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五章 支配者-1

●五章 支配者


「国を作る……だと?」


ロランスという桃色の髪をした魔女の提案に俺は呆気に取られた。波の音が響く夜の海辺で俺は少し呆然として数秒置いてから返事をする


「ダメだ、そんなこと出来ない。いいか、俺は国を治めるとか、そういう器じゃない……そんな責任の重いこと出来ねぇよ断る!」

「まぁ落ち着いて!大丈夫、ちゃんとやりやすいように私が色々準備してあげるからさ。ほら、付いてきて」


そう言うとロランスは持っている杖の先端で、円を描くように杖を動かした。するとまるで丸い窓のような魔法のゲートが出現し、その向こう側に景色が広がっている。いわゆる「ど●でもドア」のような能力だな。


「おお、魔法のポータルか……」

「私は「ポータル・ソーサリー」と呼ばれるタイプの魔女なの、こうして魔法のドアを作ってどこにでも行く事が出来る……さあ来て」


ポータルへと誘うロランスに俺はティラの手を握り「行こう、ティラ」と彼女に呟くと、ティラも頷いて一緒にポータルの向こうへと入っていく。


ポータルの向こうはというと、何というか奇妙な空間が広がっていた。ぐにゃぐにゃとした原色の空に無数の本が浮遊しており、足元には無限に続いていそうな螺旋階段が広がっている。なんていうか、ワインを一瓶がぶ飲みしてから寝た時の夢の中みたいな景色。とにかく普通の物質的な空間じゃないということは感じた


「なぁんだ、こりゃ……」

「ここは「魔女の無限回廊」。かつて魔女は姿を隠すため、次元の狭間に自分達だけの空間を作り出したのよ。入るためには特別な儀式が必要なんだけど、私はポータルを出せる魔法を持った魔女だから、いつでもこの空間に入る事が出来るの」

「つまりここは、次元の狭間で魔法によって作られた空間ということか……なんか怖いな。もし魔法が乱れたら、俺らの体がここで消滅したり押し潰される、みたいな事にはならない……?」

「大丈夫よ!緊急時には次元に押し出されて、元の次元に戻るだけだから。ただどこに飛ばされるかは分からないけど」


何とも奇妙で慣れない空間だからか、ティラは俺の腕にしがみつくようにしながらきょろきょろと辺りを見渡していた。怖がるティラの頭を俺は撫でながら、螺旋階段を降りるロランスに付いていく。少し歩くと階段の横に浮遊している扉が漂っており、ロランスはその扉を開いて中へと入っていくので俺らもそこに付いていく。


扉の向こうは不思議な部屋だった、円形の部屋に本棚がいくつも並べられており。曲線を描いた大きな窓がいくつも揃えられている。いや、窓というよりもモニターだろうか。いくつかの窓が並べられているんだが、一つの窓に一つの王国を上空から監視しているような景色が広がっている。まるで全ての国をモニターで一つ一つ監視しているような、監視カメラの管理部屋のようで


「ロランス、これは…?」

「魔女が使う世界の監視部屋、魔女達は「森羅の眼」と呼んでいた」

「なるほど……一体どうやって窓に景色を映しているんだ?カメラも無いのに」

「この世界では魔法を発動させた箇所に一定の粒子が残り、魔女は魔粒子と呼んでいる。その粒子は別の次元から世界を観察する目のような役割を担っていて、粒子の波動とこの魔法の窓を接続することで世界を監視出来るようになっているのよ」

