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第四話 ④ 十二年かかります、納期は一週間です

 俺自身の意思で、記憶を消してる……?

「それは、たまたま何かのはずみで記憶が消えちゃったとか……

 誰かに記憶を消されたとかじゃなくてか」

「そうです。先輩の意思です」

 

 そうなると話が変わってくるな。


「じゃあ……それには何かしらの思惑があるってことになるな」

「そうなんでしょうね」

 

 そうなんでしょうねって……

 あまりにも軽い調子で言う。


「その理由までは知らないのか」

「そうせざるを得なかった理由くらいは分かりますけど……真意までは。

 私はあくまで指示に従ってるだけですから」 


 ……指示?


「先輩は私の指示に従うのが不安みたいですけど、

 元をたどれば私だって先輩からの指示に従ってるだけなんですからね。

 私だって不安です」


 先輩からの指示、ということは……

 過去の俺がソフィに指示を残していて、その指示に従ってソフィが今、俺に指示を出している……?

 頭がこんがらがってきた。


「あれ、これ美味しい……」

 急に、話の流れとは全く関係ない事を言い出すソフィ。

 目を見開いてコップの水を見つめている。


「……そうだよな。なんかそれ、妙に美味いんだよ」

 自分の喉が渇いているせいかと思っていたが、やっぱりおいしいらしい。

 いや、そんなことはどうでも良くて。


「……二年前のあの日、

 家が燃えてお父さんに会えなくなって、

 先輩も居なくなって。

 残されたものが指示の書かれた紙切れ一枚。

 正確にはその燃えかすの灰の入った小瓶が一本」


 コップを両手で回しながらソフィは続けた。

 

 前半の話はさっき聞いたな。

 確か、魔王軍の襲撃によって家が燃えてしまったらしい。

 だからソフィは今、ここに居候しているんだったな。


 あれ?

 でも千鶴さんによると、ソフィの思い人がどうこうみたいな話をしていた気もするが……


「聞きたいんだけど……その場にはソフィとお父さんと、俺の他に誰かいなかったのか?」


 尋ねてから、もっと遠回しに訊いた方が良かっただろうかと反省する。


 幸い特に何を察したわけでもないようで、ソフィは首をかしげて言う。


「他……茂呂(もろ)さんの事ですか?

 小さいころからお世話になってるお手伝いさんですけど……

 なんで知ってるんですか?

 あと、私はその時居合わせてませんよ」


 誰だそれ。急に日本人の名前が出て来た。

 でもそれなら、思い人云々の話はどこに行ったんだ?

 

 考え込んでしまうが、ソフィは気にせず話を続けた。

「とにかく。

 それで残された父からの指示書には、

 “佐伯君が帰ってきたらまず記憶を取り戻すことを最優先に動け”

 って書いてあるんです」


 お父さんにも佐伯君って呼ばれてたのか。ちょっと恥ずかしい。 

 いや、そんな事より。


「記憶は意図的に消したはずなのに、今度は記憶を取り戻せって指示が出てるのか?

 なら何でわざわざ一回消したんだ」


 正直それだけだと意味が分からないんだけど。


「私もそれは思いました。でもそれもおそらく、取り戻せば分かることなんでしょうね」

 

 結局はそれか。しかし先が見通せないというのはどうも不安になる。

 確かに記憶を失ったままだというのは嫌だが、単にそれだけでは無いようだ。

 記憶を取り戻さねばならない明確な目的、というのがあるらしい。


「それで……記憶を取り戻すってのはどうすればいいんだ?

 精神科医に掛かるとか、セラピーか何かを受けるとか」


 想像する限りだとそれくらいしか思いつかないけども。


「それについても指示はあるんですけど……

 正直者の先輩には具体的な方法は一切教えられないです。

 リェルド高等魔術院にいる父の旧友にコンタクトをとれ、とだけ。でも……」


 一度言葉を切り、悔しそうに唇の端をゆがめる。


「このメッセージに気づくのが遅くて、その時にはもう等級位を剥奪されてたんです。

 だから未だにその人に会えてなくて」


 んー。……分からん。

 謎の固有名詞と、論理の飛躍。


 そのなんとか高等魔術院にいる人が、俺の記憶を取り戻してくれるという事だろうか。

 そういう技術を持っているとか、スキルでそういう事が出来るとか?

