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第四話 ② 衝撃の()不都合な世界の真実

「あの……ソフィからはここで寝床を貸してもらってるって聞いたんですけど。

 お二人はどういう関係なんですか……?」


 先ほどから気になっていたことを尋ねる。


 千鶴さんは見た目からして、ソフィよりは年上にしてもせいぜい二十代前半という感じだ。

 ソフィに姉がいるのならそのくらいでもおかしくはないが、そういう口ぶりではなかった。

 学校の先輩とかにしては少し年上すぎるし、親戚とかが妥当な所だろうか。

 あと、この歳で既に店を持っているというのも気になる。


「ソフィアとの関係ね……なんなのかしら。

 居候してもらってはいるけど、他に何の関係があったとかでもないのよね。

 強いて言うならソフィアのお父様にお世話になってたから、

 その恩を返す……みたいな?」


 やっぱ良く分かんない、と千鶴さんは付け足した。

 

 少なくとも血のつながりがあったとかではないようだ。


「ソフィのお父さんとは仲が良かったんですか。それ繋がりでソフィとも……」

「仲が良かったかと言われると良く分かんないけど、

 とにかく一方的にお世話になってたのよね。

 その恩があったから、ソフィアの家が燃えちゃったときに……」


 そこまで言って千鶴さんは言葉を切った。

 俺が声を出して驚いてしまったからだ。


「そうよ。それこそ二年前の魔王軍襲撃の件でソフィアの家が燃えちゃって、

 あの子はお父様に頼れなくなって……思い人も亡くして。

 賠償だのなんだのをしてたら、生活出来ないほどになっちゃったらしいのね。

 だからこうして今はここで暮らしてるんだけど」


 情報量が多い。

 魔王軍襲撃、というと二年前にはここでも魔王軍との戦争が行われていたという事なのだろうか。


 そんな素振りは微塵も見せなかったが、ソフィは相当な被害に遭っていたようだ。

 二年前となるとまだまだ子供だろうに……

 だからソフィは、今の体勢がゲームのように消費されていることに苦言を呈していたのだろうか。

 

 ゲーム感覚で魔王だの戦闘だのとはしゃいでいたが、それが決して許されざる行為である事は間違いないわけで。

 こんなにも近くにその被害者がいるとなると嫌でも背筋が伸びるな。

 ソフィ自身そのせいで家や思い人を失ったというのだから……

 

 

 ……というか、思い人って言ったよな?


 ちょっと気になる話題だけど……流石に軽い気持ちで触れられないよな。

 戦争で失った思い人の話をほじくり返されるとか最悪すぎる。


 とりあえず千鶴さんはソフィのお父さんに世話になっていただけの他人、

 という理解でいいのだろうか。


「そういえば、あの子がギルドに行くなんて珍しい気がするんだけど……今日は何してたの?」

 千鶴さんは当然のように話を続ける。

 そんな事よりソフィの思い人とやらの方が気になるんだけど。


 色々聞きたいことはあるのに、質問をされてしまったもんだから俺は答えざるを得ない。


『スィレートにある、シァトナ遺跡に行きました。』

 スキルが反応して、勝手に口が動く。

 うろ覚えの地名を正確に答えてくれるのは助かるが、空気を読んでくれ。


「遺跡に?」

 千鶴さんは怪訝な表情をする。


「そうですね。俺のスキルの効果を試すーみたいなこと言って連れてかれました」

 俺の返答を聞いて、はぁ……と大きなため息を吐く。


「そう……。

 ああいう危険な事から離れて、

 ようやく落ち着いた暮らしに慣れてきたころだと思ってたのに」


 危険な事。

 やっぱり冒険職ってそういう認識なのか。

 まぁそうだよな。女の子が暗い洞窟の中で気持ちの悪い怪物と戦うなんてどう考えても危ない。

 深夜のコンビニバイトでさえ忌避されるというのに。


「等級位剥奪の件、ソフィアは悔しがってたけど、

 わたしはちょっとほっとしてたのよね。

 今更無理して冒険職なんか……って思ってたから」


 ぶつぶつと独り言を言っている。

 俺の知らない話をされても、どう反応して良いのか分からない。


「でも……冒険職に憧れる理由は分かります。

 世界を救うって、なんかかっこいいじゃないですか」


 場を和ませようと、俺は適当な返事をする。

 

 実際、馬車の中でソフィが言っていた世界を壊すだのなんだのにはちょっと興味を惹かれている。

 そうじゃなきゃわざわざダンジョンなんかに行こうとしない。



「――世界を救うなんて、大きなお世話なのよ」


 冷たい声。

 咄嗟に、何と返せば良いのか思い浮かばなかった。

 自然と静寂が訪れる。


「いや、ごめんなさい。そうよね、佐伯君はここに来たばかりだものね」

 俺が黙ってしまったことを気にしたのか、千鶴さんはそう呟いた。


「どういうことですか? 聞いていい事なのかは分からないんですけど……」

「そうね……。冒険者の最終目標って、魔王を倒して平和をもたらすことだって言われてるじゃない?」


 諭すように、千鶴さんはゆっくりと語り出す。


「そうですね、聞きました。転移して来たときに、王都で。

 魔王軍は今、魔物を統率して周囲の国々と戦争をしながら支配を広げようとしてるって……」


 王都を出た後に見た、おびただしい数の墓標を思い出す。

 見ただけで吐き気を催すほどの生々しさだった。


「それは確かに事実。

 でも、だからといって魔王を倒せばこの世界に平和が戻る……

 なんて単純な構造じゃないのよ」


 ……そうか?

