こうしてメイドやってます
どういうことよ?
私も聞きたい。盛大に頭の中クエスチョンだ。
この国の王太子への即位は金印に認められ、捺印出来ることが条件である。おまけに、王さましか押せない大事な印鑑なんでしょ?それ。
それがどっかいっちゃった。あは。
いやいや笑えないから。どーなってんの?危機管理。
本来、王太子の即位は二十歳の誕生日に民衆の目の前で、国へ、国民へ、安寧と幸福へ尽くすことへの誓約書へ印を押せると認められる。
金印に認められず、印を押せないとそこで王位継承権は認められない。過去認められずにそのまま家臣へと降った王子もいたんだとか。
金印さま、好き嫌いがあるんデスカ?
そんな訳で、とーっても大事な金印が紛失してしまった為に、宮中では蜂の巣を突いた大騒ぎが連日行われている。おまけに王さまは意識不明。
もちろん。リシウス殿下の即位も前途不明だ。
第一王子殿下、第二王子殿下共に二十歳前。王太子どころか政は担えない。そうこうしているうちに、はい。出てきました、宰相であらせられるメルソン侯爵閣下さま。
ニーヴェル殿下の祖父である事を笠に宮中でぶいぶい始まったわけよ。
すると比例するように不穏な動きをみせる輩も溢れ始めた。
最近ではニーヴェル殿下の周囲で、あろうことか、金印が紛失したのは立国の賢者さまのご意思でリシウス殿下が王位に相応しくないからだ。と、まぁ、なんともトンチキなこじつけ甚だしい言いがかりを言われたりもしている。
宮中では、幅を利かせ始めたニーヴェル殿下派により、第一王子であるにも関わらず、あまり居心地が良いとはいえない環境に追いやられたリシウス殿下。命の危機も更に増しました。
おいたわしい。
そんでもって世の中ってヤよね。どうして権力争いなんてものが、いつの時代もあるのかしら。
メルソン侯爵家が発言権を持つようになると、それを面白く思わない反対貴族も勿論いるわけで、今まで静観を決め込んでいた貴族達が、なんとなく曖昧だった境界線を、きっぱりはっきりリシウス派、ニーヴェル派、中立派と、貴族が三つに分断されてしまったのだ。
そして何をどう誰が上手く動いたのか、今まで中立の立場を一貫してきた両殿下の叔父にあたる、現王の異母兄弟であらせられるレイアール公爵さまが国王代理を務めることになり、さらには宮中で環境のあまりよろしくないリシウス殿下を公爵家で預かることになったのだ。
これは事実上のリシウス殿下の後見にあたる。図式的には、現王の異母兄弟筋の公爵家vs現王妃実家みたいな、なんかとんでもない波乱の予感しかないパワーバランスが出来上がってしまった。
王さま。意識不明場合じゃないですぜ?
嫌な予感ていうのは当たるもので、やっぱり事件は起きた。
ニーヴェル殿下の宮でボヤ騒ぎが起きたのだ。
幸いすぐに宮の者に見つかり事なきを得て、殿下にケガはなかったものの、おつきの外野がさー大変!
ボヤをしたのはリシウス派がやったやらないの、すったもんだの大騒動。
そりゃあ、宮中もカオスになると言うもんよ。
そこで、はい。トレスヴェイン家の出番ってわけ。このままじゃ内乱も起きかねないと危惧した現トレスヴェイン侯爵は、両殿下に護衛と監視を兼ねて私とシャトー、宮中の金印騒動と動向を探るべくアーノルドを送り込む事にしたのだ。
私とシャトーの今回の任務は、良からぬ企みを持って殿下に近づく貴族達への牽制と報告、暗殺からの護衛が主だ。
私もシャトーもこう見えて貴族令嬢というやつで、1人はメイドの真似事、片や男装して騎士の真似事をしていよーがご令嬢なのだ。それも、望めば未来の王妃になれるくらいには高位の。
それなりに社交界にも顔出しはしているから、屋敷に出入りする貴族の顔は即時に分かる。
しかーし!ここで、もう一度言っておく。
トレスヴェイン家の事情は王と王太子のみ知る秘密だ。
社交界に出入りしている私が、ここでメイドの真似事をしながらスパイをしてるなんて、断じてバレるわけにはいかないのだ。
ちなみに、先先代の王妃さまがうっかり?トレスヴェイン家の事情を知った際には記憶を消されるほどの徹底ぶりだったとか。
何それ怖いわぁ。思わず消されたのは記憶だけだよね?ちゃんと生涯をまっとうしたよね?なんて、聞きたくなるけど聞かない方がぐっすり眠れる気がするの。大事だよね?安眠。
とまぁ、そんな訳あって私は今、レイアール公爵家メイドをしている。
もちろん、未だ王太子の座にないリシウス殿下には秘密、でだ。