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三章 強さの証-9

階段を降りると、そこにはいくつもの錆びた牢屋が広がっていた。その牢屋の内側には、これから生贄になるであろう人たちが俯いていた、さっきの騒ぎを聞きつけたのか。ディーヴェルの教徒の奴らが剣を持って俺に迫ってくる


「異端者がいるぞ!殺すぞぉ!」

「キリングクロウ!刺せ!!」


俺は手を奴らにかざすと、背後から黒い粒子が尖った形を宿し、その針を矢のように敵に飛ばして奴らの足と腕を針によって突き刺す。倒れる敵を見ていると横から声がして、牢屋の中にいた白い羽衣だけをつけた人が牢屋越しにこちらに助けを求めていた。


「頼む!助けてくれ!あいつらに殺される……!」

「あぁ、助ける!ティラ、剣を出してくれ」

「は、はい!」


慌てて剣を抜くティラの剣に手をかざし、呪文「バーストオン」を放ち、手から出た光線が剣の刃に力を宿し、ティラの剣は炎に燃え上がる。これは一時的に剣の力を強力にする呪文だ


「ティラ、その剣を強化した。牢屋を切り裂いて彼らを助けるんだ!」

「わかりました!」


ティラは剣を牢屋に向けると、牢屋の中の人に「下がってください!」と警告してから牢屋の檻を切り裂く。すると檻は紙のようにいとも簡単に切り裂かれ、ティラは目を丸くしながら驚くもすぐに彼らを助けるべく動いて。彼らの手を取り引っ張る


「あぁぁ、ありがとう、ありがとう……!あなた達は、一体」

「牢屋から出た者はすぐ外に逃げろ!ティラ、その調子で牢屋を全部壊すんだ!」

「はい!わかりました!」

「イネス!君は姉さんを探し出せ!」

「えぇ、分かったわ!」


イネスは牢屋に入っていた人の中から何とか自分の姉を探そうとしている。ティラは地下牢獄の牢屋の檻を次々と剣で切り裂く中、当然奥の方から教徒の男や拷問官と思われる敵共がこちらに迫ってきて


「奴らだ!殺せぇ!」

「ハッ、邪魔するんじゃねぇ!タイムスピード!」


俺は時間を停止させると、奴らに詰め寄って拳を作ると奴らの顔面を一人ずつ殴る。色々魔法を使うのも楽しいが、こんな奴ら俺の拳だけでも十分だ。いま襲ってきた敵達の顔を全員殴ってから、タイムスピードを解除すると。敵達は次々その場で倒れていく


「ふー、余裕」


敵基地に乗り込むんで少し何か問題が起きるんじゃないかと心配にはなったが、俺のこの力はあまりに強すぎると改めて確信した。もしティラやイネスが危険な目に遭えば時間を停止して助けにいけるし、俺のセブンスセンスは攻撃や殺意を察知すると自動的に力を発動して周りの動きがスローに見えて俺は高速移動ができるようになる。いまも俺には、奥の影に隠れている敵二人がクロスボウを向けているのをセンスが察知しているのだ。殺意や攻撃の意思を向けている者には赤いモヤがかかっているように見えるのですぐに分かる。

敵二人がクロスボウから発射した矢が、俺の方へ向かってくる。もちろん迫り来る矢の動きは素早いが、俺にはそれがゆったりノロい動きに見えてしょうがなかった。迫り来る二本の矢を片手で余裕でキャッチすると、俺は背後で黒く尖った針を魔法で出現させ、敵二人に発射する


「クロウ、刺せ」

「ぎゃ!!」


奴らの足を刺した、キリングクロウって呪文の名前全部言うの面倒くさいからもうクロウでいいなと思った。呪文は魔法の種類が分かりやすくなるから出来るだけ口にしているけど、呪文の名前をわざわざ言わなくてもやりたい事を気合いで念じればわりと何でも出来てしまう。もう魔法全部持ってるんだもん


「ティラ、牢屋は全部開けたか?」

「えぇ、開けました!」

「そうか……イネス、姉さんの姿は」

「まだ、見つからないわ……」

「もっと奥に行こう。この教会をくまなく探すぞ」


俺らはそのまま地下の更に奥へと進もうとするが、目の前から赤紫のフードを被った男が現れた。他の敵よりもフードの色が濃い、その男は両手の袖からシュッ、と剣を伸ばして両手で剣を持ちながら俺らに近づいてきた。


