色々不穏じゃないですか?
肥溜めへと運ばれる枯れ葉をみて「姉さま・・」とシャトーは非難するように私を見た。
「やーねー。これくらい魔力のある平民なら生活魔法レベルよ。それに、ほら、ちゃんと魔力を抑えるピアスも着けてるし」
これ見よがしに銀色のピアスを見せると、シャトーは小さくため息を漏らした。
「それでも、姉さまは魔力量の低い貴族よりは高いの・・・事情を探られたら・・・」
私は肩をすくめると、大人しく肥溜めまで掃くことにした。
もともとトレスヴェイン家の事情というのは、代々直系の、それも王と王太子しか知らないくらいには、謎にごっっりごりの極秘事項なんだけど、そんな私たちが今回ピリピリして秘密裏に動いているのには事情がある。
時は、御歳6歳を迎えられるニーヴェル第二王子殿下がご生誕された時に遡る。
リシウス第一王子殿下は、正妃であり隣国の王女さまを母に持つ、それはそれはやんごとなきお方で、誰もが次期国王と認める、それはそはれは尊いお方なのだが、ニーヴェル殿下がお生まれになって事情が少し変わる。
リシウス殿下の母君であった前王妃さまは、10年前に流行病でお亡くなりになられ、その後、後妻として当時の国内最大派閥筆頭のメルソン侯爵家のご令嬢が王妃さまになられたんだけど、まぁ、何と言うか、王妃さまの父君である侯爵閣下は宰相であらせられまして、王宮内でぶいぶい言わせてたりするけよ。
と、なると、どうなるか。
察してほしい。
ニーヴェル殿下は宰相を祖父に、現王妃さまを母に。片やリシウス殿下は前王妃の御子で第一王子ではあるが、母は隣国の王女さまで、しかも亡くなられている。
ねー、バックグラウンドが不穏じゃない?
現宰相?現王妃?最大派閥の筆頭?何そのカードゲーム最強みたいな札。
現に、ニーヴェル殿下がご生誕されてからというもの、リシウス殿下の周囲は静かに、けれど確実にニーヴェル殿下を王位へ押す声があがりはじめた。
その頃からリシウス殿下の暗殺未遂事件も増え始め、命の危機が一度や二度ではないことに、私は密かに憤っていた。
それでも、第一王子。正当な王位継承者であり、もうすぐ二十歳を迎えられる事もあり、多くの貴族は静観を決め込んでいた。
のに!ところがなのだ。今から3ヶ月ほど前に大きな事件が起こる。
その日、現オキアス国王であるライゼル国王陛下は、僅かな共を連れてお忍びで狩を楽しんでいたのだが、運悪く流れ矢に当たり、意識不明の重体になってしまったのだ。
この国では、王太子の即位にはいくつかの条件がある。
まず、第一には二十歳を迎えていること。半年後に二十歳を迎えられるリシウス殿下は何事もなければ、王太子へと即位するはずであった、が、ここでもう一つ大事な要件があるのだ。
代々王のみが使用することが許される、賢者の金印に認められなければならない。
なんでも、この国の立国者であるえらーい賢者様が、次代の王に国を安寧に導くように祈りを込めた金印で、王と認められなければ、捺印することは出来ないとかなんとか。
印鑑なんぞに王位云々って・・・と、思わずにはいられないが現在それがこの国の王位継承の必然だから仕方がない。
そしてその事が、今回のトレスヴェイン家が動く騒動の一端でもある。
なんと!聞いて驚け。
その大事な金印さまが、ルシウスの即位前にどっかいってしまったのだ!