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四章 悦楽-3

俺とティラは空を飛んで雲の上を浮遊している。ティラの体を片腕で抱き上げているが、首に回される腕の感触と、何より体に密着する胸の感触だ。幸せになる


「トウヤ、見てくださいあれは……」

「ん?」


空を飛んでいると、雲の上をまるで海を駆けるように浮遊する船が見えた。船の底には丸い水晶のようなものが付けてあり、どうやらあの水晶が魔力を発生させて船を浮遊させているようだ


「おい見ろ、空に船があるぞ!」

「たしか……聞いたことがあります。空を船で駆ける空賊がいると」

「空賊いいね、かっこいい」


船の甲板には、腕を組んで空を眺めている女性がいた。その女性は俺らの方を見かけると手を振って


「おーい!そこのお前ら!空飛んで何やってんだ?」

「え、俺ら?デートしてる!」

「なにぃ!空の上で?」

「そうだよー!」

「なんか面白そうだな、ちょっとアタシと船で話さないかー!」


何か悪い人じゃなさそうだから、ティラの目を見ると頷いてくれたので、ついて行く事にした


「分かったー!」


浮遊していた俺とティラはゆっくりと船の甲板の上へと着地する。空賊の船員と思われる人たちがあちこちで作業してたが俺が近づくと挨拶してくれた、先ほど挨拶してくれた女性が俺らの方へと歩み寄ってきて


「アタシはアナーシア、空賊の船長だ!どうぞよろしく!」

「ども、無職のアオイトウヤです」

「ハハッ!無職って事は、さながら旅人ってトコか」


肩書きと一緒に挨拶されたけど、そういえば俺、この世界でも語れるような肩書きがない事に今さら気がつきながら挨拶した。思い返せば俺、無職だし人殺しなんだよな。とりあえず手を伸ばされたので握手して


「それで、隣の可愛い子ちゃんは?」

「……ティラです」


じっ、とティラは体を縮こまらせて上目遣いでアナーシアを見つめている


「ああ、ティラ……人見知りしてるな。大丈夫、この子、元々そんなに人間が好きじゃないんだ」

「そうなのか?」

「この子は魔物なんだよ、そして将来俺の嫁になる子だ」

「魔物の、嫁……あはは!兄さん物好きみたいだね!アタシはそういう物好きな奴が大好きだよ!」


なんか気に入られたっぽい、アナーシアは俺の肩とティラの肩を交互にバンバン叩いてくるが、ティラはこういう交流に慣れてないのか、体を縮こまらせたままで険しい表情を浮かべている。


「ちょうど面白い景色が見られるぞ?二人とも、ちょっと来てみな」


アナーシアが指をくいくいと動かして俺らに付いてくるよう言ってきたので、言われるままに彼女と一緒に船の前の方へと着いていく。彼女が船から下を指差したので、その方向を見ると広大な街が広がっていた


「おおこりゃ、すげぇな……」


前に行ったチェインダーとはまた違う雰囲気の街だ。街のあちこちに少し錆のかかった巨大な円筒があり、煙の香りがしてくる。港には巨大な蒸気船があり、道路ではあちこちで俺から見たら少し古めかしい作りの車が走っている。なんか蒸気の街って感じで、前の中世風王国とはまた違った雰囲気だ。

アナーシアは上着のポケットからパイプタバコを取り出すと、マッチで火をつけてパイプに火を灯し、タバコを吸い始める


「蒸気王国「スチーモ」……蒸気機関を信仰した者達によって作られた王国だ。天空に浮かぶ王国に比べたら文明レベルはまだ低いが、最近は蒸気機関で作られた巨大ロボットを作って街のシンボルにするって計画を立ててるらしいぞ」

「なにそれカッコいい」

「でもトウヤ、あの街は空気が汚れてて息苦しそうです」

「俺も道路で車が走りまくってる場所で育ったけどそのうち慣れるよ」


アナーシアは甲板の柵に背をもたれながらタバコの煙を吸って


「アタシの仕事はあの国に別の国から仕入れた物資を調達することだ。ちゃんとしたのもあるけど、時々ヤバいのも運んでる。空賊だからね、珍しい物資には目がないんだよ」

「なるほど」

「だからアンタに興味があったんだよね!アンタみたいな人が結構珍しいモン持ってるから」

「あーなるほど……今は特に持ってないんだ。なんかあったらそのうちね」

「そうかい、わかったよ」


だがそれを横で聞いていた眼帯の男の船員が、船長に歩み寄ってきて、耳元でアナーシアに囁いていた


「船長ちょっと……船長、この空域なら監視が緩い……金持ってそうなら、昔みたいにこいつらの身包みを剥がして奪えばいい……!」


この眼帯の男は耳元で囁いていたが、俺はセブンスセンスで全部声が聞こえていた。

だがそれを聞いた船長はパイプタバコの火皿にある燃えたタバコ葉を、彼の頬に投げつけた


「熱ぃ!!」

「客に失礼だよサリー、向こうに行きな」


眼帯の男は船長を睨み付けてその場から離れる、アナーシアはため息をついて


「どうした?俺らの身包みでも剥がそうとしたか?」

「そんな事しないよ、アタシは気に入った連中を襲ったりしない」

「そりゃよかった」

「もしかして聞こえてた?聞こえてたならゴメンね。昔はアタシ達ももっと荒っぽかったんだ。でも天空王国のスカイアが特別な法律を立ててね……」

「そうなの?」


アナーシアは船の柵に腕を乗せて空を見上げるようにしながら言った


「スカイアの立てた世界統一法。スカイアの法律を破ることがあれば、国外であろうと厳しく罰する事が出来る法律だ。めちゃくちゃな法律だけど、スカイアは世界で一番強力な魔導文明国家だから、どの国も抵抗出来ない。スカイアは自分達の法を世界中に適応して、世界を統一しようとしてるんだよ」

「なるほど」


何かよく分かんないけど、異世界の国の事情も大変っぽいね


「ただそのおかげで、アタシ達もあんまり過激な事は出来なくなったから。良かったのかなって、前は部下の手前もあって強気になんなきゃいけない事が多かったからさ」

「昔はブイブイ言わせてたみたいな感じか」

「あはは、なにそれ、何か面白い言い回しするわねアンタ」

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