに怖がってんだろ」

「さぁ……分からんな。それにしても分厚い雲だな」

 猫は辺りを見渡しながら鼻を鳴らす。


「雲って涼しくて好きだけどな」

「曇りはいい。だが吾輩は雨が嫌いだ」

「そう。これから降るって事?」

「知らん。が、雨というのは空から地上に振ってくるまでに数分を要するからな。

 上ではもう降り始めているかもしれん」


 なんだそのうんちく。

 良く分からない会話をしながら黒い雲を眺めていると。


「しかしあれだな。貴公はもう権限を持っているのだろう? 試してみればいい」

「……試すって?」

「ラプラの権限の話だ。天候が固定されているダンジョンを見た事があるだろう」


 あぁ、確かにあるな。

 俺が知ってるのだと、ナーガ迷宮とかは年中天候が雷雨に固定されてたな。


 あれがラプラの権限によって作られたものだとすると……

 そうか、今の俺はあれと同じことが出来るのか。

 試しにラプラ最高権限を発動する。


「どうしようかな。

 じゃあとりあえず……王都周辺の天候を快晴に固定するか(・・・・・・・・)


 そんなことが出来るのかは半信半疑だった。

 空を埋め尽くす分厚い雲がそんな簡単に……


「……眩し」


 目を刺すような光が辺りを満たす。

 次の瞬間には青々とした空が眼前に広がっていた。


 一瞬にして全ての雲は消え去り、指定通りの快晴。


「……凄いなこれ。

 凄すぎて逆に現実感が無いって言うか……

 映像を見せられてるみたいじゃない?」

「全能を手に入れて最初にする事にしては、

 なかなかにくだらないな」

「お前がやれって言ったんだぞ」


 訂正をするも、猫は聞こえないフリをする。

 光あれ、とでも言えば褒めてくれたのかよ。


「で……あいつらはどこに居るんだろ。

 見た感じそこまで攻め込まれてるって訳でもなさそうだけど」

「そうだな。意外と余裕だったのか? あれだけの軍勢に囲まれて?」

「かもな。あいつらめちゃ強いし……あれ。また雲が……いや、晴れた」


 一瞬影が差したかと思うと、またすぐに空は晴れた。

 なんなんだこれ。


「やはりこの雲は人為的に作られたもののようだな。

 何者かがもう一度雲を作ろうとしたようだが……ラプラの権限には敵わなかったのだろう」

「そう……なのかな」

 生返事をしながら、俺は別の事を考えていた。


「ソフィア……じゃなくてソフィがどこに居るのか気になってんだけどさ。

 でもまずは敵だよな。神代はどこに……」


「危ない」

 足を踏みつける猫の忠告によって、一瞬だけ猶予が出来た。


 目の前には、口を大きく開けた醜い巨大魚が。

 横っ飛びに避けると、魚は民家を破壊して転げまわる。


「コイツ……どこから……?」

 その疑問はすぐに解消される。

 魚は口をパクパクとさせると、一度地面へと潜り込んだ。


「なんだ、地雷魚の打ち漏らしか。腕鳴らしに丁度いいのではないか?」

「腕鳴らしって……どうすんだよ。

 ラプラだって、何が出来るのか良く判ってないし……」

「全能の力だ。 出来ない事の方が少ない」


 そうは言うけど……!

 体を捻って地雷魚は向きを変えると、体を縮こませて一瞬のうちに距離を詰めて来る。

 むき出しの歯が怪しげに光り、本能が恐怖を訴える。


 ラプラの能力でダンジョンそのものを作り出せるなら、ここで一番有効なのは……

「……こうか?」


 ラプラの権限で“天候の変化”を要請する。

 飛び上がる地雷魚に、一閃。

 暴力的な光と共に、晴天の中。一筋の稲妻が走った。


 音は遅れずに轟く。

 圧倒的なエネルギー量に、丸焦げとなった魚が地面に倒れていた。


「まだ頭が固いな。ラプラは天気を操るためだけに存在する訳では無いぞ」

「いや、そうだけど。さっきの件のせいでこれしか思いつかなくて」


 鼻を鳴らす猫に、黒焦げの地雷魚に目を戻す。

「でも……ここってまぁまぁ城壁からは離れてるよな?

 地面を泳げるとはいえ、ピンポイントでここまで来るってなんか……」


「おしゃべりはいい。早くしないと爆発するぞ」

「……は?」

「地雷魚という名前を聞いて何も思わなかったのか?

 こやつは死後数十秒で爆破する性質を持つ」


 それは早く言えって。

 目の前に千鶴さんの酒場があるというのに、こんなところで爆発されたらたまったもんじゃない。

 既に民家を一つ犠牲にしてしまった。これ以上はさせない。


「爆発は刺激じゃなくて、時間によるんだな?」

「そうだ。でなければ雷を受けた時にとっくに爆発しているだろう」


 それならいい。

 ラプラの権限で“地形の変化”を要請する。

 地雷魚の周りに防御壁と、その中央に落とし穴を。深さはとりあえず、三百メートルほど。

 出来るかどうかはまだ半信半疑だが……


 発動と共に、眼の前に土の壁がせり出す。

 その変化を見ることは無く、そこには壁が存在するという結果だけが残る。

 あたかもそこには大昔から壁が存在していたかのような。


 壁のせいで中は見えないが、これなら……

 数秒遅れて、少しだけ地面が揺れた。

 爆破が起きたのだろう。が、深くまで穴を掘ってやったのでその影響は殆ど無かった。


「そういう事だ。出来るかどうか迷ったらやってみると良い。

 不可能は無い。全ては可能だ」


 誇らしげに語る。

 5500年前にラプラを作った張本人の言葉だ。ありがたく聞いておこう。


「まあしかし、貴公本体が強くなるわけでもなければ不死になるわけでもない。

 今の爆発も、眼の前で食らえば簡単に死に至る。気を付ける事だな」

「……分かってるよ」

 言いながら猫を抱き上げる。

 空を見上げると、そこには不自然なほどにワイバーンが群がっていた。

 地響きと共に単眼の怪物が、四つ足の獣が、羽ばたく鳥獣が。


「神代も分かっているのだろうな。顔を合わせれば“付与”によって殺されると。

 だから魔物どもに任せるしかないわけだ」

「そう、なんだろうな。でも……」

 足もとにトラップを設置する。

 踏むと自動的に城壁外まで飛ばされる、簡易的な移動手段として便利な罠。


 体が浮く感覚と共に呟く。

「まぁまぁ多いみたいだけど……たった数千の魔物如きで勝てるとでも思ってんのかな」

「まさしく。舐められたものだな」

 腕の中の三毛猫は、大きく口を開けてあくびをしていた。

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