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五章 支配者-12

「急げ!早く逃げろ!!」

「最悪荷物を捨ててでも逃げるぞ……!!」


男6人ほどが夜の砂漠で馬に乗りながら走っている。荷車を馬で引きながらその周りで馬を走らせ、砂の地中を飛魚のように跳ねながら疾走する数匹のワームから必死に逃げていた。砂地を縄張りとするイーターワームにとって砂漠は素早く動き回れるフィールドだ。砂から放物線を描きながら跳ねて蠢く細長い肉体を見せつけながら、馬を追いかけて疾走していた。

ワームは時折動きを狙って捕らえるために体を飛び立たせるものの、基本的には地中にいるため、いつどこで砂から飛び出してくるか分からない恐怖に怯える事となる。必死の形相で荷車を走らせながら逃げる商人達、だがその最前列にいた男の馬が。飛び出した巨大なワームの体に押し上げられて砂の飛沫と共に馬と男は宙を舞う


「ぐぉおお……!!」

「ヒヒィーン!!」


砂の上に倒れる男の体と横たわる馬、そこに先ほどまで横で飛び上がっていたワームが先端である頭を飛び出させ。顔全体が口で出来ているかのような、巨大な口を広げて倒れている男に近づく。その口の周りには鋭利な牙が口の周りを覆っているように剥き出しになっており、人間の気配を感じ取ると口から粘度の強い唾液を垂らしながら。倒れている男にすぐさま口を近づけ飛びかかった


「うわああぁああ!!」


だがその近づいた口のような頭は、風を切る音と共に切断された。砂に転がるワームの頭、絶命したワームの肉体は砂地に横たわる


「な、なんだ……」


倒れるワームの近くには虹彩に輝く剣の光を放つ人影の姿があった、魔物に捕食されるかもしれぬ絶望の暗い砂地でその剣の輝きは一片の希望の光に見えただろう。そして剣を持つ人影は、その剣の輝きを自分の顔に近づけた


「商人よ!僕は復活したぞ……国を取り戻すためにな!!」

「あなたは……ホリス王子!?」


剣の輝きと共にホリスの顔が浮かび上がった。彼のその叫びに呼応ように、音に反応する残りのワームは王子の体目掛けて飛び上がった


「ハッッ!!」


王子はその場で剣を振り回し、ワームを直接切らずに空を斬る。するとワームはまるでその剣の風圧によって体が切り刻まれたかのように、その場で肉が弾け飛び細切れの肉塊と化した


「おぉおおお!!すげぇ……!!」

「剣を少し振っただけで木っ端微塵に、まるで魔法みたいだ……!!」


ホリスの剣の動きによってワームは全滅した。馬に乗った商人達は、感謝の気持ちを伝えながらホリスの周りに集まってきて


「ホリス王子!ありがとうございます……!私たちは、あなたが死んだと聞いて……」

「僕は死んでいない、憎き兄の首を取るために黄泉の国から戻って来たぞ……!!」


そしてホリスは剣を地面に突き立てながら周りにいる男達に叫んだ


「商人達よ、僕の復活を街中に伝えよ!そして明日の夕刻、城の闘技場でアヌバスの首を取るとな!!」

「マジかよ……!」

「ホリス王子とアヌバスの決闘だと……!」

「分かりましたホリス王子!命の恩人であるあなたの名を、必ず街中で伝えます……!!」


男達はそう言って、再び荷車と馬を引きながら城下町へと戻っていった。叫び終わったホリス王子は少し疲れた表情を浮かべる。ホリスの近くに、俺はその場にパッと点滅したかのように隣に出現する


「上手くいったじゃねぇか、王子」

「こういう行為はあまり慣れない……ワームを倒したのは本当は僕ではないのが、ズルをした気分になるし……」

「そう言うな、大事なのは復活した王子が強くなって、復讐しに戻って来たのを国民に伝えるのが大事だ」


そう、ワームを倒したのは王子ではない。

ワームに襲われてる商人を助ける前に、俺は城下町の商人達に王子の復活を伝えるための良いチャンスだと思った、商人は噂を広げる役割としてはうってつけだろう。ホリスは手持ちの武器はナイフしか持っていなかったので、俺の魔法で作り上げたファントムソードをホリスに手渡し、ワームを倒すために駆け出すホリスを。俺は魔法で透明になりながら見守っていたのだ、そしてホリスが剣を振ると同時に、俺は透明になった体でワームの体を手刀で切り裂き、倒した。ホリスが剣で空を切っているだけで、離れたワームの体が魔法みたいに細切れになったのも、俺が透明になりながらワームの体を手刀で細かく引き裂いたからだ。

つまりこれは、王子の名前を街に伝えるために王子を強く見せるための演出だ。俺は上手くいったと思っていたが王子は何となく不満そうだ


「安心しろ王子!あの商人はすっかり王子がワームを倒して助けてくれたと思い込んでる。命の恩人に自分の名前を街に伝えてくれって言われたら、お安い御用だろ?」

「確かにあの数のワームを僕一人で倒すのは困難だった。だけど助けたのは僕だけの実力ではない、彼らを助けたかったのは本心だが……何か騙しているような気分になる。これから王になるはずの僕が国民を騙すとは」

「誰かに王子の姿を見てもらわなきゃ、宣伝もしてもらえないぜ。あんな兄の口約束だけじゃ心配だろ、闘技場での決闘を用意してもらえず門前払いを食らうかもしれない。噂が広まった方が、アヌバスもやらなきゃいけねぇ状況に立たされるはずだ」

「……この剣は返す」


ホリスは持っていたファントムソードを俺に手渡す。別にこの剣、俺の力の入れ次第でその場で出したり消したり出来るんだけどね。手渡されたファントムソードを俺はその場で消滅させ、背を向けるホリスに俺は伝える


「この程度のズルはすぐにチャラになるさ、王になったらもっと大勢を救うんだろ?アヌバスの支配から、国民達を助けるためにな」


俺の言葉にホリスはため息をついたが、許してくれたのかそのあと微笑む。


「……そうだな、トウヤ」


そのあと、俺たちは遠くで待機していたティラとロランスの元に戻る。国の支配者を決めるための決闘の時間まで暇なわけだが


「それで……私達は砂漠で野宿する?王子がいたら城下町の宿になんて泊まったらもちろん危ないけど、夜の砂漠はいつ魔物に襲われるか分からないわよ……?」

「ああ任せろ、”ハウス・オブ・フィールド”!」


俺は軽く魔法を唱えると、砂漠の砂が舞い上がって浮遊し何かの形を成していく。砂で出来たテントの形だ、雪で作られるかまくらみたいでいいね。この魔法は近くにある資源や材料を使って簡単なテントを作る事が出来る魔法だ、ティラと出会った森のテントもこの魔法で作った


「おお、君は少し手を揺らすだけで家まで作れるのか……まさに神だな」

「砂で出来たテントも趣があって素敵ですね、トウヤ」


ティラは腕に抱いているナンナを撫でながら褒めてくれた


「ね、砂のテント中々いいだろ!あとはテントにシールドを張れば魔物が寄らないから大丈夫だ。休もうぜ、明日は殺し合いなんだろ」


俺たちは砂で出来たテントの中に入り、テントの周りには魔法で結界を張って魔物が入れないようにしてから休息を取った

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