前回エッセイの補足『メッセージ性のない小説は たわいもなくて くだらないのか』
前回投稿したエッセイの感想で『そう読まれるんだ……』と思ったことがいくつかありました。
私は『自分の小説はメッセージ性などなく、ただ、みてみてこれ面白いでしょ、みたいなYouTubeのおもしろ動画のようなものだ』と書きました。
それに対して『YouTube動画って言うと、すしペロ動画みたいなものか、つまりは承認欲求の塊だな』みたいな感想をいただきました。
私はYouTubeのおもしろ動画と言うと、動物おもしろ動画とか、おもしろハプニング動画とか、そういうものを頭に描いてました。
昨今話題になっていることを考えれば、あーなるほどそういうものを想像されるか……。考え及ばなければなりませんでした。
どうもすみません。
また、メッセージ性=テーマだと勘違いされた方もいらっしゃいました。
メッセージ性とテーマは別のものです。YouTubeおもしろ動画で言えば、動物のおもしろ動画を編集しようとか、テンポよくサクサク繋げようとか、ユーモラスな動画に荘厳なクラシック曲とかつけたら面白いんじゃね、みたいな、方向性を決めるものがテーマじゃないでしょうか。
メッセージ性とは『この動画を通じて、こうこうこういうことが伝えたいんだ!』みたいなことだと思います。
何より私が意外だったのは『メッセージ性のないもの=エンタメ』だとか、『くだらないもの』と捉えられてしまったことです。
まあ確かにYouTubeのおもしろ動画はエンタメで、これを例えに使ったのが私の間違いだったとは思いますが──
私は現代詩をやっていました。
現代詩というのはその多くがメッセージ性のないものだと言えると思います。
メッセージ性どころか意味のないものまでたくさんあります。
私の尊敬する生き神様、吉増剛造さんなんて それこそ『見てみて面白いでしょ! こんな文字の並べ方してみたよ!』みたいな、詩作品自体にはメッセージ性の全くないものだと言えると思います。何しろ意味はさっぱりわかりませんから。
でも面白いんです。
その並べられた文字を見て感動すらしてしまうんです。
文字が浮かび上がって宇宙を織りなします。
詩の内容には全くメッセージ性などないのですが、全体が宇宙のメッセージとしてこちらへ 降りかかってくるような気がします。
もちろん吉増剛造さんの詩論などを読むと、詩作品とは違って意味のある内容が書かれていて、私なんかにはさっぱりわからないほど高度なメッセージ性があるのですが。
井坂洋子さんは物語っぽい詩をよく書かれますが、そこにメッセージ性はないと思います。
『こういうことが素晴らしいんだ!』とか『人生に大事なのはこういうこと!』みたいな、そういうことを主張しているようなところはまったく見られず、ただ雨の日の静かな空気のように、読む者を不思議な感覚に包み込んでくれます。
意味はわかるけど、ただ雨に濡れた樹木がそこにあるだけのように、じつは意味などないのかもしれず、それゆえにすべてのことを肯定しているように見えて、そこに押しつけがましいメッセージなどはなく、ただ素っ裸で生きている人間の女性を見ている気分になります。
なんでもいいんだ、生きてるだけで愛しいんだ──そんな気持ちにさせてくれます 。
茨木のりこさんとか石垣りんさんとかは、メッセージ性があるように見えますが、私にはただ自分の感情や認識、あるいは風景を描いているだけに見えます。
自分がいちばんきれいだったときを奪った戦争というものに対する批判とも読めて、じつはただ自分の感情をうたっている、火葬された人間の骨をお箸で拾う姿をただ描いて、ただそれを人間の風景として提示している。
それは『こういうのって、よくない?』ですらない、とても見晴らしのいい、不気味で寂しい風景です。
現在詩はその多くが意味が分からないだけに ただの言葉遊びとして取られてしまうことが多いと思います。
情緒があって、意味のわかることばで書かれている近代詩のほうがよっぽど人気です。
そういう方々にとっては、現代詩とは、くだらない、たわいのないものだと思われているようです。
でも、私は好きなんです。
何かを主張したいのなら、私は直接的な言葉でエッセイを書きます。
もちろん物語にそれを込めるというのもアリだとは思いますが、ただ私はそういう方法はとらないというだけです。
現代詩のように、YouTubeのおもしろ動画のように、なんにもメッセージは添えずにただ、ぽん、と小説を置く。
その小説じたいがメッセージを発することはあるでしょうけど、少なくとも作者の私はべつにメッセージを込めてるつもりはありません。
そういうふうに書かれた小説のほうが、私ごときが思うこと、考えることに従って書かれたものよりも、宇宙のメッセージをそこからモラモラと発生させてくれるはずです。
……あっ。ちなみに私が書いてるのはエンタメですよ!? そこは間違いない。