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五章 支配者-16

「ほら、王子。よくやったな!しっかりしろ」


試合が終わると俺たちはすぐ負傷した王子の元に駆けつけ、闘技場の待合室に続く廊下を俺は王子の肩を抱きながら歩いた。負傷してふらつく王子をティラもロランスも不安そうに眺めているが、王子はふらつきながら俺に笑顔を浮かべた


「君の魔法を使わずに戦いを鑑賞するのは……苦痛だったか?」

「ちょっとな、でも王子を信じて正解だったぜ……」


俺たちは王子を引きずるようにして待合室へと向かっていくが、待合室の前には一人の女性がいた。俺とホリスはその女性に見覚えがある、たしかアヌバスの最上階にいた、アヌバスの妻だ。名前はたしかパーネルと言ったか


「君は……何のようだ、王子に手出しはさせねぇぞ」


パーネルは虚ろな表情で、ただ俺たちを眺めている


「……夫のアヌバスは、私にとって全てでした」


パーネルはポケットからナイフを取り出すと、迷いなく目の前で自分の首にナイフを当てがい。まるでアヌバスがそのように死んだかのように、自分の首を引き裂いて自らの首から血を噴き出させた


「ッ……!!?おいッ!!」


誰かが止める間も無く、王子の目の前で兄の妻であるパーネルは自殺した。いきなりの光景に俺たちは呆然として、その後ため息をついた。俺は被害を受けた当事者ではないが、復讐の後味はあまりにも虚しい。アヌバスは決して許されるべき男ではないが、俺たちは誰かの大切な人を殺すことに加担したのだ。俺はホリスに呟いた


「王子、どんだけ最強の力を持ってても……救えないものはあるんだな……」

「救えないものばかりだよトウヤ、力は手段に過ぎないんだ……人の心を癒すのは力でどうにか出来るほど簡単ではない……」

「そうか……」

「兄さんと、妻の死体は……同じ墓場に埋葬する。せめて天国で怒りも憎しみもなく静かに愛し合えるように……」


自分をここまで追い詰めた兄に対しても、ホリスは全てが終わると優しい態度を見せた。突然自殺したパーネルを俺は愚か者だなんて思うことは出来ない、もしティラが何かの理由で突然死したとしたら俺も同じように死ぬだろうから。


そのあとホリスは待合室の椅子にもたれて、ティラの抱いているナンナに両手を広げた


「ティラ、ナンナを……抱かせてくれ……」

「はい、王子……」


ティラは抱いていたナンナをそっと王子の腕へと差し出した。王子はナンナの体を抱きながら、まるで自らの心の傷を癒すかのように深く呼吸を続ける


「みんな……今日は僕の城で休んでくれ。君たちは皆、もう城の住人のようなものだ……」

「あぁ、ありがとう……王子もゆっくり休めよ?」

「ありがとう、トウヤ……みんな……」


ホリスは壁にもたれながら、ゆっくりと目を瞑った



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