 悪の総大将を倒すと世界に平和が戻る、なんて簡単な話ではないのは理解できるが、それでも……


「すべてが解決するとは流石に思いませんけど、

 少なくとも一つの大きな問題は解決して、少しでも平和に近づくんじゃないですか」


 一つの目標として掲げられる分には問題は無いと思うが。


 例えば脱炭素をしたところで世界の全ての人が救われるとは思わないが、

 確実に一つの大きな問題を解決した事にはなるだろう。


 魔王だって諸悪の根源とまでは言わないが、

 周囲の国と戦争をしている厄介な存在だというのは事実なわけだし。


「平和……そうね。

 それを言うなら二十余年前、既に一度この世界には平和が訪れてる。

 この地に君臨していた魔王を初代勇者が退治して、

 民衆たちは魔物たちの支配に怯えること無く生活できるようになったの」


 既に初代の魔王は倒されてる?

 ……となると今の魔王は二代目ということになるのだろうか。

 今日ここに来たばっかりだから仕方ないとはいえ、全然知らなかった。


「でもそれがもたらしたのは、膨大な人数の失業と税収減による圧倒的な国力の低下。

 あの時代はもっと今よりも冒険者産業が盛んだったから、

 その人口の大半が目的を失って路頭に迷うことになったの」


 冒険者が失業する……か。確かに言われてみればそうなのか?

 冒険者は人類の敵である魔王の討伐を目標に鍛錬して、

 その過程でクエストやらなんやらを受けて生活してたわけだから……

 その根源が無くなれば仕事を失う訳か。


 そうなると、国家としてはマズすぎる状況だな。

 バブル崩壊と似たようなものなのだろうか。

 戦争の特需に頼り切りだと、いつか困ることになるというのは自明のはずなのだけど。


「それまで売れていた防具や武器、魔道具の類の価値は急落して、

 商人のほとんどが再起不能なレベルのダメージを受けたの。

 人口のほとんどが急激に貧しくなって、

 その年の孤児院は例年の十倍もの子供を受け入れなければならなくなったって言われてる」


 思ったより深刻だな。

 子供が育てられなくなるレベルの不況って、想像もできない。


「でも……いつか魔王が倒されるなんて誰でも分かる事じゃないですか。

 行政はそれに備えておかなかったんですか?」

「それがね、初代勇者の成長スピードが速すぎたせいで、

 備えようにも備えられなかったのよ。

 実際、転移して来てから二年足らずで魔王を倒してるわけだしね」


 ……なるほど。

 予言者でもない限り、その後の経済を考えるにはまだ早いと誰もが思っていたわけだ。


「国家が束になってかかっても苦戦していた相手が、

 勇者を含むたった数人の手によって二年足らずで倒されるなんて、

 普通想像しないでしょ?

 気が付いたころにはもう間に合わなくて……もうボロボロってわけ」


「……一番の戦犯は、勇者本人って訳ですか」

「言い方は悪いけどね。

 ただ、もちろんダメージを受けたところもあれば相対的に豊かになった国もあるの。

 単純に、冒険者産業にはあまり力を入れてなかったところね」


 千鶴さんは作業の手を止めずに続ける。

 てか、いつまで出てくるんだその箱。


 さっきからずっと箱を開けては中からまた箱を取り出して、を繰り返しているのだが……

 よく見ると、箱のサイズがだんだん大きくなっているのだ。

 最初はせいぜい両手で抱える程度だったのに、

 いつの間にかテーブル一杯の大きさになっている。


 ちょっとずつ大きくなっているもんだから、気づくのが遅れた。



「国力に差が生まれれば、そこにいざこざが生まれて、やがて戦争に発達する。

 やってる事は魔王が君臨していた時代と大差ないのよね」


 なるほど。確かに深刻だな。

 共通の敵がいなくなった途端に争い出す。なんとも救いようがない。


 人間の業の深さを感じて憂鬱になっていると……

 ここからが本番だと言わんばかりに、千鶴さんは声のトーンを上げた。


「そこで王国の上層部が考え出したのが、架空の魔王を立てようって言う計画。

 通称“偽 の 地獄(フェイクヘル)”ね」


 ……は?

 架空の……なんだって?

 あとその中二クサい名前は何なんだ。

 思わず言葉を失う俺にかまわず、千鶴さんは続ける。


「全ての原因は、魔王が倒されたことにあるってのは分かったでしょ。

 だから、架空の魔王を復活させてしまえば万事解決するはずだ!っていう理論。

 今まで通り冒険者には魔王討伐を目指してもらって、

 その過程で得られた富は国家が吸い上げるの。

 これで市場は元通りになって、

 魔王軍という存在が人間同士で争いを行う事の抑止につながるわけ」

 

 最適な政策かどうかは置いておいて、確かに理には適っている……のか?

 魔王の居たころの体勢が理想だったのであれば、それに戻すことで均衡を保つ。

 魔王の存在によるデメリットよりも、それがもたらすメリットを取ったという事だろうか。

 そんな大それた、詐欺まがいの事が今も行われているというのか?


「だから、この王国の上層部と魔王軍は裏で繋がってるのよ。

 冒険者産業が盛り上がりつつも、

 魔王が倒されないように冒険者たちの勢力をコントロールしてるの。

 そのついでに仲の悪い隣国には魔王軍名義で戦争をすることで、

 国力を削ってフェニキア王国が優位に立てるようにして……」


 早口でまくし立てる千鶴さん。

 急に胡散臭い話になってきた。

 なんかそれっていわゆる陰謀論のような気がするのだけど……


「また変な事吹き込もうとして……」


 入り口から声がした。

 振り向くと、そこにはトートバッグを肩に下げたソフィが立っていた。

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