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20.馬車に揺られて

朝食をとり終えた私とコルフェは、執事さんの指示に従って馬車に乗り込んだ。

ミシュレットさんは借りていた部屋の後片付けをし、宿屋の店主と話をして後から帰ってくるそう。

そんなわけで私たちだけ先に出発した。


馬車に揺られて中心地をよぎり、まもなく村から出るところ。

私の隣に座っているコルフェは、窓から自分の生まれ育った風景を眺めていた。

急に去ることになってしまった故郷を、名残惜しげに青い瞳に映し焼き付けている。


「さみしい?」


「そんなことない……です。これからはメイカさんとご家族と、新しい(うち)で暮らせるから。さみしくはないです。ぜんぜん……」


言葉ではそう言って強がっているけれど、間違いなく寂しいよね。

外の景色を見ながら答えるコルフェは見るからにしょんぼりしていて、出発前の元気はすっかりなくなってしまっている。


両親をなくしてすぐ怪しい神父に引き取られて。

それからまたすぐに私という知らない人間の家に連れていかれることになって。

コルフェの生活環境は数年もしないうちに目まぐるしく変化している。


こんな人生の波瀾万丈、大人だって受け入れるのにだいぶ苦労する状態だ。

寂しくないわけないし、不安じゃないわけもない。

小さいコルフェが負うには色々重すぎるシナリオ展開の真っ最中。


(かわいそうよね。メイカの実家に戻ったら、なにかコルフェを元気づけてあげられることがあるといいんだけどなぁ……)


実家では何があるのか、どんな展開が待っているのかは正直私にもわからない。

なにせモブの家なので。完全に未知の世界だ。

掛ける言葉を考えながら、私は彼の後頭を見詰めながらぼんやりしていた。


そんな時だった。


「もし、そちらの紳士殿。少しお尋ねしたいことがあるのだがよろしいだろうか」


「おや。教会騎士様、いかがなさいましたかな」


馬車がゆっくりと止まり、執事さん以外の男の声が馬車の外から聞こえてきた。

はきはきとした喋り方の人物が、道に現れ執事さんを呼び止めたみたい。誰だろう。

窓を開けてその人物を見、


(……えっ? えぇええええっ?!!!)


目をこすって二度見、思わずもう一回。合計で三度見してしまう。


(知ってる……! 私、この男も知ってるわ……! っていうかジルじゃない!)


執事さんと対話をしていたのは真っ白な鎧を着た体格の良い教会騎士。

健康的にほどよく焼けた肌色に、赤い短髪。瞳は深いグリーン。鼻が大きくて目も切れ長。

特徴的な彼の顔は、この場では初対面だけどとてもよく見知っていた。


フルネームは、ジルクハルト・キデオン。通称ジル。

≪シュテルフスタイン≫初代無印の攻略キャラクターの一人で、続編のⅡでは教会騎士の副団長を務める気さくな筋肉男児。

ゲームのパッケージにも中央にメインで描かれている、超正統派ムキムキイケメンキャラである。




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