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第四話 ⑥ 本人がそれでいいなら

「記憶を取り戻さなくちゃいけないってのは分かったけどさ、

 シァトナ遺跡に向かう馬車の中で言ってた、世界を壊す云々とはどうかかわってくるんだ?」


 早々に肉を食べきり残った小皿の豆を摘まみながら、俺はソフィに話しかける。


「あ、その話は今しないでください」


 ぴしっと指を立てて言う。顔がマジだ。

 理由は聞かない方が良いのだろうか。

 

 口を押さえて、厨房の方を気にしながら小声で続ける。

「さっき千鶴さんが言ってた陰謀論みたいな話も、この話も……

 なるべくここではしないように気を付けてください。

 多分これから話を聞かされることが多くなると思うけど、まともに取り合わないように」


 言われるまでもなくそんな話は取り合うつもりは無いのだが……

 その念の押し方に違和感を覚える。

 

 まるでソフィの言う事と、千鶴さんの言う陰謀論が同じ話題であるような。

 ……思い返せば、ソフィが馬車の中で言っていたことも常識的に考えれば陰謀論でしかないわけで。

 そっちは俺に信じて欲しいという癖に、千鶴さんの言うことは出鱈目だという。

 

 ……分からなくなってきた。

 魔王城の幹部は心優しくて仲が良く、世界のために働いている。

 みたいなのは明らかにイメージ戦略のための嘘に聞こえたんだけどな。

 

 

「まぁでも、記憶を取り戻した後の指針が心配なのはわかります。

 今は……そう。先輩の記憶を取り戻さないと世界がヤバいっていう認識でいいですから」


「……ふざけてるのか?」


 なんだよ世界がヤバいって。もっと他になんかあるだろ。

 世界をぶっ壊してもらいます、みたいな事言ってたしこっちがヤバくしてんじゃねーのか?


「いえ、ふざけてません。

 確かにちょっと大雑把すぎる説明なのは自覚してますけど……

 とにかく先輩はただのそこらにいる冒険者なんかじゃなかったんです。

 なんなら魔王軍にマークされてるくらいなんですから……」


 小声でソフィは続ける。


 いや、魔王軍にマークされてるは大袈裟すぎるだろ。

 そいつらどんだけ暇なんだって話になる。

 冗談で言ってるのか、本当にそんな冗談みたいな状況なのか。

 ……しかし一人の人間の記憶ごときでそう変わるものかね。

 

 色々疑問はあるが、聞かれるとまずいのかこれ以上説明をしてくれる様子は無いようで。

 もやもやとしたものを抱えながら俺は箸を進めた。



 最後の豆が無くなった。

 プレートを持って立ち上がる。


「それ、厨房まで持ってってあげてくれますか?」

 サラダをかき集めながら、ソフィはこちらを見上げて言った。

 了解、と呟く。


 厨房は、カウンター席の奥の扉から行くらしい。


 テーブルから離れて、先ほどの水差しが置いてあるカウンターの裏に回り込んだ。


 少し開けづらいが、何とか片手でプレートを持って扉を開ける。


 

「これ、おいしかったです。どうもごちそうさまでし……」


 ……た。

 

 簡素な造りの厨房。

 

 原始的なグリルやオーブンの類が置いてあり、ここでステーキを焼いたのだろうと想像がつく。

 食料を入れるための箱があり、食器棚や流し台がそろう良いキッチンだ。

 

 ……なんてキッチンの内装を見て言葉を失ったのではない。


 キッチンの中央には、

 膝を抱えるように屈みこみ、肉の切れ端を片手で差し出した格好のまま固まっている千鶴さんが、こちらを見上げていた。

 そしてその目線の先には……


 白くて長い毛を持ちゾンビのような見た目の、見覚えのある獣がはぁはぁと口で息をしていた。


「あの、これは、ちがくて……」

 何が違うんだ。


 固まる千鶴さんとは対照的に、白くて長い毛を持つゾンビのような犬……イズは差し出された肉をもしゃもしゃと咀嚼し出した。


 俺は思わず振り返る。

 幸いソフィはこちらには目もくれず、もくもくと食事をしているようだ。


 視線を戻すと、いつの間にか千鶴さんが目の前に立っていた。

 無言で扉を閉め、俺の手を掴んで厨房の奥まで引っ張っていく。


「分かってる。なんで厨房で動物なんか飼ってんだって言いたいんでしょ」

 違いますが。

「わかってるわよ。でもこの子、かわいいじゃない。

 いつの間にかこの厨房に入ってきてたみたいで……」

 理由がソフィと一緒だ。

 

