五章 支配者-13
翌日になった。
昨夜の商人の救出もあってか城にはホリス王子の復活の噂がたちまち広がった、城下町の壁には張り紙が貼られ、夕刻には王子が訪れ闘技場でアヌバスとの決闘を行うということ。勝利したものが王座を勝ち取るということ。
城の噂を聞いたアヌバスは城の窓から街の人たちの喧騒を鬱陶しげに眺めていた、彼は今も根強く指示されている弟の名声に嫉妬しているようだ。
「決闘の準備をしろ!誰が真の王にふさわしいか、国民全員に分からせてやる!」
「ハッッ!!」
どうやらアヌバスもやる気になったようだ、その様子を窓の外の柵にとまっているカラスが覗いていた。
そのカラスはその場を離れ、城の街の噂の喧騒を眺めてから空中を滑空し、砂漠にそびえ立つ昨日建てられた砂のテントに戻っていく。
なぜこのカラスは俺が昨日建てたテントに戻っていくかというと、何を隠そうこのカラスは変身した俺の姿だ
「ぃよっと!!」
偵察のためにカラスに変身していた。呪文”クロウラー”は一時的にカラスに変身することが出来る魔法、魔法を解除すると黒い煙と共に俺は元の人間の姿に戻る。鳥の姿に慣れるのは少し練習が必要だったが時間を止めながらたっぷり練習出来たのですぐ慣れた。俺は砂で出来たテントの中で待ってる仲間達に声をかける
「みんな!戻ったぞ」
「トウヤ、お帰りなさい!街の様子はどうでした?」
「ホリスの復活の噂が街全体に広がっている、アヌバスもやる気になって闘技場で戦う準備を始めているぞ。あとは王子次第だな」
だがその王子はというと、その場で胡座をかいて目を瞑っている。ロランスが言うにはどうも瞑想をすると非常に落ち着くとか
「ホリス王子は大事な時の前にはいつもこうなの。魔女とか神秘的な力に肯定的な人だから……瞑想の力を強く信じてる、でも私だって瞑想しないのに」
「なるほどな……ホントは寝てんじゃないの?」
俺が瞑想してるホリスの顔に少し顔を近づけると、ホリスはクワッと目を見開いた
「うおっ!びっくりした……おはよう王子」
「トウヤ、準備は整った。僕を城へ案内してくれ」
ホリスの準備も整い、夕方の時間も近い。俺たちはテントを出て城へ向かう事にした。
王子を先頭に俺たちは後ろを歩く、王国の前の門では兵士が俺たちに気づいたが、ホリス王子の姿を見ると恐れの表情を浮かべ門を通した。
「ほ、ホリス王子……本当に、生きていたのか」
「王子が戻ったぞ!門を開けろ!!」
門が開き、城下町を歩き始める。噂を聞きつけていた国民達は城下町の道を堂々と歩くホリスを見つめて各々の表情を浮かべていた。王子が生きていた事に歓喜する者、生きていた事に驚愕の表情を浮かべる者、その表情に対し王子は何も語らず。ただ復讐を果たすために城へと真っ直ぐ進んでいた
「王子、生きていたのか……」
「見ろ!あの女性の腕に抱かれているのはナンナ姫では……!?」
ティラも注目されてるので、大勢の民に見つめられながらナンナを抱いて歩くのは少し慣れない様子であった。ティラは人の群れがあまり好きではないので、注目されると少しオドオドしている。
そんな中、ロランスは俺の肩を叩き話しかけた
「ちょっとトウヤ……ホリスは今は戦いで頭がいっぱいになってるから、あなたが皆に闘技場に来るよう言ってよ」
「えぇ俺が?わ、わかったよ……」
こういう注目されてる中で大声出すのってあんまり得意じゃないんだけどな、だけど今日の主役はホリスだから。俺は城下町の人たちに向かって叫んだ
「サンディードの民達よ!ホリス王子が戻ったぞ!前国王と王妃を殺した……憎き自らの兄を倒すためにな!真の国王になるのは誰か見たいか!?なら闘技場に来い!お前達は国の支配者を決める試合の、証人となるのだ!!」
俺は拳を振り上げながら言うと、国民達も「うおおおおお!!」と雄叫びを上げながら俺たちに付いて来た。やっぱホリス王子の人望もあるのか、みんながホリスが勝つところを見たがってるようだ。俺が声を上げるとティラが褒めてくれた
「トウヤ、叫ぶ声も素敵ですね」
「そ、そう。ありがとっ」
ぽんぽんとティラの頭を撫でてから、腕に抱かれてるナンナの頬もむに。とつついてみる