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第二十三話 ② 先代勇者の死に際

 やや遅めの朝食をとった後は、目を付けていた服屋へ向かった。

 目当ては防寒具なのだが、ソフィはやたらとこの服がかわいいあの服がかわいいと、ことあるごとに立ち止まって物色していた。


「ほら、これとか。ね、かわいくないですか?」

 ソフィは今日何度目かもわからないセリフを言ってくる。


「まぁ、似合ってるんじゃないか」

 と、俺はこれまた何度目か分からない平凡な感想を述べる。


「もー、さっきからそればっかじゃないですか。

 何着ても似合ってるーとか、かわいいねーしか言わないんじゃ参考になんないです」


 ソフィは頬を膨らませている。

 なんだ、正直な感想を言っているだけなのに。面倒だな。

 いっそのこと正直者のスキルを使って、

 より具体的に感想を言ったりすることはできないのだろうか。


 俺の感情を感知して勝手にしゃべるスキルなんだから、それぐらいはしてほしいものだ。

 昔から買い物の面白さというものがよく分からない俺は、

 きゃいきゃい言いながら売り場を飛び回るソフィの気が知れない。


 かわいい女の子が服を変えて見せてくる分には眼福で良いのだけど、

 感想を述べる行為というのは頭を使うので実に困る。

 結局一時間以上も悩んだ末に、ソフィは買う服を決めていた。


「ほら、先輩も選んでください」

 言って、俺が持っていたソフィの服を代わりに持ってくれた。

 とは言っても、どれにしようか。

 日本にいたころも、下は黒で上は白という服装でしか外を歩いたことがない。


「じゃ……これで」

 少し売り場を歩いてみた後、近場にかかっていた適当な服を選んだ。

「もう決めたんですか?」

 ソフィはのぞきこんでくる。


「別にこだわりがあるわけじゃないしな」

 防寒着なのでサイズ感は大体あっていれば大丈夫だ。

「でも……試着ぐらいはしといたほうがいいんじゃないですか?」


 おしゃれな店なだけあって、わざわざ試着室みたいなものが存在する。

 先ほどはソフィのせいでその前で合計一時間ほど立たされた。

 あの手持無沙汰な感じは何物にも代えがたいつらさがある。


 誰もそんなこと気にしていない、というのは分かっているのだが、

 仮にも女性が着替えをする場所の前で一人ぽつんと立っているのは気まずい。

 どうしても何か悪い事をしている気分になる。

 もちろん、自意識過剰なのはわかっているのけど。


「その辛さ(つらさ)をソフィには味わってほしくないんだ……」

 俺は適当なことを言ってソフィの腕から服を奪い取って持つ。

 ソフィは良く分かっていないようだったが、二人で会計に向かった。


 結局ソフィが余分に一枚服を多く買ったことで、ほとんど手持ちは無くなってしまった。


 俺たちは買ったばかりの服を着て、街を出る。

 やはり一枚重ねると暖かい。

 一度もデュオとリズさんの顔を見なかったところをみると、やはり先に出発しているようだ。



「今日中には着くんだよな?」

 俺は歩きながらソフィに尋ねる。

「そうですね。

 ちょっと予定より遅くなっちゃいましたけど、まぁ余裕で着くと思います」


 足取りは軽く、弾むように歩いている。

 予定より遅れたのはソフィが服選びに時間をかけていたせいなのだが、悪びれる様子はない。

 今街を出たばかりなのに、もうすでに太陽は真上に昇っている。

 ちょっと歩いたらもう昼飯の時間だ。


「でも……なんやかんやでガルドまで来ちゃったけどさ。

 確かこのままじゃガルドに入れないんじゃなかったか」


「大丈夫です。そのためにゆっくり買い物してたんですから」

 うろたえることもなくソフィは言う。

 考えがあるらしい。


 しかし今は教えてくれないようで、そのままソフィは話題を変えた。

 曰く、今教えると正直者が足をひっぱるかもしれないからだそうだ。

 つくづく足をひっぱるスキルだな。


 ◇ ◇ ◇


 肌寒い空気の中、ひたすらに歩き続ける。

 遠くの方に何か大きな建物が見えたのは、三時間ほど経ったころだろうか。


「あれが……ガルドか。ようやく見えてきたな」


 ここまで長かった。

 牢屋に監禁されているのを死ぬ思いで逃げだして、王都を出たあの日から四日間歩きどおし。

 ここまで歩いてようやく、最終目的地に。


「いえ、あれはガルドじゃなくて魔王城です」

 

 なーんだ、あれはガルドじゃないのか。早とちりしちゃったよ。

 って……え?