「んーー……そうか、わかんないけどとにかく監視出来るんだな」

「そう、この眼のおかげで、私はあなた達の居場所を確認することができたのよ」

「なるほど……あんな場所にいきなりいたのは、森羅の目を使って俺たちの場所を確認してから、ポータルでテレポートしたからか」


何とも俺の理解の及ばない方法で世界を監視している事は分かった。


「あなたがこの世界で国を作るなら、もっと説明した方がいいかもしれないわね。あなたが何者かは分からないけど、あまりこの世界には詳しくないように見えるわ」

「ああ……実はそうなんだよね」


そうなのだ。俺は前の世界で死んで神様に会った時にゲームっぽい世界に行きたいと頼んで、神様がゲームを元に作った世界に転生させてくれたわけだ。だが結局は神様の気まぐれによって作られた世界に突然放り出された状況で、この世界が具体的にどういう歴史を歩んできたかというのはさっぱり分からない。俺は聞くべきだと思った

ロランスは何か呪文を唱えると、窓から光の線が放たれて部屋の中心にホログラムのような魔法の映像が出現する


「おお!ティラ見ろ、ホログラムだぞ!すげぇ」

「ええ、すごいですね……」


ティラはといえばやはりこの場所の奇妙な雰囲気になれていないのかずっと俺の腕にしがみついている。ロランスはこの世界の世界地図を見せながら語り始めた


「この世界は神獣が世界を形成したと言われているわ、人間よりも先に魔力と魔物が出現したの。世界に魔力をもたらす神獣が土や川に魔力によって栄養をもたらし、世界を自然豊かな土地にした。その中で魔力を摂取しすぎた動物が突然変異を起こし、魔物という種族が生まれたのよ。やがて進化の中で人間が生まれた。一部の人間は魔力に適合し魔法が使えるようになり、彼らは魔法使いや魔女と呼ばれるようになった。魔女や魔法使いはかつて多くの人からも尊敬され、知性ある学者と結託しこの世界に対する多くの知識と文献を世界に広げようと励んでいたの」


ホログラムは世界地図の映像から、建物を早送りで作る人の姿を映し始める


「人の知性は急激に発展し建物を建築する文明を築き上げ、魔法を使える者達の多くは王となり、いくつもの王国を築き始めた。国を作る最も大きな理由は魔物達から人間の命を守るためよ。魔物は凶暴で人を餌にするような魔物も数多く存在していた、もちろん……あまり凶暴ではない魔物も多くいたのだけれど」


ロランスは視線をティラに一瞬向けてから、話をさらに続けた


「人々は国によって協力しなければ魔物に殺される事が分かっていたの、だから建造物や武器を作ることに必死になった。やがてある魔法使いが、武器と魔力を組み合わせることで作られる強力な武器を作った。これは「神武 -ジンム-」と呼ばれているわ。人々はこの武器によって魔物と対抗する手段を手に入れる事に成功したの」

「そうなのか!その神武っていう技術が、この世界の人を守ってきたんだな」

「いいえ……これが人間達にとっては、逆に悲劇の始まりだったのかもしれない」


ロランスが手を軽く揺らすと魔法のホログラムの映像は変化し、人々が武器を手に争っている様子が映像として浮かび上がってきた


「こ、これは……戦争か?」

「神武を開発した魔法使いは、この力を使えば魔物だけではなく人間も支配出来ると考えた。彼らはその技術をもって他の領土も征服するために他国に宣戦布告を行ったの、全ての国を支配するために土地をめぐる争いが行われたわ。世界規模で行われた人間同士の壮絶な戦い……これは「神武人類戦争」と呼ばれてる。何千万もの血が流れた。だけど神武だけでは全ての人間に打ち勝つことが難しいと気づいた魔法使いは、ある作戦に出た。魔力によって土地を浮かし、空からの攻撃を行う事を」

「土地を浮かして、空から……」


その話を聞くと、天空に土地を浮かばせている王国のスカイアが思い浮かんだ


「空からの攻撃は成功だった、ドラゴンに乗った騎士達が神武の弓矢と剣で地上にいる者達を次々と虐殺したのよ。他国に宣戦布告した王国は、戦争に勝利したの。勝利した王は気に入った領土の土地を浮かせて、天空で王国を作り地上の者達を見下すことにしたの」