 それにその“等級位”とやらの名前を聞くのは今日で二度目なのだけど、

 結局なんの事なのか全くわかっていない。


「で、それが剥奪されてるとなんで旧友さんにコンタクトが取れないんだ?」


 説明を求めると、ソフィは少し考えをまとめるように思案してから口を開いた。


「えとですね。

 等級位って言うのは、冒険者の身分証明に使われる身分証みたいなものです。

 問題になってくるのがその級位によるフィールド制限で……

 実力のない人は、危険な地帯には入れませんよーっていう制限がかかる制度ですね」

 

 なるほど。

 普通に合理的な制度だな。

 外に行けば簡単に人を殺せるモンスターがうろうろしているのだから、

 そのくらいはしないと危なくてしょうがないだろう。

 運転免許を取らないと車を運転してはならない、というのと大差ない。


 あ、でもそういう事か。


「なるほどな。

 そのなんとか高等魔術院とやらが危ない場所にあるから、

 ソフィの実力では行けないって訳か。

 それは分かったけど、他に方法は無かったのか? 手紙を出してみるとか……」


「それはもうやりました。

 生活を切り詰めて、二回もたっかい郵送料を払って送ったのに……

 返事は無かったんです。

 二度目の手紙からはもう半年以上経ってるのに」


「それは……なんで?」

「分かりません。

 小娘の言う事なんて聞くに値しないと思ってるのか、

 そもそもあそこまで手紙が届いてないか」


 手紙が届かないなんてこともあるのか。現代なら割と大問題になりそうな気もするが。

 いくら何でも杜撰すぎる……と一瞬思ったが、それほどに危険な地帯なんだろうな。


「とにかく。

 リェルド高等魔術院のあるガルド領に入るには、

 パーティの半数が銀等級以上である必要があるんです。

 これが結構大変な規定で、

 本当なら先輩が帰ってくる前にその人に会っておきたかったんですけどね。

 結果は駄目でした」


 なるほどな。

 

 記憶を取り戻すためにソフィのお父さんの旧友に力を貸してもらう必要があって、

 その人に会うために高等魔術院とやらに行く必要があって、

 そこに行くためにパーティの過半数が銀等級以上である必要があると。


 つまり俺が銀等級とやらになれば全て芋づる式に解決するということになる。

 俺が銀等級になれば、ソフィも一緒にそこへ行けることになる。

 そう考えればやることは至極簡単だ。




「で、銀等級ってのはどんなもんなんだ? それにさえなれば全部うまくいくみたいだけど」

 

「ギルドが認定する等級位は、

 白金、金、銀、銅、鋼の五段階です。

 その下には等級を持たない冒険者達がいます。

 で、現在はそれらが全体の八割を占めるって言われてますね」


 となると……

「そもそも等級位ってのは、上位二割の冒険者の中のランク付けってことか」


 ソフィは頷く。

 いきなり不穏な空気になってきたな。


「この等級位は努力だけじゃなくて才能が左右することが多いので、

 個人差があって一概には言えないんですが……

 平凡な人間が適切な努力をすれば、三年で鋼等級まで行けるって言われてますね」


 三年で鋼等級。


「銅等級はそれと同等の時間、

 銀等級はその倍かかるって言われてます。

 金等級以上は……流石に平凡な人間には無理です」


「というと、銀等級まで行くのに……」

「12年。データも何もない言い伝えですけどね」

 すました顔で言う。


 何を言ってるのか分かってんのかこの娘は。


「……じゃあ俺は、これから十二年間ダンジョンに籠らないといけないってことか?」

「まさか。これは平凡な人間、

 つまりCランク相当の実力を持った冒険者の話ですよ。

 先輩みたいな能力値Fランクの人間なんて、

 いくら頑張ったって一生鋼等級にも上がれないですって」

 

 ばっさりと切り捨てられた。


「それと、私達には時間が無いんです。予定より先輩の転移が遅かったせいで、

 もう残り時間は二週間ちょっとしかありません。

 だから……先輩が銀等級に上がるのはあと一週間も待ってられないです」


 は?

 数秒前に言ったことにがっつり矛盾している。

 十二年かかるところを?一週間で?

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