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第五十八話 先代勇者

「あぁ、ここに居たじゃない」


 白鳥は呟き、次の瞬間には剣が振り下ろされていた。

 床は割れ、下階まで斬撃は届く。


「……随分と乱暴ですね。しかし気づきますか、なかなかのものです」


 “不感知回避”の発動により、なんとか初撃は躱す。

 言いながら神代は自身の“透明化”を解いていた。

 こうして見つかったという事は、初代には効かないという事なのだろう。


「感知系のスキルはお持ちでないはずですが、どうやってここを?」

 情報を少しでも引き出そうと、神代は白鳥に話しかける。

 “浮遊”によって空中を自由に動ける以上、地面を走って逃げる必要はない。


「まぁ、虱潰しね。それしか方法は無いもの」

 言いながら瞬時に距離を詰め、再び剣を振り下ろす。

 神代は空中に生み出した“守護盾”によって攻撃を防いだ。


 戦場には無数に自身の“ダミー”を設置し、

 相当な時間を稼げるようにしたはずだが……それでも、彼女はここにたどり着いている。

 しかしここ、王都から西に5キロ近く離れた最高本部は“秘匿”されていて、

 本来ならばここを認識することすら出来ないはずだが……


 残り十分といったところか。


 少しの隙を使って、“査定”を発動させる。

 スキル名、絶対正規界(シンセカイ)

