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二章 合言葉は人参-1

●二章 合言葉は人参


殺します、か。一体何がどうなっちまったんだ俺が勧めた酒そんなに美味しくなかったかなぁ。

俺はただ目の前にいる、恋した女性の気を引きたいだけ。しかし不思議かな愛と死は紙一重なのか、いや愛にいかぬまま俺は彼女に殺意を抱かれてしまったよ。


「……理由を聞いても構わないかな?」

「あなたの血が流れる心臓で、私たちの種族を救います」

「うーん……よくわかんない」


理由を聞いてもよく分からなかった、なにかすごい抽象的に俺のこと血塗れにしたいほど嫌いって言ってるのかも。ただそんな風に殺すと言われても不思議なくらい俺は彼女のことが好きなままだった


「俺を殺したいなんて言っても、ティラが好きっていう俺の気持ちは揺るがないよ」

「あなたの心臓を抉りますよ」

「俺の脈打つ心臓を君に見せたい、俺が君を想うとどれだけ胸が高鳴るか」


彼女は立ち上がり、腰に携えていた剣の柄を強く握りしめた。


「まずはあなたの首を切り落とします」

「その剣を抜いてみろ。そんなことをしたら、俺は君の乳を揉む」


ティラの赤く光る鋭い瞳が俺の首を斬る狙いを定めている間、俺は屈むことで強調される彼女の豊満な乳房をじっと眺めた。剣を構える姿まで本当に美しいな、あぁ、瞳から胸までそのボディライン全てが好きだ。俺は君が好きだよ、ティラ


剣が抜かれると、それは的確に俺の首に狙いを定めて剣閃を描いた。

その動きは素早かった、ティラが全力で俺の首を斬ろうとしていたことが伝わったよ、だが俺は攻撃の瞬間。その動きが非常に遅くスローに見えた、俺は高速移動が出来る、スローになった世界で俺は剣を回避し彼女の後ろへと移動すると、ティラと背中を向かい合わせた。


「……避けましたか」

「俺の首を斬れないことくらい、分かっていたんじゃないか」

「もうこの森には来ないでください、ここにいればあなたを殺さなければいけなくなる」

「今夜もあそこのテントで寝るよ、そしてまた明日も君に会いにいく」


ティラも今日は諦めたのか、剣を鞘に収め。俺も彼女に背を向けながらその場を歩き去ることにした。


「あの、トウヤ」

「なんだ?」

「私の乳は、揉まないんですか……?」

「……今はまだ、やめておくよ」


振り返って話した後、俺はまた立ち去る。

立ち去った後、俺は考え込んだ。さてさて、どうしたもんかな異世界に行っても上手くいかないもんだ。ただ超人的な力があると自分に確信していると、多少の困難は意外と楽しめるもんなんだけどね。前世では全くそんなこと無かったからな、弱すぎて世界の全てが困難だったから。ただ今の俺には力がある、間違えないように適切に対処しよう。ちょっと考え事のために散歩するか。


「……時間停止!!」


俺は森の中でそう言うと、時間が止まる。いや、もっと適切に言えば時間が止まったかのように俺が高速で移動しているのだ。もっと考え事が多い前世でこういう能力手に入れたかったけどね、俺は森から体を浮遊させて空を飛ぶ。

時間が止まった空を浮遊するのが好きだ、時間が止まると音も静かになる。雲が漂う空の上で頭の後ろで腕を組み、今日起きた困難をどう対処すべきか考える。


「……腹が減ったな」


腹が減ったら、俺は光の速度で空を舞い、1秒も経たないうちに数百km先の街までたどり着く。

少し賑やかな港の近くの街、時間が止まっているので静かだが人混みは多い。人混みを時間を止めながら静かに眺められるっていうのは、たしかにチートを使った異世界ならではの景色だとおもった。屋台に骨つきの鶏肉が並べられてるのが見えてたので、俺はそれに近づき手に取る。だが時間が止まってるからって奪ったりしないよ、ちゃんとカウンターに小銭を置いておいた。


そのあとは街の一番高い建物の屋根に座りながら骨つき肉にかぶりつく、中々美味い。近くを飛んでいた鳥も時間が止まっているので、時間が止まった鳥のクチバシをツンツンと指で突いたり、時間が止まった街の喧騒をボーっと眺めながら肉を齧ったりする。

なかなか時間が止まってるっていうのはシュールな景色だな、新鮮な景色ではあるが、それを見ても俺の気持ちはなんだか虚しかった。


「ティラ、どうして俺のこと殺そうとしたんだろう……ああもうモヤモヤする!!」


鶏肉を食べ終えると、俺は飛び出すようにまた浮遊する。異世界だからだが、この世界はめちゃくちゃだ。中世風の王国の次には、オモチャの国がある。まるでスーパーマ○オのステージみたいな、その国を超えると次は深海に沈むアトランティス、その次は北欧風の雪国、その次はまたファンシーな世界観の雲の国。俺は高速で世界を浮遊して巡るが、どの景色も俺の心を満たすには至らなかった。