「おい、ドラゴンの騎士に天空の王国って。俺たちを追いかけた騎士団の奴らの国じゃ……」

「そう、それがいま天に浮遊している王国、「スカイア」の正体よ。人々を武力によって抑圧した恐怖の王国。当時のスカイア国王は、自分以上に強力な魔法使いと魔女が出ないように、優秀な魔法使いと魔女を次々に捕まえて虐殺したの。特に魔女は……国王は魔女の方が強力な魔法を発動する事が出来ることに気付き、戦争の後には大規模な魔女狩りを行った。これは「魔女喪失の刻」と歴史に記されてる」

「魔女狩りか……ひどい国だな」


いままで俺は何となくこの世界に降りて適当に過ごしてたけど、わりと壮絶な歴史がある事が分かった、一回世界中で戦争もしてたんだね。何よりロランスは、魔女でありながらこの世界で過ごすのは大変だろうと思った


「ロランス、君は大丈夫なのか?魔女なんだろう……姿を隠しながら過ごしているのか」

「もちろん、私は自分が魔女っていうのを隠しながら生活してる。だけど運が良かったのは私が世界を自由に飛び回れるポータルの魔法使いだったっていうこと、おかげでこの「魔女の無限回廊」にも好きな時に訪れることが出来るの!この空間は元々、男性優位社会だった魔法使い同士の学会が魔女にとってあまりにつまらなかったから、魔女だけが入れる空間として作られたものなのよ。もう魔女は……全員姿を隠していて、もし生き残りがいてもどこにいるのか分からないけどね」

「そうかでも……本当の自分を隠しながら過ごすのは、つらいだろう」

「じゃあ、あなたが国王になって、魔女も魔物も安心して過ごせる世界を作ってよ。その子だって魔物を敵視する人間だらけの世界で不安なはずよ?」


ロランスの人差し指がティラのことを指したが、ティラは強気な表情を浮かべ


「心配は無用ですっ、私はやがてトウヤよりも強くなるので」

「強くなる?この人よりも?アハハっ!それは無理だよ、だってこの人の魔力は強すぎるもん!」

「ぐっ……魔力の問題ではありません。精神と肉体によって、私は強くなってみせます……!」


ティラはロランスの言葉に腹が立ったのか牙を剥き出し始める


「おいぃ、落ち着けティラ!ねっ、あとで人参しようね」

「……分かりました」


人参をすると伝えるとティラは落ち着いたのか、腕に抱きついてぽふっ、と俺の体に顔を寄せる


「話続けるわよ?ここからは、予言の話もするから」

「あぁ……世界が破滅するとかいう、予言か」

「戦争が終わった後、スカイアは同盟国に一部の知識と技術を供給することで地上にも新たな文明がもたらされたわ、蒸気王国スチーマは地上の文明国の代表的な例と言えるでしょうね。だけど神武人類戦争以降、人間は人間同士で争いを繰り返してるわ。スカイアは自国に従う魔法使いを集め、ディーベルというカルト教団の教徒にして偽りの信仰でさらに他国の市民を抑圧しようとしている。一部の強力な魔法使いは魔法を使って自分の身を守るために独裁国家を作り上げた、それが死の国「ネクロス」の王、ヘルデウス。彼はもう死んだけど……もし彼以上に強力な魔法使いが現れたら、スカイアももう黙っていないでしょうね」

「そうか……だから俺も、狙われているのか」

「スカイアは自分の国よりも強力な存在が現れた時のために切り札を用意してあるの、「世界統一法」と「ラグナロク」」


世界統一法については少しだけアナーシアとミシェルから聞こえた気がするが、具体的にはどういうものか分かっていなかった。ずっと立ちながら聞いていたから少し疲れてたら、ロランスは「椅子とお茶持ってくるわね!」と言い、杖を少し揺らすと椅子が出現した。俺らは座りながら引き続きロランスの話を聞くことにする

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