 ――自身に不利益となる外界からの影響を、一切受けない。


「なんだこのスキルは……」

 憎々し気に神代は呟いた。

 試しにこの空間に“過重力”を発生させた。もちろん、最大出力。


 本来なら飛び上がるどころか、立つことすら出来ず地面にめり込むほどの力をかけているはずだが……


 次の瞬間には眼前に迫ってきていた。

 正面から一撃――と見せかけて、裏へ回り込んで斬撃を食らわせて来る。

 しかし神代の体に刃が当たる直前、自動的に“視覚外守護”が発動し、その攻撃は弾かれた。


 その弾かれた斬撃によって本部は崩壊し、辺りに瓦礫が散らばる。


「これは……相当に面倒ですね」

 思わず呟く神代に、呆れ顔で白鳥は言う。

「それはあんたもじゃない?」


 白鳥は一度飛び上がったかと思うと、急降下し勢いをつけて着地する。

 衝撃波で広がった瓦礫が、一点に神代に襲い掛かった。


「残り十分で、この世界全体に雨が降ることはご存じですか?」

「何よ急に、変な()吐いて。この世界(・・)全体に雨が降るなんてことは無い。

 それに、王都に降るのは、ただの雨みたいな生易しいものじゃないでしょ」


 答えを聞いた神代の顔は引きつった。

 やはり、嘘は通じないのだ。

 この情報が既に初代に伝わっているということは考えづらい。

 彼らと初代が接触をしたらこちらに情報が入るはずだからだ。


 だというのに彼女は的確に嘘の部分と真実の部分を指摘している。

 すなわち、彼女はそのスキルの効果で、

 神代の発言のどこが嘘で何が真実なのか、瞬時に見抜くことが出来るという事だ。


 “自身に不利益となる外界からの影響”というのがどれほどのものかは分からないが、これは相当に厄介なスキルのようだ。


 神代に襲い掛かる瓦礫の塊は、その直前に勢いを失った。

 “減速境域”によるものだ。飛び道具の類は、このスキルによって殆ど無効化される。


「しかし、今日までよくその正体を隠していられましたねぇ。

 六年前ですか、再び転移してきた貴女に対して殺すという手は取れないので、

 記憶だけを抜いて城下町に放り出しましたね。

 その後、行方が掴めなくなっていましたが……その間は何を?」

「いや? 特に何もしてないわ。

 孤児院の子供たちの世話をしながら炊き出しを頂いて……ぶらぶらしてただけ」


 搦手が通用しないと分かった白鳥は真っ向から切りかかる。

 “流力”を発動させ、繰り返される攻撃をいなしながら神代は続けた。


「問題はその後です。

 その辺りまでは監視が可能でしたが……

 ある時を境にぱったりと消息が掴めなくなりましたよね。

 その時は何を?」

「あー、カユウ君の事ね。あの時は気づいてなかったんだけど、

 カユウ君は私をあんた達みたいな監視の目から隠すために……

 認識阻害の魔法を掛けてくれたのよね。

 それとめちゃめちゃ強い結界を張った酒場にずっと居れるように取り計らってくれてたみたいで」

「なるほど、そういう事ですか」


 今の言葉がすんなり出てきたという事は、

 彼女にとって不利益な情報ではないのだろうか、と神代は考えた。

 もしそうでなければスキルが口止めしていそうなものだが。


 と、四度目にして早くも“流力”が破られた。

 対応され、流せないような力の使い方を覚えたらしい。

 剣を通される前に、なんとか“衝撃反転”を使い押し返す。

 その衝撃で、辺りに残っていた瓦礫は粉々になった。


 恐ろしい威力だ。まともに食らったらかなりのダメージを受けることになるだろう。


「……娘さんの話でも致しましょうか。興味がおありでしょう」

「興味はあるけど、あんたの口から聞くのはあんまり……好きじゃないわ」

 斬撃を繰り出しながら、白鳥は“衝撃反転”の穴を探っている。


「誰から聞いても同じです。

 貴女の愛する娘は、永遠に帰って来ることは有りません。

 何のためにその剣を取ったのはかは知りませんが、何をしても無駄ですよ」

「言うじゃない。でも……それは事実とは程遠いみたいね、私には分かるわ。

 あの子が置かれている状況は確かに絶望的かもしれないけど……抜け出す方法は有る。

 あんたはそれを潰そうと必死になってる、でしょ?」


 白鳥の反論に神代はぐ、と言葉を詰まらせた。


 連撃。

 高速で移動しながら連撃を行うことで、反転された衝撃は空を切る。

 そうしてスキルの防衛処理が間に合わなくなり……

 そのうちの一つが白鳥を切り裂いた。


 が、“初撃無効”によってその攻撃は無効化された。

 弾かれる、というよりもその攻撃は神代の体を素通りする感覚。



「……ほんと、手が多いのね」

「それだけが取り柄ですので」

 言って神代は、ノータイムで反撃の“衝撃波”を繰り出す……

 が、それを意に介せず白鳥は切りかかって来た。

 やはり効果は無いようだ。


「そろそろ……試してみますか」

 神代は“無敵時間”を発動させ、肩で剣を受け止めた。

 そのまま体を捻って白鳥を右手で殴り、

 左手のひらに“武器生成”で槍を生み出し、全力で突き刺す。


 左手の槍はあっけなく砕け散るも……

 右手の拳は確実に白鳥をとらえた。

 “筋力増加” “武の心得” “怪撃” “防御不可” “破壊裁”……

 少なくとも数十のスキルの効果による威力の上乗せで、一撃食らわせる。


 白鳥はその衝撃で飛んで行く。

 建物を次々と壊してゆくも、なかなかその勢いは減衰しない。


「なるほど、素手での攻撃は効く……と。

 情報にはありませんが、流石に全ての攻撃が無効になるという訳では――」

