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三章 強さの証-5

彼女の手に引っ張られるまま、野次馬達を掻き分けて人気の無い路地裏へと連れていかれる。濃い緑色のコートを着た、少し地味な雰囲気を思わせるその女性は俺を路地裏の壁に追い詰めて顔を近づけてくる。


「落ち着け!何か用があるなら聞く」

「私と一緒に、来てくれてありがとう……あなたの力なら私の腕をもぎ取ることだって簡単だったでしょう」

「誰だか知らない女性の腕をもぎ取るほど、俺は野蛮な奴じゃない。何者だ?」

「……助けて、欲しい」


真剣な表情で俺に近づく女性、だがその横から勢いよく駆け込んでくる人影。ティラだった、彼女は女性の肩を思いっきり掴んで牙を剥き


「なっッ!!?」

「トウヤから、離れて!!」


ティラは魔物の本性を剥き出しにして、女性の肩を掴みながら首に噛みつこうとしたが、俺は慌ててティラを止めようとする


「あああ待て待て待て!ティラ!その女の人、悪い人じゃないっぽいから!」


必死に止めようとするとティラは口を閉じたが、怒りが収まらないのか肩から手を離した後も睨みつけたままでいる。女性も噛みつかれると思って怯えた顔をしていたが落ち着いて一息つき


「ふぅ……いきなり引っ張った事に関しては謝るわ。私はイネス。この街で暗躍している盗賊ギルドのメンバーよ」

「盗賊ギルド……?」

「えぇ、悪いけれど、あなた達が全裸でこの街を訪れた時から尾行させてもらったわ。普通の人じゃなさそうだったから」

「あの時から私たちを見ていたんですか……なぜです?」


イネスは壁にもたれかかって腕を組みながら話し始める


「衛兵とデーヴェルに見張られてるこの街で全裸になって歩くなんてよっぽどの度胸があるか、バカよ。でも私はそういう人を探していたの。普通の人には困難な依頼を……」

「んーー、そうなの?でもあの場でいきなり引っ張るくらいだから、かなり急な用事と見えるな。まずは話してみてくれ」

「ここだと誰かが来た時、聞かれるとまずい……ついてきて」


緑色のコートの中から鍵をたくさん持っているキーホルダーを取り出すと。彼女は近くにあったドアに合う鍵をすぐに見つけて、ドアの鍵を開く


「なんでそんな鍵持ってんだ?」

「盗賊ギルドの特権、街のいくつかのドアの合鍵を持ってる。来て」


俺とティラは言われるがままに彼女についていく事にする


ドアの向こうは螺旋階段になっていた。その階段をしばらく登り一番上までたどり着いてドアを開くと、そこは街に配置されている塔の上になっており、塔からはこの街を一望できる。その景色に、ティラは喜んでいた


「わあ!見てくださいトウヤ、街を見渡せますよ」

「お〜そうだな!やっぱ結構いい景色じゃないの。この街は」


ティラは塔の柵に手を置いて街を見渡す。イネスはその様子を見て微笑むと柵に腰掛けて街を見渡していた


「可愛い相棒ね、あなたの連れ」

「相棒じゃない、俺の嫁なんだ」

「よ、嫁?でもその子……魔物でしょ?」

「それでも、俺の嫁だよ」

「やっぱり……変わった人ね、あなたみたいな人選んで正解だったかも」

「本題に移ろう。なんで俺の助けが必要なんだ?」


イネスは微笑んでいたが、頼みたいことの話になると真剣な表情を浮かべる。彼女は深刻げな表情を浮かべて始める


「私の姉が……ディーヴェルの教会にさらわれた」

「何だと、奴らに?」

「えぇ……私の姉はマリアンって言うんだけど、私よりも全然頭が良くて誠実な人なの。私は頭が良くないし誰かの言うこと聞くのも嫌いだから盗賊になるしか無かったんだけどさ、姉さんは私よりもすごく努力家で何でも真面目に取り組む人だった。ほら、あそこの城が見える?あそこで働いていたんだよ」


イネスは街の中でも一番立派にそびえ立つ建物の城を指さした。


「おお、ありゃ……すげぇな。あんな立派なところで働くのは俺も無理そうだ」

「ね、あんな城もあるし一見立派な街に見えるでしょ?ここは……でも全部が立派じゃない。見えづらい格差が存在しているの、この街で優雅に暮らせるのは既に優秀な家系の上流階級ばかり。貧しい人は必死に仕事にしがみついて、どれだけ頑張っても上にいけない……ほら、あそこの橋の下にも家があるでしょ。貧しい人はああいう下のところで暮らしてる、もっと貧しい人は家ともいえないような場所で……」


この街にも格差社会あったのか。異世界なのにままならない事ばっかりだよ、人はどの世界だろうと人である限り格差からは逃れられないな。ぼんやり街を眺めながらそんな事を思った


