一章 出会いの森-4
大木の下で、私の仲間にもあまり見られない場所まで運んでくれると、彼はゆっくりと私の体を草の上へと降ろした。森は普段からあまり物音がしないが、彼がそばにいるからだろうか森の静寂がいつもより際立って感じた。風で揺蕩う草の音と、時折聞こえる鳥のさえずり。それらがいつもより特別に感じられて
「……服を捲るぞ?」
「構いません」
彼はゆっくりと服を捲って殴られたことにより赤くなった私の腹部を露にさせる。なぜか興奮しているのか、彼は静かに深い吐息を漏らしてカバンから塗り薬を取り出す
「少しひんやりして染みるかも」
「痛みには耐えられます。気にせず治療を」
彼は塗り薬を赤くなった箇所に塗りたくる。山賊と戦う時の動きはあんなに鮮やかだったのに私の肌に薬を塗る手の動きは何だかぎこちない、もっと早く塗ればいいのに、少し手が震えてゆっくりしすぎていたり、時々震える指先が臍を掠めるのがくすぐったくて、そのとき私の体も震えてこちらも何だか恥ずかしくなる
「こんなに赤くなって可哀想に……でも、とても綺麗な肌だ。柔らかくて、すごくなんか、もっちりっていうか、ダメだ、言葉が見当たらない」
「そんなこといいですから……落ち着いてやってください」
しばらく私の腹部に薬を塗りたくった後、カバンから青い粒状の光を放つ布を塗った箇所に巻きつけた。
「これで一晩寝れば治るよ。次は肩だ」
「はい……」
肩は腹部と比べてそんなに恥ずかしくはない、腹部は何故か恥ずかしかった。彼は服を降ろすと肩をはだけさせ、岩が激突してアザになった肩に丁寧に薬を塗る。薬を塗りながら彼は少しずつ自分のことについて話し始める
「回復魔法を俺が持ってれば良かったんだが、残念ながら転生するときに神様にその能力は与えられなかったよ。無限の回復魔法を与えると世界の生命のバランスが乱れるからって、だから俺は大体が人を傷つける魔法しか持ってないんだ。強力な回復アイテムを調達するのは簡単だけどな」
「あなたは……一体何者なんですか?」
「俺は別の世界から来たんだ、日本っていうところから来たんだけど。その世界で死んだら神様が、天界に行くか転生するか選んで〜って言われたから。俺は転生するのを選んだよ」
「ではあなたは、いわゆる神話に出てくる天使のような存在ですか?」
「さあな……人のつもりではあるが、自分が転生したあと人なのかどうかも分からん。ただ日本でもこの世界の事はよく知ってたんだよ、この世界は元々スマートフォンのRPGゲームで、俺もそのゲームはやったことあるから、この世界のことも少し知ってる」
「そう、ですか。よく分かりませんが……」
彼の話で部分的には分かったような気がするけど、理解出来ない点も数多く存在した。でもそれはきっと私の理解を遥かに超えた世界から彼はやってきたのだろうと、そう解釈することにした。話しながら、しばらく薬を塗りたくったあと布で包んで
「これで良し!もう大丈夫だよ」
「ありがとうございます。……命の恩人ですね」
「よしてくれ、好きな人は当然守る」
彼は穏やかな笑顔を浮かべた後、鞄から何かを取り出した。それは服で、しかも女性用の服。小さなドレスのように見えた。ミニドレスと言うのだろうか
「そうだ!これを君に渡しておく」
「服、ですか……前にも言いましたが着ませんよ?」
「着なくていい。着たくなる時まで預かってくれ、ティラの通常の戦士服も好きだけど、多分もっと綺麗になるよ」
彼は私にそう伝えた。
それからは私の寝床がある洞窟まで一緒に歩き、洞窟の前まで行くと彼はまた飛び去ってしまった。洞窟に置いていた木箱の中にとりあえず先ほどもらったドレスを入れておき、その日は疲れたので、草で作った布団で就寝する。
翌日には彼の巻いてくれた布を解くと傷口はなくなっており、痛みも残っておらず昨日感じた痛みは夢のように去った。あれは夢だったのかと確かめるように、私はつい昨日彼が触れた腹部をなぞるように自分で触れていた