「おっとぉ?逃がさんぞ、我らの教会をこんなにめちゃくちゃにして」

「あぁ?お前は誰だよ」

「私はこの教会の副司祭!貴様らも神獣に捧げる血の贄としてやる!!」

「イネス、ティラ。下がってろ俺がやる、弱い敵ばっかで退屈してたんだよ」


剣を構える副司祭とやらに俺は歩み寄って呪文を唱える


「ファントムソード、発動」


俺の片手から青白い魔力の粒子が集まると、ぼんやりとオーラのような虹彩を放つ青白い剣を出現させそれを握る。この魔法、ファントムソードは魔力がある限り一時的に剣を出現させる能力で、剣の強さは持ち主の魔力の強度による。つまり俺は全部最強なのでこれは最強の剣だ。副司祭は奇声を上げながら俺に迫ってきて


「キエアアアア!!」


奴は両手の剣を素早く俺に振り下ろしてきたが、俺は片手だけの剣でそれを素早く受けとめ。奴は長い剣身の剣をまるでナイフを扱うかのように素早く俺に振り回してくる、手数の多い攻撃だ。だが心配には及ばない、俺のセブンスセンスは奴の動きが手に取るように分かり、全部の動きがスローに見えた。手数の多い剣閃を俺は余裕で自らの剣を振って受け止めながら足は徐々に奴の方に歩み寄っていく。

近づいてくる俺の足に、副司祭と言われた奴はどんどん後ずさっていく。だが俺は歩みを止めず前進しながら剣を振って奴の素早い動きを平気で受け止めながら前へ前へと進む。確かに他の奴らよりは動きも素早いし洗練された剣の動きを感じ取れる。だが攻撃全てがスローに見えてしまう俺からしたら奴の攻撃などあくびが出るほど退屈だ、こんなにも、悪党を潰すことが簡単なことだったとは。俺は涼しい顔をしていたかもしれないが、奴の表情はみるみる青ざめ焦りを生じさせる


「が、くそ…!!」

「おいおい、両手の剣つかってその速さかよ?トロい奴だなぁ」


トロい奴か。俺も前世ではそんな事言われながら過ごしてたな、今では俺がそういう事を言う立場になるとは。そろそろ倒そう、俺は剣を握る手に力を入れて剣に魔力を注ぎ込むイメージで手に力を入れる、すると剣を纏っていた虹彩のオーラは輝きを増し、少し手首を捻って剣を回転させてから。奴の両手剣を、剣で打ち払う。すると副司祭の持っていた剣の剣身は打たれた箇所からバキ、と音を立てて折れてしまい。両方とも使い物にならないくらい短くなる


「なに……!」


剣を払われて動揺し油断している隙に、俺は奴の手首に剣を振り下ろし。奴の右手首を切り落とした


「ぎゃあああああ!!」


その拍子に奴は剣を握っていた右手は地面に落ちたが、もう片方の手に握っていた剣も地面に落ちた。最初は強がっていたがその場に膝を付き悶える副司祭。俺はファントムソードの魔法を解除し、手から剣を消滅させると近づいて奴を見下ろす


「痛みを感じるか……お前らが今まで殺してきた生贄達の痛みだ、噛み締めろ」

「き、貴様ぁ……」


俺は右手から赤いオーラを発動させ、その手を副司祭に近づける。俺の魔法、セブンスセンスの能力の一つだ


「俺の魔法、セブンスセンスは触れた血から記憶を読み取ることが出来る……貴様の血から、イネスの姉さんがどこにいるのか。確かめさせてもらうぞ!」


赤くオーラが放たれた右手の指を、俺は奴の肩の突き立て指を肩の皮膚の内側まで食い込ませて指を血に触れさせる


「ぐあ”あああぁ”!!」


悲鳴を上げる副司祭の血を通じて、奴の記憶が俺の頭に流れてくる。奴が今まで起こしてきた数々の悪行、ディーヴェルの権力を使って捕まえた者達への暴力の数々、奴は女と子供に乱暴をしていたのだ。あまりにも惨たらしい景色が俺の頭に広がってきたが、脳に直接映像が流れてくるので目を覆う事は出来ない。泣き叫ぶ女と子供の悲鳴に興奮を覚えている副司祭、拷問を楽しみ、そして表では宗教の面目のために清廉潔白なフリをしている。なんて下劣な男だ、吐き気がする。奴の最近の記憶を一通り見て、俺は奴の肩から指を離した


