神様に嘘つける人っていないと思うんですよ?
「っきゃあ!!」
突然の突風に、スカーレット嬢は腕で顔を庇うようにして歩みを止めた。
「スカーレットさま!大丈夫でございますか?」
お付きの者達がすかさず、スカーレット嬢を庇うようにわらわらと取り囲んでゆく。
というか、すごいあの髪!ちょーっと力加減間違えて想定より突風が吹いてしまったのに形が崩れない!
形状維持の魔法でもあるのならぜひに教えてほしい。
「っ、もう!何ですの!?今の風は!!」
ヒステリックな声をいさめるように、1人の淑女がスカーレット嬢の前へ歩み出た。
メイド長あたりかしら?
「お嬢さま。お髪やドレスが乱れております。屋敷へ戻りましょう」
あれで、髪が乱れてるとな?
あまりに乱れないものだから、私は鋼ででも出来てるのかと思ったわ。公爵令嬢恐るべし。
「いやよ!わたくしはリシウス王子殿下に会うまでは帰らないわ!」
「ですが、ここはレイアール公爵家邸です。乱れたまま出歩かれるのは、淑女として恥ずべきことです」
「でも、まだリシウス王子殿下にお目通り・・」
「乱れたお姿をお見せになりたいのですか?」
「・・わっ、分かりましたわ」
そう言うと、スカーレット嬢はしぶしぶと言った感じで引き下がった。
淑女として恥ずべきねぇ・・・。
はは。毎日暗器ぶん回して箒片手にによによしてる私なんて令嬢どころか、人間として恥ずべきなんじゃ?
遠い目をして乾いた笑いをもらしながら、視線を動かしてそれはもう後悔した。
神!目の前に美の神がいる!!いや、神様も白旗ふって席を譲るのでは?席ってあるのか知らないけど。
ドリル髪に気を取られて、一瞬状況を忘れかけていた自分を呪う。
海のように深い青色がじいっと見つめる。
「っ、、、!!!!っ」
やめて。あまりの造形美と尊さで心臓止まるから!!本気で天界からの使いかと思ったわ。むしろ、私実は死んでたとか!!?
そんな脳内パニックな私にさらに追い討ちをかけるように、神託かと思うかごとくの美声が鼓膜を震わせた。
「今の、お前が?」
訂正。鼓膜だけでなく全身震えてます。私。
それはもー色んな意味で。
「・・・」
えっとー。とりあえず何をするのが正解?誰か教えて欲しい。
目の前では、美の神様みたいな推しに口塞がれて喋れないは、顔近すぎて動けないは、これは喜び咽び泣くところか?それとも、顔面凶器の尊さに恐れ平伏すところなの?
いやいや待て待て!私!!
今は推し云々言ってる場合ぢゃないでしょう!
あー。遠くで魔王がいい笑顔で笑ってるよ。
何々?招待バレたらお仕置きだって?
はい。震える。もう一度言おう。本当に本当に色んな意味で震えてるから、ね?
つまり。すこぶるパニックだ!
そんな私をよそに、リシウス殿下は答えを聞くべく私から手をどけた。けど、私の上からどいてくれるわけではないわけで・・・
あら?この態勢って床ドン?ってやつ?
すごい!!凶器!!尊いの塊の破壊力こわっ!!
「もう一度聞く。今のはお前の魔法か?」
「・・・・・」
ねー。神様目の前に嘘つける人っている?いたら、それは天性の詐欺師か、同じ神様のどちらかだと思うの。そのどちらでもない私は、全力で頭を上下に動かすしかなかった。