三章 強さの証-13
「ティラ!見てくれ、この宿ワイン売ってたぞ!」
「まあ、素敵ですね!飲みましょう」
無事、宿の部屋で泊まれる事になった俺とティラは、宿の売店にワインと干し肉が売ってあったのでそれを購入して部屋で楽しむことにした。カバンの中にティラに着せるためのネグリジェを用意していたので、ティラはその格好でベッドに座りながら待っていた。もちろん部屋の中なのでティラは帽子を外している。普段は人から姿を隠すために、かわいいウサギの耳を隠す必要があって帽子を付けてるけど、やっぱウサギの耳が見えてた方が可愛い。ぴょこぴょこと嬉しそうに耳を揺らしながら机へと移動する。
安いワインと干し肉、安いつまみだ。だが戦いの疲れを癒すにはこのくらいで充分。部屋にあったコップを二つ机に並べてワインを注ぐと、コップを重ねて「乾杯」と二人で言いながらワインに口を付ける
「ティラ……俺はあの人たちを救った後、時間を止めたら色んな人が救えるんじゃないかなって思ったけど。少し考えすぎたな……神様は俺に、力を与えたけど人を回復したり生き返らせる力は与えなかった。神様には生命のバランスが乱れるからって言われたんだ。命は必ず終わるものだから……」
「トウヤ、まだ悩んでいるのですか。自分の行いに誇りを持ってください、私はずっとあなたを尊敬してます」
「はは、ありがとう。でも人間ってのはさ、贅沢だから色んな物を手に入れても、もっと良くなるはずってついつい思っちゃうんだよな。自分はこんなもんじゃない、もっと自分には出来ることがあるはずだって、だから色々生きてる事に意味を付けて自分が特別だと思いたがる。生きてる意味なんて特に無くていいのにな」
今日は何だか疲れちゃってやたら酒の周りが早い。ワインを少しずつ飲んで干し肉をつまみながら、ついダラダラと話してしまう
「生きてる意味は無くていいかもしれませんが、生きていると時に命に意味を与えてくれます。私があの森で早く死んでしまえば、私はあなたに会えなかった」
「そうだな、ティラ……でもさぁ、俺は死んだら別の命に転生するって分かっちゃったから。なおさら生きる事に意味を感じなくなっちゃったよ、生きるためになぜ頑張るんだ、努力するんだとかそんなこと考えちゃって。異世界だろうと現実だろうと、どこでも人が多くいる限り不平等ってのは存在するもんだから」
「いまこの瞬間が大事なんですトウヤ、命で大事なのは今この瞬間だけです」
「……そうか、そうだな。いまこの瞬間が大事」
ティラもワインを口にする事で頬が赤く紅潮して微笑んでいる。ティラはいつも俺の言う事をちゃんと聞きいれて肯定してくれる、彼女の言う通りこの瞬間を大事にすることにした。目の前には美しい俺の恋人、ワインに回る俺の意識、ネグリジェを押し上げる豊満なティラの乳房、いかんいかんまた胸を見てしまった
「……あのさ、教会で俺、初めて人を殺した。いままで森とか街でも人は傷つけたけど、人を殺したのは初めてだよ。しかも俺は殺意を剥き出し、絶対に殺してやると思いながら奴を殺した」
「ええ、そうですね」
「ティラ……俺は人殺しだ。俺は殺しを通じて変わってしまったかもしれない、軽蔑するか?」
殺したことを思い出しため息をつきながら口にする俺に対し、ティラはあむあむと小さな口で干し肉を食べ、少し多めに口にワインを含んで飲むと問いに応えた
「森で山賊に襲われ今にも死にそうな私を、あなたは迷いなく救った。私の弟も、森の魔物も、そして教会の人たちの命も救いました。あなたがいくら血で汚れても、私はあなたの内にある清純な精神をよく知っています。私を救った命の恩人、そこからあなたの優しさは何も変わっていません」
ティラの答えを、俺は静かに受け入れた。
思い返せば、この世界元々ゲームを元に神様が作った異世界なんだよな。そして彼女は森のザコ敵か、だが彼女は何も弱くない。俺にとってこれほど大きく強大な存在はない、この世のどれだけラスボスと呼ばれるような存在を集めても、俺からしたら彼女の存在に勝てないよ。
しばらくワインを飲んでから俺とティラはベッドに倒れて毛布の上で横になり体を寄せ合った。唇と唇が触れるほどの距離で顔を近付け合いながら、彼女の小さくて柔らかい肉体を腕に包み、自らの胸板と彼女の豊満な乳房を密着させ合う
「トウヤ、あなたは素敵です……あなたほど強くて優しい男はいない……」
「ティラ……俺より強くなるんじゃなかったのか……?」
「ええ、強くなります……でもいまは世界で一番強いあなたの腕で抱いてっ」
必死に細い腕を俺の体に抱きつかせて唇をキスしてくるティラ。ワインの湿り気に帯びた唇を触れ合わせ、唇を離すと額を寄せ合い瞳を見つめあって言葉を囁き合う
「今のままでもティラは強いよ……俺にとって君ほど強い存在はいない。もしティラが先に死んだら、君の魂を追って俺も死ぬ」
「まだ死にません……あなたほどの強さを持つまで。私は必ずあなたを超えます」
「ん、早く強くなってくれよ。君にねじ伏せられたい」
「頑張ります、旦那様……」
「厳密には結婚してないから旦那様じゃないけどね……」
「結婚しましょう、トウヤ」
「そうだな、結婚するか……」
「でも魔物と人間が結婚したという前例がありません……」
「じゃ結婚出来る法律でも作るか。俺なら出来る、俺は強いから……」
「えぇ、あなたは強いですトウヤ……法律も変えましょう……」
「俺は強い…そうだ、俺は強いんだ……」
「あなたほどの最強の男はいない……」
俺はたしかに最強だ、だが地位も名誉も興味はない。彼女こそが俺にとっての強さの証となる