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第一話 ① Fランク評価で人生終了

 本作品は決して陰謀論を助長、肯定、推進する目的で書かれたものではございません。


 陰謀論は例外なく総じてカスです。


「お待たせいたしました、奏瀬(かなせ)様。

 厳正な審査の結果貴方の能力は、“Sランク”と査定させて頂きます!」


 うおぉ!すげぇ!

 なんて、賑やかしのためだけに生まれてきたような、

 モブ達のどよめきは上がらなかった。


 シンプルな造りのこの広間には、俺を含めて二人しか居ないのだからあたりまえだけど。


「ステータスは筋力から魔力まで、

 どの職業に就くにあたっても申し分ない数値ですね。

 ギルドへ行けば職は選び放題でしょう。

 そして肝心の天恵、スキルに関しましても高水準です。

 是非、王国騎士団への入団をご検討ください」


 何処からともなく響いて来る声を聞いて満足そうに頷いたのは、俺の隣に立っていた男。

 今のは俺についての話じゃない。


「よかったな。

 さっきの説明だと、王国騎士団に入れるのってエリートだけなんだろ?」


 奏瀬と呼ばれた男は、清潔感のある夏らしい大きめのTシャツに身を包み、

 自然な黒髪を長めに切りそろえてあった。


 素直に言うと、嫌味のないイケメン。

 この世で最も(タチ)の悪い存在とも言える。


「そうだね。分からないことだらけだけど、

 悪いようにはされなさそうで安心だよ。

 きっと君も……」


 奏瀬は口を噤む。放送がまた始まった。


 期待を込めた目でこちらを見てくるのをなるべく気にしないようにしながら、

 放送に耳を傾ける。



 人に評価を下される瞬間というのは、いつも緊張する。


「はい。それでは次の、佐伯(さえき)様」


 直前の人の評価が高ければ高いほど、

 自分に対する期待とハードルは上がってしまうもので。


「厳正な審査の結果貴方の能力は、」


 それがいかに高かろうと驚きにはならない。

 ましてや、


「……“Fランク”と査定させて頂きます」


 それが最悪の評価だったりすると、本ッ当に目も当てられないものだ。




 この時点では当然、それが仕組まれたこと(・・・・・・・)だという事に気づけるはずもなく。


 俺はただただ絶望するしかなかった。



――――――――――

佐伯 槻

Lv 8

HP 42/42

MP 18/18

ATK 16

DEF 11

MAN 7

STR 12

DEX 18


SKILL 『正直者』

――――――――――

Skill

正直者

質問に対して嘘を吐く事、黙秘する事が出来なくなる。

――――――――――




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 空は見渡す限りの晴天で、空気も澄んでいる。


 太陽だって見上げれば当然のように浮かんでいる。

 上を見上げたまま歩いていれば我が家へ帰れそうな気さえしてくるのだけども。


 ――そんな幻想は、蒼く澄んだ空以外の全て(・・)がぶち壊してくる。


 ほんとに、世界を構成するすべてが。

 夢なら早く覚めてくれよ。


 振り返れば、今しがた追い出された王城が堂々とそびえたっているのが見えた。


 往来を歩く人混みの中に黒髪の人間は殆ど見当たらない。

 というか、たまに動物の顔が混じっていることもある。


 この時点で意味が分からないんだよな。

 異国に来た、とかそういう次元のお話じゃない。


 道の真ん中には御者のいない馬車が走り、

 周りの人間はそれに見向きもせずにおのおの歩いている。


 服の素材一つ取っても、

 化学繊維なんかを身にまとっている人は一人も見当たらず……

 どこか野暮ったい服装の人が多い。

 見逃せないことに剣を腰に下げていたり、頑丈な鎧を身に付けていたり……


 あまりにイメージ通りな魔法使い風の服をまとった人を見かけた時は、

 流石にちょっとテンションが上がってしまった。

 すぐに沢山見かけるようになったので流石に慣れてきたけど。


 そして何より、うるさい。

 ずっと静かな環境にいたからそう感じる……というだけではない気がする。


 なんというか、根本的に文化が違うんだろうな。

 人前だから話すのは憚られるとかそういう気持ちは無いらしく、