「トウヤ!私の姉さんは見えた……!?」


指を離すと同時にイネスが俺の元に駆け寄り、問いかける


「……街の牢獄にもディーヴェルに刃向かった人達が何人か収容されている。もしかしたらそこにいるかもしれない」

「く、か……ハ、ハハハ!なるほど、素晴らしい能力だな……」


副司祭は、なぜか笑いながら俺のことを見上げている


「なんだ、何笑ってやがる?この鬼畜外道が!お前のやってきたことを全て見たぞ!」

「そうかそうか、はは……だが私には分かるぞ、貴様はまだ弱い」


この期に及んでこいつはまだ余裕の態度を浮かべている。気味が悪いが大した根性だ、話を聞いてやる。俺は見下ろしながらそいつの話に耳を傾ける


「貴様の目を見れば分かる……貴様はまだ、人を殺していないな?」

「当然だ、俺は殺しなんかしない」

「そこだよ……!そこが貴様の弱さだ……自分の手を汚さずに物事を解決出来ると甘い考えを持っている。どうせお前の力は努力で手に入れたものではないのだろう?運が良くてその力を手に入れた……私はそういう奴を何人か見てきたが、どいつも主体性が無く利用しやすい上に、力に溺れて堕落する奴らばかりだったよ!」

「なんだと……?」


副司祭はカッカッと不気味な笑い声を上げていた


「目を見れば分かるともぉ、貴様はまるで武器を持った赤ん坊だ。力を示すことだけに快楽を感じ、やがて力に溺れる!特にお前のような奴はな……分かるぞ?お前、今までバカにされて生きてきたんだろ?そして楽しい武器を手に入れて調子に乗っている。私はなぁ、バカにされた奴が力を手に入れた時どれだけ楽しそうにするか、いくつも見てきたのだよ……お前のような未熟者を、ヒャッハハハ!」


こいつは何か知ったような事を言っているが俺の何が分かるんだ、俺は両手で奴の首を持ち上げた


「てめぇは女と子供に乱暴をした最低のクソ野郎だ……お前なんか殺したっていいんだぞ。あぁ!?」

「そうかぁ、さあやれ!私は血の贄として魂は神に導かれるのだ!!」

「このイカれ野郎がぁ…!!」


こいつの俺を見下すような余裕の表情が気に入らない。俺は前世で背が小さくてバカにされた、奴の表情と笑い声には俺に対する侮蔑を感じる、まるであの時のように。奴の首を締め上げる度に前世で感じた屈辱と俺をバカにしてきた者達への怒りが込み上げ。俺の手は力が入りすぎて魔法により火が放たれ始める


「ちょ!トウヤ、止めて!そんな奴ほっとけばいいじゃない!」


イネスの止めようとする声が少し聞こえた気がするが、その時の俺は怒りで周りが見えていなかった


「こいつは最低な奴だ……殺してやる!」

「ティラ!ティラも彼を止めてあげて!」

「いいえ、止めません」

「そんな、何で!?」

「私は魔物です。邪悪な人間は滅びるべきだと信じています」


ティラは無表情なまま、イネスに伝えた


「さあ偉大なる神獣よ!私の魂を、導いてくだされええ!!」


こいつは完全にイカれてやがるし俺はこいつがムカつく、女と子供に乱暴し反省する様子を見せないこいつを許してはおけない。俺の手から放たれる魔法の火は熱がどんどん大きくなり、焦げた匂いがし始めた頃にはもう手遅れだった。