「お願いだから、ソフィアには内緒にして。

 あの子固いから、絶対うちじゃ飼えないって言い出すわ」


 お願い、お願いと千鶴さんは繰り返す。

 俺はどうすればいいんだ。


 と、机の上に置かれた買い物袋に目が行った。

 多分ソフィは、イズをそれに入れてるのをすっかり忘れて、そのまま千鶴さんに渡したんだな。

 そういえばイズの事はどうしたんだろうと思っていたのだけど……


 何やってんだよ。

 おかげで話がややこしくなったじゃねーか。


「分かりましたよ。ソフィには言いませんって。

 ……でも、ここにいたらバレちゃうのは時間の問題じゃないですか」

「そうよね。どうしたらいいかしら」


 急におろおろとし出す千鶴さん。

 本当にポンコツだ。


「ここ……ゴミ捨てとかどうしてるんですか」

「ゴミ?ゴミは一旦この……足元の小さなくずかごに捨ててから、まとめてこの部屋の外にある大きなゴミ箱に写してるけど」

 

 お、これならいけそうだ。

「その中に入れておくってのはどうですか?」


 俺の提案に、千鶴さんは怪訝な表情をする。

「……何?佐伯先輩ってキュートアグレッションに行動を支配されてる感じの人?」


「違います。人生で一度もハムスターを握りつぶしたいなんて思ったことありません。

 ……多分そいつにはその方が良いと思うんですよ」


 見れば、イズは咀嚼した肉を吐き出しているところだった。

 どうやらお口に召さなかったらしい。


 遺跡で見ていた感じ、この子は普通の食べ物をあまり好まず、より強い匂いを放つ腐った食べ物を好む傾向があるようだった。


「まぁ……一回ゴミ箱まで連れて行けば分かると思いますよ。多分喜んで入っていくんじゃないですか」


 千鶴さんは眉を潜めたものの、そこまで言うならと素直に従ってくれた。

 イズのわきの下に手を入れて、ひょいと持ち上げる。


 厨房のさらに奥にはまた一つ扉があり、そのうちの一つが調理で出たごみの類をまとめておく部屋へとつながっているようだった。

 

 そこにある大きなゴミ箱を開くと……

 やはり俺の予想通り、イズは飛び上がってその中へと入っていった。

 

 殆ど骨だけなった尻尾を、嬉しそうにぴこぴこと振っている。


「あら、そこがいいの。良かったわねぇ」

 もう顔が緩み切っている。

 ソフィといいこの人といい、あまりに動物に弱すぎる。

 

 生ごみのにおいのするでっかいゴミ箱の中で、ゾンビのような見た目の白ロン毛犬がはしゃいでいる。

 何度見ても全然かわいくない。


「ゴミ捨ての当番は自分がやるってソフィに言えば、それで解決なんじゃないですか。

 こんな所、ゴミ捨て以外の用事で来ることは無いでしょうし」


「佐伯くん……やっぱり頭いいわね。お父様と小難しい話してただけあるわ」

 褒められてしまった。

 

 正直悪い気はしないが……罪悪感があるな。

 この後全然ソフィにこのことバラすつもりなんだけど。

 まぁ本人が嬉しそうだしいっか。


「でも、ゴミ箱にそのまま住むってのは流石にちょっとかわいそうだから……

 後でお家を作ってあげようかしら。居心地のいいやつをね、きっと気に入るわ」


 なんか楽しそう未来の展望を語っている。

 まぁ、どうぞご勝手に。


 二人そろってゴミ捨て部屋から出てきたのをがっつりソフィに見られたときは流石に慌てたが、特に何も言及されること無く終わった。


 千鶴さんは必要以上にキョドっていたが、ソフィが気にしている様子はなかった。

 もしかしたら何かを察していたのかもしれない。

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