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四章 悦楽-13

そのあと俺らはアナーシアに「じゃあな」と伝えてから空賊船を後にした。

片腕でティラを抱き上げ空を浮遊し、地図の位置へと向かう。なんとなく向かうべき場所を意識すると、セブンスセンスが行き先となる方向に矢印のような赤い煙を発生させるので道に迷うこと無くそこに向かえることに気がついた。


「トウヤ、今回はいままでの敵で一番強いかもしれませんね」

「何にしても悪い奴なら、俺がお仕置きしてやるよ。そのためにこの力が与えられたのかもしれないし」


俺の片腕に座るようにしているティラが俺の顔を覗き込むようにして問いかける


「ですがトウヤ……あなたは今まで世界各地で色んな悪い人を倒しましたけど、世界は中々良い方向に進みませんね。どこでも争いや密かに行われている悪事が絶えません」

「人が集まる限り争いってのは絶えない。人に限らず動物でも、微生物でもな。場所を奪い合うために争いは避けられないんだ」

「戦い続ければいつか世界が良くなる日は来るでしょうか……」

「良くなるかどうかは問題じゃない、目の前の普通の人を救うことが大事だ。そうだろ?」


前世で余裕がない時はこんな事言えなかったけどさ、今は力があるっていう余裕を持っているから色んな事を自信を持って言える。自信が持てるっていうのはすごく良い事だ、微笑む俺の頬をティラはそっと撫でて


「あなたのお手伝いが出来るくらい……強くなります」

「別に弱いままでいいんだぞ?その方が可愛いし」

「自分が可愛いかどうかなど興味ありません、私は戦士です」


強がる彼女に対し、俺は片腕で抱いてない方の手で。ティラの胸をぷに、と指で突っついた


「あんっ」


ちょうど突起の部分に当たったのか、頬を赤らめて小さく声を上げるティラ


「ヘヘヘッ、この程度で声を上げるとはまだまだだな、ティラ」

「……噛みつきますよ」

「ほら、目的地が見えてきたぞ」


浮遊して素早く滑空していたため、目的の大陸に到着するのはあっという間だ。素早く滑空すると、体の周りにバリアが自動的に発生する呪文があるのも学んだので、俺の腕に乗ってるティラも風圧にやられる事なく安全に浮遊出来る。

死の国「ネクロス」。その名前からどんな陰鬱な場所なのだろうと思いを巡らせていたが、見ると想像を超える陰鬱さだったよ。なんか木とかが枯れてるし全体的に灰色の植物が生い茂っている、その灰色の木に覆われた森には、何体か魔物が徘徊しているのが見えたが、なぜか生気が無い。というかもしかしたらアナーシアが話した噂の通り、すでに死んでる魔物なのかも。

アナーシアはこういった死体が魔法によって動かされている魔物を「リビングデッド(生きた屍)」と呼ばれていると話していたが、俺には「ゾンビ」って名称の方が分かりやすいから「ゾンビ」って呼ぶことにする。

俺は少し低空飛空しつつその周辺を見渡す


「なんだぁ、こりゃ……こんなに樹まで元気なさそうな場所ってある?」

「アナーシアの話の通りならば、死臭を漂わせた者達が陸地を徘徊することで、死肉にこびり付いた毒をあちこちにばら撒いているのかもしれません。その毒が土や植物の栄養を阻害し、元気の無い樹になっているのかも」

「そうか……死んだ奴は大人しく土に埋めればいいものを。無理して死人を動かすからこんな事になる」


大陸の森の向こうには、一応町があった。だがその街も当然活気は無い、彷徨うように歩いている人々がとりあえずの作業を行なっている感じだ。一応野菜売ってる所があったけど、なんかこんな所で育った野菜なんか傷んでそうだな。しばらく浮遊して彷徨っていたが、建物の路地裏に倒れてうずくまっている人がいたので。助けが必要かと思い、俺はその人のそばに着地して歩み寄った。その男の人は格好もボロボロだし、肌も何だか黒ずんで荒れている


「すいません、そんな所で倒れて大丈夫ですか?」

「……!?アンタ空から降りてきたか?何者だ……?」

「そんな事はどうでもいい、俺はあなたを助けたいんです」

「来るな!伝染病だ……!」


その言葉を聞いて、俺は後ずさった。すると今度はティラがその人に歩み寄ろうとして


「あの、大丈夫ですか……」

「ティラだめだ!伝染病だ、近づくとうつるぞ」

「アンタ達……もしかしてこの国の外から来たのか?はっ、ハハ……来る場所を間違えたな……」


ティラは一回うつるとヤバいが、俺は他人を回復させることは出来ないが自分の体は自動回復でいつでも治せるので彼を運んで救出することが出来るはず。この国の医療はどう見てもダメそうだし、俺は彼を別の国の医者へと運ぶことを考えた


「安心してくれ、あなたを助けたい。あなたを国の外に出して、国外の優秀な医者に病気を治してもらうよう頼んでみるよ」

「ダメだ!国の外に出るわけにはいかない……俺には家族がいる……」

「でもそのままじゃ、あなたは死ぬぞ!」

「死ぬのは怖くない……このまま、生き続ける方が苦しみだ……」


男は体を押さえるようにうずくまりながら、俺にこの国の事情を話してくれた


「アンタ、この国の人がどんな生活を送ってるか分かるか?男一人につき、必ず子供を一人作るように法で定められ、子を作らなければ処刑させる。家族は持てるが幸せな市民はいないだろう……子どもを作ったら死ぬまで奴隷生活だ。そして死んだら……魔王ヘルデウスの魔法で死体を兵士として扱われ、死してなおこの国で働くことを強いられる。ヘルデウスは一人でも多く死体の軍を作るために、この国の者達に生殖行為を強制しているんだ……国から出ようとすれば、国の周囲を囲ってる死体の兵士に見つかって殺される……」

「うへぇ、ゾンビを増やすために子供作れってか、おぞましいな」

「そして死体の兵士を他国に輸出して奴は儲けてる、恐れも痛みも知らない戦士は最強の武器だからな。国民に奴隷生活を強制して、魔王はといえば山の上の城でたった一人で優雅な暮らしをしてる。俺たちの状況も知らずに……カハッ……」


なるほど大体わかった、そいつを許すわけにはいかねぇな。俺はカバンの中から薬を取り出して彼に差し出す


「これを飲むんだ。伝染病は治せないが、体を動かせるようになるはず。そうしたら仕事に向かわず一度家に帰れ」


男はしぶしぶだったが、薬の入った瓶をゆっくり唇に差し出すと男は薬を飲んだ。


「安心しろ、必ずこの国をあなたのような人が暮らしやすい場所にする」

「どうやって……あの魔王に勝てる者などいない……」

「大丈夫、俺に任せてくれ」


男に薬を全部飲ませると、俺は立ち上がりティラの方へと向かう。山の上とか言っていたな、俺はティラの体を片腕で抱き上げて再びその場に浮遊した


「見てくださいトウヤ、町のあちこちで咳をしている人がいます。伝染病がありながら、魔王は何も対処していないのかもしれません」

「死んだら兵士に出来るから、伝染病があっても放っておいているのかもな……国民が大量に死ぬのも何とも思っていないんだ。ひでぇ奴だ」

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