「今、魔王城って言った?」

 ソフィは当然のように頷く。

「言いませんでしたっけ? ガルドは魔王城に最も近い街なんですよ」

「それは……聞いたけど」


 俺のイメージでは、魔王城というものは世界の果てにあって、

 ガルドはその手前にある街……という感じだったのだが。


「なんで王都、アルネ、ルティス、魔王城、ガルドの順なんだよ。

 普通魔王城は最後に来るもんだろ」

「なんでと言われましても……

 もともとはただの土地に先代魔王が勝手に魔王城を建築しただけですし」

「その先代魔王様ももう少し考えてやれよ。ガルドの人たちがかわいそうだろ」

「まぁ……それはそうですね。

 平和に暮らしてたら、ある日突然王都までの道中に、

 バカでかい悪の拠点が建っちゃったのは、流石に不憫かもしれないです」


 マジでかわいそうだなガルドの人達。

 王都に行くために魔王城を通らないといけないとか、色々やりづらいだろう。


「で、これからあの魔王城に向かって進むのか?」

「そうですよ。流石にその中には入らないですけど、ちょっと魔王城をよけて歩いていきます」


 ラスボスの拠点の近くをそんな軽い気持ちで素通りして行っていいものなのか。


「その……危なくないのか?」

「大丈夫です。

 ある程度の距離を保ってれば基本的には何もしてきません。

 その証拠に、商人とかも普通にここを通ってますし」


 なめ腐られてるな、魔王城。

 それでいて現勇者でも攻略できないほどの魔城なんだから良くわからない。



 城に近づいていくうちに、城の全貌が見えてくる。


「でけーな……」


 遠くで見ていた時も思ったが、あまりにも大きい。

 城というより、一つの山……いや、島のレベルだ。

 とにかく大きい。


「大きいですよね。

 この中を歩いて攻略しなきゃいけないんですから大変です。

 戦う以前に魔王のところまでたどり着くのにどれだけの時間がかかることやら」


 ソフィはため息交じりに言う。

 本当だよ。こりゃ勇者も苦労するわけだ。


「そういえば、ソフィが魔王とか勇者の話をするときって頭に“現”とか、“先代”とかってつけるけど……そこら辺の話って、千鶴さんからしか聞いたこと無いんだよな。でもあれって、やっぱりデマでも何でもないんだよな?」


 俺は前から気になっていたことを尋ねた。

 この世界では常識のように語られるが、俺は今の勇者の姿だって最近知ったばかりだ。


「そうですよ。私は千鶴さんほど歴史に詳しいわけでは無いですけど」

「そっか……。

 でも先代の魔王とは違って、今居るのは偽物なんだろ?

 公共事業で運営しているにしてはなかなか大変そうだな。こんだけ広いと」

「そうですね。維持費もバカにならないでしょうし……。

 血税が使われてるのは間違いないです」


 なんか嫌な話だけど……

 そのおかげで経済が潤って、俺たちは美味しいご飯が食べられているというのだから、一概には批判できない。


「そういや、勇者にも先代が居るんだよな? その方は……もうお歳で引退したとかなのか」

 ふと浮かんだ疑問を口にすると、ソフィは困ったように眉を寄せて答える。


「先代勇者はもう、この世界にいないです」


 そうなのか。

 初代魔王が倒されたのって確か二十五年前くらいだー、

 って千鶴さんが言ってたから、てっきりまだご存命なのかと思っていた。


「寿命……にしては流石に早すぎだよな。病気とか……暗殺とか?」

「いえ、どちらでもありません。かといって、幸せな死に方って訳でもなかったそうですけど」

「ソフィは知ってるのか?」

「はい、結構有名な話ですから」

 

 勇者ともなると、その死に方も有名な話になるらしい。

 プライベートもあったもんじゃないな。


 しかし気にならない事もない。

 先代勇者の死に際について。


「先代勇者は自らがもたらした平和な世界で、

 同じパーティのメンバーの男と結婚をするんです。

 そして彼女は、その二人の間に出来た子供が生まれた時、死んだと言われています」


 現勇者だけでなく、先代も女性勇者だったようだ。

 平和な世界で結婚して、子供が出来て……

 その時は幸せだったろうに……子供が生まれた時に亡くなったと。


「先代勇者が持っていたスキルって知ってますか?」

 ソフィは唐突に俺に訊いてくる。

 普通に聞いたことがない。首を振ると、ソフィは答えた。


「先代勇者がもっていたスキルは、“不死鳥の加護”なんです」

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