四章 悦楽-9
俺もトランクスタイプの水着姿になって、屋上に用意されていた椅子にもたれて、瓶に入れられたビールを飲む。異世界だけど一つ一つの国の文明の発展度は王国によってかなり差があり、この国は結構文明が発展してる国なので宿にも瓶ビールが置いてあった。
ティラはというと、ビキニ姿で椅子に座ってメモ帳にペンで文字を書き込んでしきりにメモを取っていた。
「ティラ、何をメモしてるんだ?」
「あなたより強くなる方法を考えてメモしています」
「なるほど、たとえば?」
「あなたより強くなる手っ取り早い方法は、あなたを倒す事です。つまり……あなたをどうすれば倒せるかを考えて、このメモに書いています」
「いつの間にかそんなメモ取ってたのか……」
たしかにティラは、最近戦ってないし怖がりだけど一応戦士ではあるから俺より強くなるという理想を持っていた、俺が敵をすぐ倒しちゃうから戦う機会が無いんだけどね。ただ俺自身、この力は神から授かったもんだからどうやったらティラが俺より強くなれるかは俺にも分からん
「トウヤ、あの森から抜け出して1ヶ月ほどが経ちますね。あなたの戦いにはいつも同行していたので、能力は次第に把握しました」
「うんうん」
「ですがやはりあなたは強すぎます、たとえばトウヤは時間を止めたように高速で動くことが可能ですが。勝つためにはあなたと同じ速さで動く必要があるでしょう。でも時間を止めるように速く動ける人なんて、今のところあなたしか見かけていません」
「確かに、俺も見てないな」
「そのうえ、武術の心得があり、魔力で武器も出せて、空も飛べますね」
「武術は完全に俺の我流っていうか、適当だけどね。体力あるから適当に殴ってても勝てちゃうんだよ」
あらためて言われてみると負ける要素が無いな、適当に生きてる俺からしたら自分自身の力がとても不釣り合いな力にすら思えてくる
「俺はチートモードだからな、強いのは当たり前なんだ。自分の実力が怖くなるぜ。時々いつか報いを受ける時が来るんじゃないかと思う……いままでやってきた暴力の代償が、いつか訪れるんじゃないかと。それって俺の精神が未熟なせいかな?」
ティラは俺の話を聞きながら、椅子のそばに置いていた鞄から何かを取り出して俺に歩み寄ってきた
「ええ、そうですね。では報いを受けましょうか」
「え、なに?」
俺の背後へとティラは歩み寄ると、ティラは俺の肩に手を添え。もう片方の手は首のほうへと、だがその首に当てられた感触は手ではなく冷たい感触だった
「っ……!ティラ!?」
首に当てられたのは刃物の冷たい感触、ティラは俺の首にナイフを押し当てていたのだ。
「トウヤを倒す方法を考えました、それは不意打ちです」
「ティラ、待っ!!」
切り裂く音
ナイフでティラは喉を狙って俺の喉を切り裂いた。俺の首の皮膚と、首を伝う血管がナイフの刃によって引き裂かれるのを感じた。まるで焼けるようだ、引き裂かれた喉から血が流れ、俺は呼吸が出来なくなるのを感じ取った。
1秒だけ。
俺がダメージを受けた時、自動的に発動する魔法「フラッシュヒーリング」は魔法によってすぐ傷口を塞いでしまう。ほんの一瞬だけ視界が暗くなって首が裂かれる痛みが走ったけど、1秒で元通りだ。俺の首には先ほど裂かれた首から滴った血が溢れてるが、俺はすぐに回復し元に戻った
「ああびっくりした……痛かったぞ」
「不意打ちで倒すのは失敗ですね」
「ティラ、この程度で俺が死なない事くらい分かってたんだろ?」
「当然です、死なないと思って切りました。この程度で死んだら責任を持って、あなたの魂を追って私も自害するので大丈夫です」
「そうか、それでこそ俺の嫁だ」
彼女も覚悟を持って俺の首を斬ろうとしたようだ、愛する相手が死んだら自分も死ぬ、その事に関しては俺も同じ気持ちだしこの行為によって彼女の深い愛をさらに確信出来た。
「でも何で急に俺の首を切ったんだ?」
「トウヤが暴力に罪悪感を感じていた様子なので。あなたは強すぎる、それ故に、あなたは傷つかない。だから自分がズルをしている気分になるんです。自分が他人を傷つけた分、あなたも傷つけば罪悪感が減るかと思いました」
「なるほど、いい考えだ。ティラはいつも俺を驚かせてくれる……流石だな」
微笑む彼女に俺も微笑み返し、首に伝う俺の血を指で掬うと彼女の唇へと指を近づける
「俺の血、飲んでみる?」
「いただきます……」
そっとティラは俺の血がついた指に口付けを交わす。ティラは頬を紅潮させて唇を指に纏わりつかせ、指についた血を啜り飲む。彼女は「おいしいです」と呟いてから、俺の正面へと移動して。椅子に座っている俺の上に覆い被さってくる
「トウヤ、暴力によって罪の意識を感じるのはあなたが優しいから。私はあなたの過去を知りません……ですがあなたは、人の痛みを知ったからこそ、目の前の命を救うために努力し、強く暴力的に、そして優しくなれるのです」
「ティラ……」
「ですから、トウヤが誰かを傷つけた分、トウヤは私が痛めつけるので何も心配しないでください」
彼女は俺に囁きながら、俺の手を取ると。突然俺の人差し指にがぶ、と鋭い魔物の牙を立てて噛み付いてきた
