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一章 出会いの森-7

私にこういうのは向いていない、私はただの兎の戦士。決して強い種族ではないのに戦士に選ばれた種族。どうしてウサギまで戦わなきゃいけない世界なんだろう、なぜ神様は私にこんな苦難を。そういえば彼は神様と話すことが出来ると言っていたような、なんだかすごい混乱してきた、あぁどうしよう


「お姉さん!」

「はっ!!」


洞穴を抜けた後、考え事をしながら歩いているとセシルの声に心臓が跳ねそうなくらい驚いてしまった。


「お姉さん、すんごい考えた顔してたわよ?どうしたのよ」

「なんでもないです、セシル。一人にして」

「大事な用事があるんでしょ!弟に隠し事なんて、よくないわ」


ぴくぴくと動く弟の黒い耳。私が彼が何故これほど気にしているのか理解した


「セシル、私とボアーの話を盗み聞きしましたね?」

「この大きい耳で小耳に挟んじゃったのよ」

「これは私の問題です、あなたには関係ない」

「関係大有りよ!パパとママが、ティラが不幸になる道を望んでいると思う?」

「私、いかないと」


私の混乱によって弟まで動揺させてしまった。もう、彼が来るまではもっと日常はシンプルだったのに、森で立ってただ今日生きるか死ぬかを数えるだけ。それなのに急にこんな選択肢を迫られて、私はつい頭に生えたウサギの耳をぺたっ、と垂らして他の音を聞きたくなくなっていた。


「あなたが山賊に襲われた時、あたしが心配してないと思った!?」

「父と母は戦いの末に死にました、無念を晴らすのです!」

「ママはそんなこと望んでない!」


母のことを言われると聞き捨てならなかった。私は振り返り


「いま何と言いました!?」

「ママはあたしとティラにも、最後には好きに生きるようにと望んでいたのよ……あたしに言ってくれた最期の言葉だからよく覚えてる」

「私はこの森の戦士として、生涯を終えます……」

「あんな森の主の言う事を聞くか、ママが言ってくれた事を聞くか、よく考えて」


私はそれ以上、弟に言い返せなかった。駆け足で私はその場を立ち去る。

今日は風がやけに強く感じた、激しく揺れる草の音が私の心をざわつかせる。ざわつく心を沈めるように私は土を踏みしめてただひたすら歩いた、歩いても森だからあるのは木だけだけど。この木はまるで檻みたい、私の心を閉ざす為の檻の籠。

木々を抜けて川へたどり着くと、川を照らす夕日の光に少し眩暈がした。


「ティラ、君が来るのを待ってた」


川の近くに座っていたのはトウヤだった。トウヤは瓶と小さなグラスを二つ持って振り返ると、私に笑顔を浮かべた


「どうした?いつも無表情だけど、今日はやけに険しい顔してるな。一緒に飲まないか、考え事で疲れた頭には酒が効く」


何だか私の悩みを微塵も気にしてないかのように、そこに当たり前のようにある日常のようにトウヤは私を酒に誘った。その当たり前の景色につい逃げ込んでしまうように、私は誘われるままにトウヤの隣に座る。私はこれから彼にしなければならない行為を十分理解しながら。


「酒を飲むのは、初めてです」

「ははっ!それならいい機会だったかもな、まずは一杯だけな」


グラスに注がれた透明な酒を私に差し出すトウヤ、トウヤも自分のグラスに酒を入れると「こうやってグラスを合わせるんだ」と、グラス同士を合わせて乾杯の仕方を教えてくれた。彼が一気に酒を流し込むので、私もそれを真似してグラスに入った酒を口の中に流し入れる。熱くなる胸の内側で、私は伝えたくて溜め込んでいた胸の想いが込み上がるのを感じた


「トウヤ、聞いてください」

「なんだ?ティラ」

「私はあなたを殺します」

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