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あれ?おかしいな

 「うーん・・・。やっぱり気のせいかなぁ・・?」

 「さっきから何バケツ相手にぶつぶつ言ってんの?」

 裏の井戸で水汲みをしていると、大量のリネンをもったメイド仲間のリーツィアが怪訝な顔して現れた。

 「いやー、最近妙にリシウス殿下と目が合う気がするのよ」

 リネンを広げながらチラりと目線だけ私に流すと、リーツィアは肩をすくめた。

 「気のせいじゃない?ほら、周りにお付きの多い高貴な人って、遠くを見ただけで目が合った気になるじゃない?」

 「それも考えたんだけど、やっぱりちゃんと見てる気がするのよ。先週は目が合った平均回数が2.3回だったのが今週に入ってから、それが6.8回まで爆上がりしたのよ。それに、いつもは見つからないようにこっそり柱の物陰や厩舎の近くの木に寄り添ってるんだけど、ちゃんとその時も目が合ったし。気のせいだと・・・何?その日陰の蟲でも見る顔」

 リーツィアは心底ドン引きしている顔をつくろう事もなく、全力でそれはもう嫌そうな顔をした。正直な奴め。


 「何その平均回数って?普通に引くから。ていうか、普段から何してるわけ!?」

 「えっ?何って密かにリシウス殿下(推し)を愛でてるだけだけど?」

 「いや、それちょっとした恐怖だから・・殿下もあんたが怖くてつい見ちゃうってだけなんじゃ?」

 がーーーーん。

 へー。人ってちゃんとおざなりだけど、がーんって頭の中で聞こえるんだぁ。知らなかったわぁ。何て、どこか遠い意識の中で理解すると、次いで頭を思い切り殴られたようなショックが襲った。

 推しに・・・推しに恐怖を与えてるとな?

 目立たないようにこっそりその麗しいご尊顔を拝し、日陰の身となってひっそりその身のご健勝を祈り続けてきた、この私が実は恐怖の対象だったと!?

 震える!震えるよ!推しに恐怖を与えてるだなんて万死に値する。


 「うん。なんか、ごめん。謝るからやめてその顔」

 よほど絶望に打ちひしがれた顔をしてたのか、リーツィアは怯んで洗濯の手を止めた。

 「そこまで熱い(鬼気迫る)視線で追ってたら、さすがにあたし達みたいな下働きのメイドでも存在に気付くんじゃない?よかったじゃないの。少しは意識(恐怖)してもらえて」

 そう面倒くさそうに私をいなすと、リーツィアは洗濯干しを再開した。

 「・・・」


 私も水汲みを再開すると、さて困ったものだ、と密かにため息を漏らした。

 リシウス殿下(推し)に存在を気付いてもらえたのなら、個人的には純粋に嬉しい。目が合う回数が増えたのは・・お布施をしないとそのうち罰が当たるのでは?と、思うくらい悶えている。が、トレスヴェイン家(暗部)の者が公爵家に紛れ込んでいるのがバレるのは、非常ぉぉぉにまずい。主に魔王()に。

 リシウス殿下とは夜会で何度か会っている。もちろん、今みたく認識阻害の眼鏡なしの正真正銘のご令嬢として、だ。が、万事気付かれないとも限らない。


 しっかし、おかしい。先週あんな(厩舎での)出来事あってから、確かにいつもより警戒するようにはなったけど、特段こちらとしてはアクションを起こしてはないはずだ・・。

 私に意識を向ける理由は何もない。多分。


 「あー。色々な理由付けて平均見つめる時間を4秒から6秒にしたのがいけなかったとか?」

 「ちょっと何言ってるかさっぱり分からないけど、あんたさっきから声漏れてるからね?」

 「・・・」

 あれ?私って実は日陰の蟲だった?教えてよ、マイフレンド。


 ともあれ、しばらくは日課である密かに後を付けてみたり、物陰から愛でるのは止した方が良さそうだ。

 あー。せっかくお側にいるのに。拝めないなんて生殺し。だなんて考えていると、なんの因果か悪戯か、まさか自分がリシウス殿下付きの侍女になるとは、この時の私はそれこそ恐れ多くて夢にも思わなかったのだ。


新しく「殺し屋拾いました」を連載始めました。

そちらもよろしくお願いします。

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