たとえばどっかの国の王様を殺して、新しい王様になったところで富に溺れる虚しい末路があるだけだ。オモチャの国で人殺しの狂人にでもなってみるか?それで俺の心は安らぐかな、雲の国で嵐でも起こしてめちゃくちゃにしてやろうか。

前世だってやりたい事だって一切なかったんだ、いまさらここに来てやりたい事なんて何だってんだよ。色鮮やかで華やかな異世界の風景は、前世の屈辱でモノクロな空虚に染まった心のフィルターで見ても白黒に見えるだけ。


気づけば俺は飛びすぎて宇宙にいた。俺の体は呼吸の出来ない場所にいくと自動的に体に透明なバリアが貼られて息が出来るようになる、宇宙に行くのは初めてだよ


俺はこれからこの世界を破壊も出来るし、街の人の悩みを聞いて英雄にもなれるだろう。それでも生きている人間がいる世界である限り、争いは絶えず続き、たとえ俺の力を経由したどれだけの繁栄もやがては枯渇し腐敗する。俺の前世の世界と同じように成長しすぎた世界が生み出すのは邪悪な権力者だ。だが世界のあり方はそれが正しいのだ、もし悪が存在しないのであれば、人は悪という概念を理解することが出来ない。そもそも生きるとは波なのだ、悪い事、いい事、そして人と人のぶつかりによる衝突と感触、それらの波がなければ人は生きている感覚を得ることが出来ない。

でも時に人は、波に疲れてしまう。どうしよう、波に疲れたら死ぬしかないのかな。俺まだ前世の不安定な精神引きずってるのかな、俺つい楽しそうだからってうっかり異世界に転生すること選んじゃったけど、やっぱ死んで無になった方がよかったかな。

なんかそんなことダラダラ考えてたら涙出てきちゃった、ボロボロ流れる涙が宇宙空間を浮遊する


「う、うぅ……ティラ……俺のこと嫌いになっちゃったのかな……」


ティラ、そうだ。俺はティラが俺を嫌って失う苦しみによる不安から、こんなに精神が不安定になってる。俺はティラの前では気丈に振る舞ってるつもりだけど、ティラは俺のこと嫌ってないかな。前世と違ってイケメンの高身長の体に選んだけど、ティラの好みの顔じゃなかったらどうしよう、ティラは結構態度を表に出さないから不機嫌に見えるようでも嬉しく思ってたりするかもしれないけど、実は本当に俺のこと嫌悪してたらどうしよう。


「そ、そうだ携帯」


俺はコートのポケットからスマホを取り出す。時間が止まった世界の中で俺はある人に連絡しようと思いついた。スマホを耳に当て、俺は話し始める。


「あ、もしもし、もしもし神様〜?」

『は〜いこちら神様、トウヤちゃん?どしたのぉ』

「神様ぁ〜、助けてくれよぅ。俺、異世界にいるのにめっちゃ不安なの、精神の不安定さも異世界に持っていっちゃったかなぁ」

『トウヤちゃんそらそうよ!魂に刻まれた記憶を継続して異世界に行くってことは、記憶も精神に影響するんだから。神様はカウンセラーじゃないんだからね』

「そう言わずに何とかしてくれよ神様だろぉ??」

『トウヤちゃーん、神様と好きなアニメが一緒だったから。よさげな異世界にトウヤちゃんを転生してあげたけどさ、物質世界にいったら神様干渉できないのよ。神様はたしかに創造主だけど、一回作ったら手を出せない決まりだから』

「あ、そうだ神様、俺、異世界で好きな子出来たんだよ」

『なんだぁそれ先に言ってよ、もうハーレムしてんの?』

「いや、ハーレムにするつもりはない。その子だけが好きだし、その子以外いらない。もうめっちゃ愛してんだけどさっき俺のこと殺そうとしてきた」

『まぁ生きてりゃそういうこともあるよねぇ』

「そうだよなぁ」

『でも好きならとりあえず会って話すしかないんじゃない?』

「そうだよね……何となくいまあちこち回って宇宙に飛んじゃったんだけどさ、もし捨てられたらって不安になって別の場所を探し始めちゃったのかも。でも本当に好きなら、やっぱ逃げずに正面から立ち向かうしかないんだよなぁ」

『そうだよぉ』

「ありがと神様っち、元気出たわ」

『はーい、また連絡してね。神様わりと暇だから』

「神様って放任主義だからね」

『そゆこと、じゃまたねー』

「はいはーい、じゃまた〜」


神様との通話で俺は少し落ち着いた。そうだね、どんな壮大な風景も。目の前のやりたいことをほっといてたら虚しい景色にしかならない。俺はティラが好きで、モノクロの心のフィルターを通しても彼女だけが鮮やかに輝いている、フィルター越しでも彼女の色だけ鮮明なんだ。もう好きでたまらないよ


「よし、明日がんばるか!」


俺は宇宙空間を高速移動して、例の森のテントの所に帰ってきた。テントの隣で森を眺めながら微笑む、この森はまるで彼女を囲う籠のようだな。待ってろよティラ、籠の中から出してやる。

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