四章 悦楽-10
そのあとは、宿泊して数日あちこち飛んで周り悪党を懲らしめる生活を送り、空を浮遊していると見覚えのあるものが浮遊していた。
空賊船だ、セブンスセンスで視力を強化して船を見ると船の上にはアナーシアが乗っている。久しぶりだから挨拶しようと思い。片腕でティラを抱きながら俺はアナーシアの空賊船に向かった
「アナーシア!久しぶり!」
「おぉ、トウヤか!?久しぶり!」
ティラを抱いてない方の片腕で手を振ると、アナーシアも手を振ってくれたので俺はゆっくりと船の甲板に着地する。ティラを降ろしアナーシアに歩み寄ると、彼女は俺の肩をポンポンと叩いて
「アンタ、捕まってないか心配してたんだぞ?スカイアの騎士団がアンタの事を探してるから」
「捕まるだと、この俺が?そんなわけないだろ。実はアナーシアに会った時のために色々収集してたんだぜ。俺の集めた宝を見てみないか?」
「おおマジで?やるじゃんアンタ〜!ちょっと見せてくれよ。外で話すのもあれだしちょっち中で」
俺らを手招きしながらアナーシアは船の中へと案内してくれる。彼女は少し振り返りティラを見ると、ティラにも挨拶して。ティラの帽子を勝手に取るとウサギ耳の生えた髪をわしゃわしゃと撫で回している
「ティーラっ!久しぶり!アタシのこと覚えてる?」
「……覚えています、相変わらず馴れ馴れしい振る舞いですね……」
「お〜言うようになったね、魔物のお嫁ちゃん!ね、なんかティラって好物あるの?食べてないなら何かご馳走するよ」
アナーシアは取り上げた帽子をティラに返し、ティラもここではもう遠慮する必要はないので両手で帽子を抱きしめている
「あーそうだな、ティラの好物は……俺だ」
「あ、そうなのぉ。でもトウヤ以外でっ」
「……ステーキ好きです」
「ステーキぃ?贅沢な子め!でもあるよ、おいで」
アナーシアと空賊船の船の中に案内されると廊下を歩き、彼女は調理場をノックすると
「そうだ、丁度いい機会だな……実はうちのコックさん魔物なんだよ」
「え、そうなの?」
「そうそう、ちょい挨拶しない?ミジロちゃーん!トウヤとティラ来たよ!前に話した、魔物を嫁にした人!」
ミジロと呼ばれた魔物は、ドアを開けると顔を出して
「ホントー!会いたいと思ってたんだ、こんにちはっ!」
魔物と言われたのでどんな姿で現れるかと思ったが、コック帽を着けた笑顔が素敵な普通の女性だった
「ん、普通の人に見えるぞアナーシア。どこら辺が魔物?」
「ミジロちゃん、帽子取ったげて」
「はいはいっ」
ミジロと呼ばれた女性はコック帽を取ると、シュルルと音を立てて真っ赤な髪の毛が広がった。髪の毛、いや、触手だ。しかも吸盤がついている、広がったミジロの髪の毛が縦横無尽にうねうねと触手をうねらせた。ミジロの髪の毛は吸盤の付いたタコ足まみれの触手で出来ていたのだ。蠢く吸盤まみれの頭を見て俺は思わず声をあげてしまった、集合体恐怖症なんだよ俺
「うわっ、怖っ!」
「ちょトウヤ!怖いって何だよ!いくらお前でもアタシの船員を侮辱するのは許さねぇぞ!」
「あ、すまん……ミジロさん、本当ごめんなさい」
「あははっ、いいんだってアナーシャ。私そういうの言われ慣れてるから。ただ私からしてみれば、人間の男の股に付いてる変な棒のほうがもっとグロいよ。見た事あるけど、あんなの体についてるなんて気色悪くてしょうがないね」
「あ、はは……言ってくれるな」
つい怖いと言ってしまって申し訳なく思ったが、ミジロと呼ばれる髪が触手の魔物女性はそんな事まったく気にしてないようなゲラゲラした笑いを浮かべ、平気で下ネタを言う。さすが空賊、俺が思ってるより全然強い女性のようだ
「そうだアナーシャ。タバコあるー?私切らしたんだよね」
「あるよ、紙巻タバコでいい?」
「紙巻タバコがいい、葉巻とかパイプタバコとか面倒くさいんだもん」
「アタシ、パイプが一番好きなんだけどね」
アナーシアが着てる上着の中から紙巻タバコを取り出すと、ミジロは髪のタコ足触手の先端でタバコを巻き取って口に器用に運んだ。どうやらしっかり神経が通っていてしかも手のように操れる触手のようだ。ミジロは廊下の壁にもたれてタバコを口に咥えると、アナーシアがマッチに火を付けてミジロのタバコに火を付けた
「トウヤ……」
ティラはタバコを見ると俺の背中の後ろに隠れて、タバコの匂いを嗅がないように俺のコートの匂いを吸い込んでいる
「ん?どしたのティラちゃん?」
「ああ、ティラはタバコの匂い苦手なんだよ。結構匂いとか音に感覚が敏感なトコがあって」
「あんな煙を吸う人の気持ちが分かりません……やはり空賊と私は相容れないようです……!」
「だからティラ、偏見でそういう事言うの良くないって……」
ティラは俺の後ろから顔を出しながら空賊二人を睨みつける。睨みつけるティラに対し、少し背が高めであるミジロは口からタバコの煙を出しながら笑顔でティラを見下ろし
「君がティラだね!へー、ちっこいって聞いてたけど本当にちっこいね!かわいい!」
「私は戦士です、背が小さくとも精神はあなたよりも強靭です!」
「タバコ吸う?」
ミジロはまだ火のついている口に咥えていたタバコを触手で取ると、ティラに近づける
「ひぃい!近づけないでください汚らわしい……!」
「おい、あまりティラの事からかわないでくれよ……本当匂いに敏感な子なんだって」
覗き込んでいたティラはひゅっ、と俺のコートに隠れるように顔をうずめてしまった。ミジロは「あはは」と笑いながら、触手でタバコを自分の口に戻し
「ごめんごめん。でもティラ〜、イケメンの彼氏に守られてばっかじゃいつまで経ってもおっきくなれないぞ〜?」
「大丈夫だ、俺がずっとティラから離れないからな。そうだよな?」
俺が見下ろすとティラはこくこくと小さく頷く
「ふーん、そうなんだ。アナーシャ、ミノタウロスの肉が余ってるんだけど。それのステーキでいい?」
「ああ、それでいいよ。ティラ〜、知ってた?ミノタウロスって昔は、美女を生贄にして皿に乗せて生きたまま食ってたんだって。ティラみたいな可愛い子は……食われてたかもねっ!」
「ひっ……!」
アナーシアもまたティラに怖い話をして、顔を近づけて驚かせると。俺のコートにしがみつきながら体をびくっ、と震わせて怯えている。ティラは食われる事を想像して怖がっていたのかもしれないが、ティラ、俺はティラに一度生きたまま食われているぞ。そのあとアナーシアは「先に向こうの客室で待ってて!」と言ったので、俺らは船内の客室に向かった