 次の瞬間、衝撃を受けていた。


 “視覚外守護”が発動していなかったという事は、

 視野角ギリギリの所から攻撃を繰り出してきたのだろう。

 一瞬前まで遠くを転がっていたはずの白鳥は、神代の真下に居た。


 流石にまともに攻撃を食らう。

 “ダメージカット” “攻撃減衰” “衝撃保護” “防衛措置”によってダメージを抑えるも、

 それでもその威力はすさまじく、“即死保護”が発動してようやく耐えた。

 そして“瞬時治癒”によって体はすぐに回復する。


「やっと手ごたえがあったわね。

 ちょっと時間を使いすぎたけど……まぁ、こっからじゃない?」

 残り五分。

 これで大体の初見殺し対策スキルは剥がせた。

 時間は少し心もとないが……五分もあれば。


 突如大きな地響きを立てて空間に扉が乱立する。

 地面から生えた扉を支えにするように、さらに次の扉が連鎖して伸びていく。

 果てしなく伸びて来る鉄の腕を避けるようにして、神代は空中を飛び回った。


 どこへ逃げても、次の瞬間には扉が火花を散らして噛みついて来る。

「野戦は苦手だったはずですが……克服したようですね」


 らちが明かないと悟ったのか、一度高く飛び上がって“真眼”で本体を探す。

 北西一キロ先に、テトの姿があった。木の陰に隠れているつもりのようだが、それは無意味。


 “破砕蹴”で足もとに出現した扉を蹴り飛ばして、

 “重加速”を発動させ一気に距離を詰める。


 そのまま隠れていた木ごと握りつぶすように“握撃”を発動させると、

 同時に、自身の体に多大な負荷がかかったのを感じる。


「“同期”……ですか。このどこかに柊も……」

 憎々しげにつぶやく神代に暇を与えようともせず、

 テトはひしゃげた木を粉々に砕く。


 体中に重い痛みが走る。この木が同期対象だったのか。

 慌てて“効果解除”を発動させて神代は難を逃れた。


 その場を離れようと飛び上がる……が、いつの間にか空には天井が出来ていた。

 正確には、無数の扉が空を埋め尽くすように乱立している。


「ふざけた……真似を……ッ?!」

 構わず扉を破壊しようとするも、またも体にダメージが。

 解除しても解除しても、向こうはノーリスクで再び“同期”させて来る。


 これだから、柊の能力だけは管理下に置いておきたかったのだ。

 今となってはもう遅いが、魔王軍幹部のスキルの中で最も地味ながら敵にすると最も面倒なのはコイツだ。

 そのために丁寧に記憶を操作し、強力な忠誠心を植え付けたはずなのだが……。



 “連撃破”“組織破壊”“対物倍率”“硬化拳”“砕岩撃”の上に、

 “感覚麻痺”を自分に作用させ、“自動回復”に“回復増加”を発動させて何とか扉をたたき割る。


 が、次々と生えて来る扉に破壊の速度は間に合わず、どんどんと居場所は閉ざされてゆく。


 これは無理だ。

 破壊するのは諦めて、“透過”を発動させる。

 効果中はあまり姿勢制御が効かず、発動時間も短いのであまり使いたくは無かったが……

 “壊撃”を発動させて体に勢いをつけてから、真上に積み重なった扉を通り抜けてゆく。

 流石にどれだけ厚い壁を作っていようとも、この速度なら。


 無数の鋼鉄の扉を突き抜けて、ようやく。


 光。

 ようやく扉の塊を抜け、空が見えた。

 扉に遮られていた陽の光が……


 この(・・)真夜中に(・・・・)……?



 思考する間もなく。体は熱に包まれていた。

 “炎熱障壁” “灼熱装甲” “熱源吸収” “恒温制御” “冷却波動” “熱波放散”……

 その全ての耐性があってもなお、脆い命を守るには届かない。

 威力があまりに高すぎるのだ。


 シアの“無限界出力”に、多重倍化二十六枚、倍率は一億三千四百二十一万七千七百二十八倍。

 放たれた光と熱は、計り知れないほどのエネルギーを持って世界を消した。


 後に伝わる話によると、東に五キロ以上離れた王都に居た人々は西から日が昇ったと錯覚したという。

 そこに、生命が生存できるはずがない。

 脆い人間一人に注がれるべきものではないと、誰もが本能的に悟るほどの威力だった。


 あとを追うようにして、その反対側から太陽が顔を出した。

 空は徐々に明るくなり、辺りには灰が降っているのが見えた。


 夜明け。

 偶然にも二つのタイムリミットが交差する時間。

 一つは過ぎ去ってしまったが。


「間に合い……ましたね」

 約束の時間まで残り三十秒を切るというところだった。

 神に成り代わろうとした愚かな人間は裁きを受け、灰になった。


 それは(・・・)確かな事実だった(・・・・・・・・)




 ““残機1000→999””


「時間です」

 そこに、神代は居た。


「流石ですねぇ。

 まさかたった数十分間で、残機を一つ(・・)減らされてしまうとは」

 神代は頬に笑みを浮かべ、空中に佇んでいた。


「よく頑張りました。

 が、今回は私の勝利、ということで」


 空を仰ぐと、今しがた明るみがさしてきていた空はまた、分厚い雲に覆われる。

 死の雲。

 その雲の降らせる雨は、一滴でも触れれば必ず(・・)死に至る腐蝕を起こす。


「それでは、良い余生を(・・・・・)お過ごしください(・・・・・・・・)

 絶望する面々の目前で、神代は勝ち誇ったように深々とお辞儀をした。


「3……2……1……!」

 カウントダウンと同時に神代は空を見上げる。

 死の雨が王都全域に降り注ぎ始めた。

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