五章 支配者-8
「あの、助けていただいてありがとうございます……お礼出来るものが、何もありませんが」
魔女の家族の中の夫が、必死に頭を下げて俺に礼を言う。当然見返りなんか求めてないし俺は微笑んで
「いいんだよ。それより国に追われてる身ならここから離れて早く逃げた方がいい」
「ありがとうございます……本当に……」
頭を下げる家族達に、ホリスとロランスも歩み寄るが。その時、魔女と呼ばれていた妻がホリスの姿を見て目を見開き呆然としていた
「っ……!ホリス王子……?!」
その言葉を聞いて夫の方も驚いていた
「なに……?死んだ、はずでは……」
王子と呼ばれたホリスは、頷いて魔女の家族達の前で跪く
「いかにも……僕はホリス王子。生きている事が知られるわけにはいかず、姿を隠していたのだ。そして復讐のためにサンディードに戻ってきたぞ」
それを聞くと魔女は跪く王子に手を伸ばし、涙を浮かべていた。どうもホリス王子は以前の国民からは慕われているようだ
「ホリス王子……あなたが国での魔女の保護を訴え続けたおかげで、私は国で生き延び、しかも家族を持つ事が出来ました……感謝してもしきれません……」
「民を守るために当たり前の事をしただけだ。アヌバスが王になった国はいまどうなっている?」
「はい……魔女の保護法が解除されようとしています。資源が少なくなればアヌバス王は盗賊を味方に引き入れ、他国から資源を奪い略奪を考えている始末です。調和と共存を優先してきたかつてのサンディードは失われ、手段を選ばず略奪によって成り立つ恐怖の王国になろうとしています」
「そうか、兄さんらしいな……」
ホリスは兄の顔を思い浮かべているのか、唇を噛み締めながら顔を伏せて俯いている。
「安心してくれ……僕は復讐のために戻った。必ず兄を暗殺し、国を取り戻す」
「いいえ、王子……もう暗殺だけでどうにかなる状況ではありません。城の騎士と一部の市民は国によって洗脳され、過激な思想に突き動かされるようになってしまった。もう一度国を一つにするには、王子、あなたの復活を王国に広く伝えなくては」
「そ、そうか……僕の復活を……ありがとう。必ず国を元に戻し、君たちが安心して過ごせる国を取り戻す」
その後、家族達は国が元に戻るまで姿を隠すことにすると言い、その場から去った。俺はさっきの戦いで体はあんまり疲れてないんだけど、結構喋ったから疲れちゃって水が欲しくなった。砂漠で暑いしな
「喉渇いたな……水飲むか」
とここで重要なことに気がつく
「……俺ら、水持ってなくないか?」
そのことに俺は焦ってしまったが、ロランスは服の中から水筒を取り出す。だがそれほど大きい水筒ではなく
「もちろんあるわよ!多くはないけどね」
「ああ助かった……だが頼りない水筒だな、すぐ無くなるぞ」
どうせなら水をがぶ飲みしたい、俺はチートを使えるから何か方法はあるはずだ。だがふと良い方法を思いついた
「ロランス、そのポータル使う魔法って何て名前だ?」
「え?「ポータルリング」って名前だけど……」
「ここならまだ、王国の魔術師に見つかる確率は低いか?」
「えぇ、そうね。ここならまだ……」
水が無いならそのテレポート出来る魔法を使って水を調達すればいいじゃないか。俺は「ポータルリング」と唱えると、今まで訪れた事がある場所の記憶が頭に流れ込んでくる。俺は水が美味しい場所を知ってるんだ、その場所を強く念じると。俺の目の前には別の場所に繋がるポータルの輪が出現して
「お、やった!俺にも出来たぞロランス!」
「……私が10年かけて習得した魔法を、ほんの数秒で覚えるのやめてくれない……?」
ロランスは何故か落ち込んだ表情を浮かべているがとりあえず水を調達しに行こう、ティラは駆け寄りながら俺に問いかけた
「トウヤ、どこにポータルを開いたんですか?」
「通ってみてからのお楽しみだ。さあ来いよ!」