 往来で堂々と大声で喋っている。


 本来、こんなに陰湿な気持ちになりながら歩くところではないんだろうけど。


 喧騒に飲まれながら、努力して先ほどの出来事を忘れようと努めていた。

 にもかかわらず、

 あの無感動で早口な放送と、気まずそうな奏瀬の顔が記憶にこびりついてしょうがない。


『ステータスはどれも基準値をかなり下回っており、覚えている技能はゼロ。

 そして通常転移者は必ず、

 “天恵”と呼ばれる飛びぬけた能力をもつスキルが与えられるはずなのですが……

 ええ、これが過去に類を見ないほど弱いです。

 いえ、弱いというより、全く使いものになりません。

 Fランクという評価は妥当だと存じます』


 つい先ほど知り合ったばかりの人の隣で、

 淡々とした口調の声にずっと罵倒され続ける時間。

 あんなにご立派な大広間に人様を呼び出しておいてまでするか? 普通。


 そういうプレイがお好きな人間もいるのかもしれないが、

 少なくとも俺はそういう人種じゃないんだけど。


 辺りは相変わらずにぎやかだが、

 だからと言って静かな横道に逸れてみようとは思えなかった。

 暗くて狭い路地というのはなんだかそれだけで身の危険を感じる。

 

 手に持った宝石付きのペンダントを道行く人に押し売ろうと、

 声を張り上げる商人がいた。

 他方では、自分の敷いたござの上で全く動かずに客を待つ商人もいる。


 対照的だが、活発に動いて品物を売りさばく商人の方が心なしか幸せそうに見える。


『騎士団への入団資格は当然ございません。

 能力の足りない人間を養う義務は当方にはございませんので、

 生きていくためにはご自分で職業に就くことを勧めさせていただきますが……

 そうですね、如何せん能力が著しく低いようですのでほとんど選択肢はございません』


 声の言う事をまとめるに、

 自分たちの都合で俺をここに転移させたのは確かだが、

 無能は要らないから自分で何とかしなさいと、そういう事らしい。


 なんつー暴論なんだ。

 これを国家の事業でやっているというのだから恐ろしい。


 国家相手に訴えるのは流石に分が悪いだろうか。

 そんなことを考えながら聞いていた気がする。


『ですが、気を落とすことは有りません。

 これはあくまで戦闘に関する能力が低く冒険者に適性が無かった、

 というだけでございます。

 しかしこれは貴方の左目(・・)を見れば、

 誰でもその情報にアクセスすることが出来るため、

 貴方に能力が無いという事を誤魔化すことは不可能です。

 となればどなたにも雇われる事は無くこのままでは確実に野垂れ死(・・・・)……

 いえ、生活に困るでしょうから、ギルドで職業訓練を受けることをお勧めいたします』

 

 途中で言いかけていた

 ”野垂れ死……“などという物騒なワードを追求しようとすると、

 こちらをガン無視して部屋から追い出そうとしてきた。


 結局それからは奏瀬と話すこともなく違う部屋に通されて、

 多少の説明を受けた後そのまま王城を追い出されることなった。

 三日は食い凌げる程度のはした金だけを渡されて。


 通りの右側を見れば自身を魅せるように舞う織物が売られていたり、

 左側を見れば食材に合わせて装飾が変わる美しい皿が並べられていたり。


 きらびやかな宝石かと思ったら、宝石のようにごつごつした鱗に覆われた魚だったりと、

 そのどれにも見覚えは無く、時間を忘れて見入ってしまいそうだった。


 時間を無駄に過ごすとそれだけ、餓死のタイムリミットが近づいて来る。

 これからどうすればいいんだろうな。

 死にたくはないけど、どうしても何をする気にもなれない。


 喧騒に飲まれながらぼーっと不思議な世界に浸っていると、

 まるで自分はまだ向こうの世界にいて、

 ただ並べられた絵画を見ているだけのような気がしてきて――



 だから始めは、彼女が自分に話しかけているのだと気が付かなかった。



「……聞こえてないんですか?」


 見下ろすと、いつの間にか目の前に少女がいた。

 淡い白髪を肩から下げた少女が、眉を少し寄せてこちらを見上げている。

 

 気付いた瞬間、辺りの音がどっと耳に流れ込んでくるのを感じた。


 辺りの賑やかさに慣れたはずの耳がリセットされたかのようだった。

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