いつの間にか、ジュッ、と焼け切れる音がしたかと思えば俺の手から炎が燃え上がり、締めていた奴の首が焼き切れていたのだ。俺の頬に血の飛沫が飛散し、するりと手から奴の首と体が離れ首が地面に転がった。少し魔法に慣れ始めた時と同じように、あまりにも当たり前にそれが起きたので俺は少し呆然とした。

俺は人を殺してしまった


「あっ」


転がる首と失われた命。俺は死後の世界を一度見た事があるから、こいつの魂は一度あの世にいって安らかになることを知っている、知ってるけど。それがあまりに簡単すぎたので、人を殺してしまった事をこんなに簡単に思ってしまっていいのかと感じている自分もいた


「トウヤあなた……そいつを、殺したわね」

「……あぁ」

「トウヤ、大丈夫ですか」


ボーっとしてる俺の肩にティラの手が添えられたので、俺はぼんやりした意識が自分の体に戻ってきたかのようにハッとしてティラから遠ざかろうとした


「ティラ来ないでくれ!俺の手は汚れている!」

「いいえトウヤ、正しい事をしたんです」


ティラは俺の首に腕を回して抱きつくと、頬についてしまった奴の返り血に舌を伸ばし、頬についた血を舐めとってくれた。それを見たイネスは気味が悪く思ったのかゾッと肩を震わせている


「トウヤ、彼の記憶の中で何を見たのですか」

「あいつは……小さい子供を押さえ付け、あんな……奴は子供を苦しめる事を喜んでいた……あいつは人間じゃない……!」

「大丈夫、大丈夫ですトウヤ。来てください」


彼女は細い腕で俺の体を抱き寄せると、俺の顔を胸に寄せながら大丈夫と髪を撫で、俺の殺人を肯定してくれた。イネスはまだこの状況に慣れていないのか、転がる首を見て顔をしかめている


「ティラ……ありがとう。イネス、姉さんだな、姉さんを早く探さないと。時間かけてしまってすまない」

「い、いえいいのよ……私の方こそ、こんな危険な場所にあなたを巻き込んで……」


俺らが話している間に、奥の方からイネスを呼ぶ声がした。


「イネス……?」


地下室の奥の暗闇から現れる、白い羽衣を着た長身の女性。その女性はよろよろと俺らの方に近づく。その女性の姿を見て、イネスは目を丸くして彼女に駆け寄る


「……!姉さん!マリアン姉さん!!」

「イネス!」

「姉さん……あの人が?」


そのマリアンと呼ばれた女性はイネスを見かけるなり両手を広げた。イネスも嬉しそうに彼女に駆け寄る、マリアンのあの顔。なぜかどこかで見かけた気がして違和感がある、あの副司祭の記憶の中にもあの顔が映っていたような気が、彼女は確かこの教会の。

俺は思い出し、イネスを止めようとした


「イネス!下がれ!!」

「え??」


マリアンの穏やかな笑顔は、口を引き上がらせて邪悪な笑みへと形を変える。彼女の手は紫色のオーラに輝く、この輝きはおそらく魔法を発動する直前の動きだ。俺は「タイムスピード」で時間を止め、イネスに駆け寄るとイネスの体を持ち上げ、魔法を発動する直前のマリアンから引き離した。イネスを下がらせてから、時間停止を解除する。

するとマリアンの手から放たれた紫の光が、炎のように舞い上がりながら地面に直撃する。


「……!?ね、姉さん……?私を、魔法で攻撃しようとした……?」

「幻惑魔法だ、あの魔法に当たれば幻覚を見せられていた。おそらく教徒を洗脳する時に使っていたんだろう」

「ど、どういう……こと……?」

「マリアン……お前は、この教会の司祭だな!」


マリアンは冷たい表情で俺らを見渡すと、ため息をつく


「トウヤ!バカ言わないで!?私の姉さんがディーヴェルの、司祭なわけ」

「副司祭の記憶を見た時、あの女はいつも儀式を仕切っていた!間違いない……あの女だ!」

「……バレちゃった。しょうがないわね」


マリアンの体の周りに紫色の炎のような魔力による煙が舞い上がる、すると白い羽衣を着ていたマリアンの姿は煙の内側で紫色のドレスへと変貌する。


「あなたの言う通り、私はチェインダーの街のディーヴェル教会の司祭よ」

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