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27.これで軌道は修正


出発してすぐの災難、これにて一件落着。

用意しておいた解除薬とコルフェが機転を利かせて頑張ってくれたお陰で、なんとかピンチを乗り越えられた。

でも、まだ気がかりなことはある。


「……では、神父殿は昨晩までは呪われてはいなかった。と、ご婦人はおっしゃるのですね?」


「ええ。だから近くにまだ別の人狼がいるかもしれないわね」


その気がかりを私はジルに話すことにした。

私たちを攻撃してきた神父は、昨晩までは普通の人間だったこと。それが、魔物に噛まれて変貌してしまっていた。

彼を襲った別の人狼がまだどこか遠くない場所に潜伏しているかもしれない。


もしかしたら、私が昨夜見た悪夢は予知夢だったのかも。夢の中で神父になった私は、頭からがぶりとやられて死んじゃってた気もするけど。

とにかく、私がコルフェを連れ出したことに気付いた神父は真夜中に一人で教会を出て探しにきていたんだろう。

そして、そのうち森に迷い込んで魔物に襲われた。


(だとしたら、これもある意味私がルートを改変して招いた事件(イベント)ってことだったのかな……嫌な奴だったけどちょっと可哀想だったかしら)


「情報提供感謝します。今から人員を増やしてすぐに魔物を排除しましょう。それと……」


ずたぼろの神父を背負ったジルは私の話に頷いてから、コルフェに視線を合わせるよう屈む。


「君の魔法、素晴らしかったよ。少年。君の名前は?」


「コルフェノールです……」


「そうか。コルフェノール。君は将来、教会騎士になる気はないかい?」


きた。きたきたっ。ジルから直々のスカウトがきた。

何だかんだあったがこれが私の本来の目的だったのよね。二人を出会わせた甲斐があった。ハプニングは結果的に二人を引き合わせてくれた。

元気に頷いて誘いを受けるのよコルフェ。


二つ返事で乗っかっちゃっていいのよ。うまい話がいきなり振られて迷う顔をするのもわかるけど、ここは素直になっていいところ。貴方の将来の師匠だから。安心して鍛えてもらいなさい。


「メイカさん、その……」


ジルを見て私を見てを何回か往復してからまた私に向いて、コルフェはもじもじしている。

返答に困っているというよりは何か言いたそうな彼に、私は首をかしげた。


「どうしたの?」


「メイカさんは……ジルクハルト様みたいなムキムキな男性のほうがスキですか……?」


コルフェはまだ私の気がジルに引かれていると思っているみたい。小さな自分とでっかい目の前の騎士を比べて悲しそうにしていて。

不安そうに整った眉毛を八の字に下げ、ジルには聞こえないように耳元で聞いてきた。


「そうねぇ。ガリガリよりはちょっとくらいあったほうがいいかな。筋肉は。ジルほどはいかなくても細マッチョくらいが私は理想ね。魔法も剣も両方できる強い男がいいかなぁ」


つい具体的に言いすぎてしまった。でもまあ、いいか。

外見から得る最初の印象って大事だし。キャラクター紹介の立ち絵と設定がコルフェというキャラに一目惚れしたきっかけだったから。

少年の未来の姿を思い浮かべて、小さな声で耳打ちをし返す。

コルフェはぴんっ、と糸に引っ張られたように真っ直ぐ背筋を伸ばした。


「ジルクハルト様、僕も騎士になりたいです! 魔法も剣もうまくなってメイカさんを守れるようになりたい!」


「良い返事だ少年。わかった」


めちゃくちゃちょろいぞコルフェ。そんなに単純な子に生んだ覚えはないぞってくらい私に甘々でちょろいぞ。いや、生んでないけどね。

コルフェの言葉は嬉しかった。でも、つい和まされてしまった。扱いに苦労しなさすぎて。


「では、ご婦人。後日あなた方を教会からお迎えにあがりますので、その際はよろしくお願いいたします。ご連絡先を教えて頂けますか?」


コルフェの威勢の良い返事にはジルもにっと歯を見せて爽やかに笑った。

満面の笑みでコルフェと握手をしてから、神父を担ぎ直して私に会釈をする。


コルフェを教会騎士にするための一歩、次期副団長のジルの推薦もとれたし万々歳。

これで私の推しが教会との関わりを断たれて無職になるルート行きは免れた。また繋がれた。

思わず小さくガッツポーズをする私をコルフェは不思議そうに見ていた。そっか。ガッツさんいないからこのポーズ自体この世界には存在しないものね。


「これは嬉しいときにね、やった! ってするポーズよ」


「そうなんですね」


拳をぐっと握って私の動作を真似してみせるコルフェ。

彼と私で拳と拳をコツンと合わせて笑いあった。



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