「姉さんは、必死に努力してあの城で働き始めて、この街の格差を無くすための政策を立てようとしていたのよ。私は上の連中から、物を盗んで貧しい人に物を分け与えることでしか出来なかったけど……だけど、格差を減らすために戦う姉さんの努力は、権力を持った奴らにとっては脅威だった」

「なるほど、だからディーヴェルの奴らに……」

「数日前から行方不明になった……でもディーヴェルは自分たちに邪魔な奴らを監禁するっていう噂がある、間違いなく奴らの仕業。ディーヴェルは神獣に仕える宗教団体と名乗っているけど、奴らは権力者に言われた事は何でもやる便利屋。権力者に媚びるクズよ!でも奴らは街に守られていて、誰に話しても助けてもらえない。あの卑怯者達に対して、私は何も出来ない……」

「だから俺たちに助けてもらいたい……そうだな?」

「報酬は出すわ。奴らは身元の無い貧しい人を殺して楽しんだり、盗賊ギルドの何人かも監禁しているから。もし奴らを制圧出来たら盗賊ギルドから報酬が出されるはず。でも今は出せない……敵が巨大すぎて、誰も一緒に戦ってくれないから」


この女性はこの街の事をよく理解している。その上で、彼女は一人で戦う覚悟を決めていたんだ。なんて強い女だ、俺なんかよりよっぽど立派な女じゃないか、話せば話すほど不安げな表情を浮かべる彼女に俺は微笑んだ


「礼なんていらん、イネスの事情も良くわかった。姉さんを助けよう、正直俺も、この力があるのに大してやる事も無いから困ってたところだ。力になるよ」

「本当に……!」

「あぁ、いいよな?ティラ?」


街を眺めてたティラは、帽子で耳は隠しているもののちゃんと俺たちの言うことは聞こえてたそうで。振り返って頷いた


「話は聞いていました。兄弟がいる人の気持ちは、私もよく分かります。もしトウヤが断っていたら私がお願いしていたところです。助けましょうトウヤ」

「さすがは俺の嫁だ、期待以上の返事をしてくれる。愛してるぞ」


俺はティラを指差して愛を伝えると、ティラは穏やかな笑顔を浮かべた。


「ありがとう……本当に」

「んじゃ早速俺が攻めようかな、その教会どこにあるの?すぐに倒しに行くよ」

「ああ待って、今は昼だけど昼に行くのは良くない。教会に救いを求めてる普通の人も教会に訪れてるから、普通の人も巻き込んでしまうわ……今日の真夜中は、大丈夫?」

「そういうことなら。うん、真夜中で大丈夫だ!」

「よかった……今日の真夜中、街の外れにある奴らの教会に攻め込む。集合場所の地図を渡しておくわ、私も今のうちに戦う準備を済ませておく」

「たぶん俺一人で倒せるから戦う準備しなくてもいいけどね。とりあえずありがとう」


とりあえず軽く集合する時間と地図をもらうと、イネスは「また今夜に」と俺らに伝えて。塔の上から柵を飛び越えて、隣の建物の屋根を走り去っていった。さすが盗賊、身軽だな。


「さて、夜中まで暇だな何しよっか」

「そうですね……」


塔の柵に手をかけながらボーっとしてると、ティラも柵にかけていた手に自らの手を重ねて俺の体に寄り添ってくる。そういえば塔からの景色を見た時、ティラが嬉しそうにしてるのを思い出して。俺は相手の肩に腕を回すと


「一緒に飛んでみるか?」

「え?」


ティラの体は豊満ではあるが小柄なので抱き上げやすい、軽く相手の体をお姫様抱っこすると。ティラは俺の腕に収まるように体を縮こまらせて


「あっ」

「よいしょっと」


ティラの体をお姫様抱っこしながら、スキル「グライディング」で少しだけその場で浮遊する。俺の体は元々結構丈夫に出来ているので腕力もありティラの体を軽々持ち上げられる、ティラの体は小さいがあちこち柔らかいな本当に


「こんな感じで空まで飛んで、街を見下ろしてみないか?」

「トウヤ……素敵ですね、見下ろしましょう」

「大丈夫?高所恐怖症だったりしない?万が一空から落ちたら死ぬぞ」

「いいえトウヤ、何があってもあなたは私を殺さないでしょう。私にはわかります」

「ははっ、そうか」


どうもティラは俺のことを信用しきってるみたいだ。相手が不安になっていないのを確認すると、俺はゆっくりと塔から浮遊して街の上空の空へと浮遊する。浮遊しながらそのまま空の上に向かってゆっくりと上がっていくと、ティラは俺の胸に頭を寄せてぼんやりとした表情で街を眺めている


「……綺麗」

「そんなに綺麗か?立派に見える街だが格差がひどいってさっきイネスが話してただろ。ティラの方が綺麗だ」

「森を抜けてから初めて見る街なので……あなたが導いてくれたから見れた景色です」


俺はその場でゆっくりと浮遊し続け、出来るだけ街の全部が見える辺りまで浮遊することにした。

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