一章 出会いの森-2
「見てくれティラ!ダンジョンで手に入れた、めちゃくちゃ強い剣だぞ。君にプレゼントしたい!」
「そうですか、すごいですね。いらないです」
彼は木の枝に座って、私に剣を見せつけてくるが人間が作った剣などに私は頼りたくない。腕を組んで木の枝に座っている彼を素通りする。素通りすると彼は後ろから追いかけてきて
「次は君に合う防具を探す!ただ俺は男だから女性が着る防具とか詳しくなくて……それにティラは」
「私が、何ですか?」
私は腕を組んだまま彼と向き合うと、トウヤは腕を組んで腕に乗るようになっている私の胸の膨らみを見つめた
「……胸が、大きいから。合うサイズを見つけるのが大変だ……」
彼は顔を真っ赤にさせて照れた顔を隠すように口元を手で塞いでいる、どうしてこの世界で一番強い剣を簡単に手に入れられるくらい強いのにこのくらいで照れているんだろう。
「トウヤは私の胸が好きなんですか?」
「胸だけじゃない!輝くようなティラの髪が好きだ、ウサギみたいな潤んだ目が好きで。あと、その強気な性格が好き。もしティラを敵として見て、すぐに倒していたら。ティラをこんな人間のように見てなかっただろうと思う……」
「……人間の男はよく分かりませんが、トウヤはとても不器用な方に見えます」
「そう?俺?不器用か?すまんっ、あぁもう器用になるよう努力はしてるつもりなんだ。前世で女と関わったことなんてないもん」
「性格は努力してどうにかなるものではありません、そのままの自分を受け入れていなさい」
「ああティラ!本当に良い事言うな!やっぱ俺は君が好きだ……」
本当に変な人、でも彼が私をどう思っているかなんて私にはどうでもいい。私はただこの森の魔物を出来るだけ無事に過ごさせるために、この身を捧げればいいだけのこと。後ろについてくる彼を気にしないように歩いていると、湖の方で声がする。
「…キュ……キィー……」
音がした方へ私が走り出すと、すぐ後ろにいた彼も私の動きに合わせて走り出した。声がした方にいくと、湖でまだ翼で飛ぶ事の出来ないドラゴンの赤ちゃんが溺れているのを見かけた。声の主はその鳴き声だ
「キィー!キィー!!」
「落ち着いて!私が必ず助けます!」
私が着ている服を脱いで助けようとした時だった。
ビュンッ
後ろで風を切るような音がすると、トウヤが1秒も経たずに湖で溺れていたドラゴンの赤ちゃんを抱っこして救出していた。それもまるで水面を歩いていたかのように少しも体を濡らすことなく。彼はドラゴンの赤ちゃんを少し撫で回して具合を確かめると、すぐに地面へと降ろしてその子を逃がしていた。
「ほら、大丈夫だよ。可愛い赤ちゃんだなぁ」
「なっ、トウヤ……魔物の救助に感謝します。でもどうやって一瞬で移動を……」
「なんていうんだろう、神様がくれた能力のおかげで、高速移動できるんだよ。まるで世界の時間を止めたみたいに高速で移動が出来るんだ」
「すばらしい能力ですね……その優れた能力がありながら、なぜ街や王国に行かないのですか。あなたほどの力があれば、誰にでも認められる存在になるはず」
「ティラが好きだからに決まってるだろ」
私は彼の態度が不思議で仕方がなかった。どこにいっても力が証明できるであろう凄まじい能力がありながらも、人間に無関係な魔物の赤ん坊を助けるために能力を使うことを。それにそれほどの力があり私を求めているのであればなおさら分からなかった
「そんなに私が欲しいなら、力づくで私を押さえつければいいはずです。その圧倒的な力を使って」
「そんなことしない!ティラ、俺はそんな野蛮なことしたくない。君を人として尊重したい」
「私の姿は人に似ていますが、流れている血は魔物と同様。私のような存在を人は化け物と呼ぶのでは?」
「化け物には見えないな……化け物なら、溺れている赤ちゃんを助けようとしない」
この人はやたらと私を褒めてくれるが、そもそも私の種族が人間に好意を抱くのは間違っている。私の心は揺るがない。
「ハッキリさせましょう。トウヤ、私はあなたが好きではない。その髪も鋭い目も、まるで全てを理解しているかのような超然とした態度も好きではありません。あなたのような人間の戯れに、付き合うつもりはない」
「そ、そうか……そこまで嫌なら、俺もここを去ろう」
「……離れろとは言っていません、今日のように魔物を救出し続けるなら、別にここにいても」
「そうか!よかったぜ!」
私の近くにいることしか楽しみがないんだろうかこの人は。この世の終わりみたいな表情を浮かべたあと、パッと花開いたみたいに笑顔になった。
「さて、そろそろ失礼しよう。俺はちょっと散歩するかな」
「そうですか……」
「もし君に合う可愛い衣装を見つけたら、持ってくるよ!」
「持ってきたって着ませんよ、好きにしてください」
「それじゃ!」
彼は私にそう伝えると、歩いて去るのかと思いきや、ビュン。と体を上方へと凄い勢いで浮き上がらせ、空を飛んで去ってしまった。
「空も飛べるんですね……」