「ッ!?ぐ、あ”ぁ”ああああーー!!」
鋭い彼女の牙が神経の集まる俺の指に突き刺さり、刺さった牙が引っ張られて。ブチィッ、と音を立てながら噛みちぎられる。幸い「フラッシュヒーリング」があるので、千切られた指は1秒で断面から浮遊する血が指の形を成し、瞬時に指が生えて回復するが。
ティラはというとボリボリと口の中で俺の人差し指の肉を咀嚼して、その食感を楽しむように頬を赤らめて瞳を潤ませている
「痛っ”てぇ!?マジで痛ぇ!!」
「ああ、美味しいぃ……トウヤの指、とても美味しいです……」
「……!ティラ、お前……」
俺は意識をすると人のレベルを見る事が出来るのだが、ティラのレベルは4から5へと上がっていたのだ。実はティラのレベルは中々上がらないので、魔物はてっきりレベルが上がりづらいものだとばかり思っていたが。やり方が間違っていたのか、俺は彼女に自らの指を食わせることでティラの成長のプロセスにようやく気がついた
「聞いた事があるぞ……魔物は、人を食って成長すると」
「トウヤ……あなたは人間に暴力を振るって血を見ると興奮しますよね、私もなんです。私も……人間の血をみると、たまらなく興奮するっ」
彼女はそれから俺の腕に牙を近づけると、二の腕の皮膚に牙を引っ掛けて腕の皮を噛みちぎってきた。俺は「うっ」と呻き声を上げて、その皮膚の表面から溢れる血にすぐさまティラは舌を這わせる、時折彼女の小さな体とうるうると可愛らしい瞳で忘れてしまう、ティラは魔物なのだ。ティラは俺の傷口が自動回復で塞がらない内に素早く舌を這わせ、熱のこもった吐息が俺の腕をくすぐった。必死に貪るティラの表情は人参を行なった時のオルガスムの表情と同等の恍惚を感じさせ、魔物の本能を剥き出しにするティラの姿に、俺はたまらなく興奮してしまった。彼女が喜ぶことなら何でもしたい、俺の愛を全てティラに捧げたい
「ティラ……俺の、脈打つ心臓を見てみないか……?」
「みたい、見たいですっ」
ふぅと俺は一息ついて覚悟を決めた。突き立てるように指を鋭くさせると、俺は鋭くさせた両手の指を自らの胸に突き刺して左右に開いた
「ん、ぐ、ぁああああーーー!!!」
大丈夫大丈夫、フラッシュヒーリングですぐ全部回復するから大丈夫だ。めちゃくちゃ痛いけど、肋骨を内側から直接左右に引っ張って押し開き、ティラに俺の胸の内を見せる、俺の上に覆い被さるティラは瞳を輝かせて俺の胸の内側に興味津々だ。しばらく左右に開くと、ドクドクと生きたまま脈打つ俺の心臓がティラの目の前に映し出された
「す、すごい……これが、トウヤの心臓……熱くて、脈打って、必死に動いてる……」
ティラは生きたまま脈打つ俺の心臓に指を這わせ、興奮のあまり声を裏返させている。生きたまま心臓を指で触られるのはぞわぞわして変な気分だ。
「はぁふ、ふぅ、ふぅ、ふぅーどうだティラ、俺の心臓は」
「こんなに、美しいものを見るのは初めてです……」
「ティラ……お、俺の心臓と、口付けをしてみないか……」
「いいんですか……!」
ティラの呼吸は荒くなるあまり、唇の端から涎まで垂らしてしまっている。彼女の柔らかい唇が俺の心臓に触れる瞬間だ、緊張する。彼女の唇が俺の心臓にちゅ、と吸い付いてしゃぶりついた途端。俺は声を上げた
「ッッ、は…!かはっ……!!」
「トウヤ、声まであげて……可愛い……」
彼女はたまらず、牙を立てて俺の心臓に食らいつくと。生きたまま心臓から俺の血をぢゅるぢゅると啜り出したのだ
「う”ぉ”おーーーーーー!!!」
数秒ほどだろうか、あまりの痛みと衝撃に俺の意識と視界はチカチカと点滅して胸を開いていた両手は脱力してしまった。大きく開かれた胸の傷口は1秒ほどですぐに回復し、気がつくとティラは口の周りを俺の血でベトベトに汚しながら、瞳を潤ませ吐息を漏らし、血の色と同じくらい頬を紅潮させながら恍惚と俺を見下ろしていた。少し意識に力を入れて彼女のレベルを見ると、ティラのレベルは5から8へと成長していたのだ
「トウヤ……愛しています」
「んん俺も、俺も愛してるよ」
ティラは俺の血に濡れた唇を、俺の唇に重ねて舌を伸ばし、舌まで交わらせるようなキスを行なった。俺の血の味とティラの口の味がする。ただ恥ずかしいことに俺は先ほどの衝撃である事をしてしまったのでその場から立ち去りたかった
「……トウヤ、この匂いは」
「うう、ごめんっ、ティラ。俺、漏らしちまった……」
さっき心臓を生きたまま食われたせいで小の方を失禁してしまったのだ。あまりに恥ずかしくて俺はその場で眼から涙をこぼし泣いてしまった
「くそぉ、情けねぇ……」
「トウヤ大丈夫です、何も恥ずかしがらないで」
「ティラの前でお漏らしは、流石に恥ずかしいぜ、くそぅ……」
「大丈夫、大丈夫ですトウヤ……」
ティラは大丈夫と何度も呟きながら、俺の唇にキスを重ねてくれた。俺の情けない姿を見てもティラは優しく胸で抱き止めてくれる。
この宿での出来事は忘れられない思い出になった
ただ屋上の真っ白な床に落ちた血とか、後から宿で働く人の掃除が大変だと思って、俺たちがちゃんと拭いて掃除しといたよ。結構大変だったけど




