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一章 出会いの森-1

●一章 出会いの森


私は人間からこの森を守らなければならない。どうしてそうしなければいけないのか分からないけど、父と母もそうしてきたし運命がそうするべきだと言っているような気がする。


私はペティートという種族のラビットナイト。ペティートは姿は人間と同様だが頭にはウサギの耳が生えている。そしてペティートの中でも戦う力を持つ者はラビットナイトの称号と剣が与えられ、私はラビットナイトとしてこの森、「セレスティルの森」を守り続ける役目が与えられていた。セレスティルの森には魔物や私と同じ種族の者が暮らしていて、彼らを守るためにここに訪れる人間は倒さなくてはならない。


父と母も私と同じラビットナイトだったが森に来た人間に殺された。だけど仕方ない、ラビットナイトは人間に対しいつも無力で何人も殺されてる。私もいつか人間に殺される運命なのかもしれない、だが目には目を、私は必ず同胞を何人も殺してきた人間を許さない。たとえこの身が滅びようとも。


その日も私は森を待機していた、ただ木のそばで立ち尽くし誰かが来るのを待つのだ。いつからこの習慣がついたかは覚えてないけどそれが運命なような気がしていた。腰に剣を携え訪れる部外者を待つ。私のウサギの耳は、遠くで聞こえる戦いの音がした。


「もー、襲いかかってくるなよ。ほら、あっちに行ってくれ!」


この音は聞き覚えがある、人間が魔法を発動する時の音だ。私はその音の方向へと剣を構えながら駆け出した。音の方向へと走っていくと、魔物達が音のする方向から逃げている様子が見えた。その人間に襲い掛かろうとした魔物もいたようだが、どの魔物も殺されてはおらず逃げ延びている。私がやらなくては、たとえ奴を止められず殺されるとしても、私がやるのだ。


「私が相手をします!この人間め、覚悟しなさい!」


私は手にしていた剣の刃先を、コートを着た男に向けた。


「ま、待て!ここにいる魔物を傷つけるつもりはない。俺はただ、偶然最初に降り立った場所がこの場所なだけで……」

「問答無用、私は人間を許しません……!!」


私は男が攻撃してくるのを待つ、だが男は最初慌てた表情を見せていたものの。なぜか私を見るなり呆然とした表情を浮かべてから、まるで惚けたように頬を紅潮させている。なんて怠けた人間なの、彼は隙だらけだった。


「なんて、美しいんだ……」


彼はボーっと私を見ていた。あまりに呆然とした姿なので私もしばらく襲いかかるつもりにもならず、剣を構えたままでいた。私の顔を見てから、私の体に視線を巡らせるようにじっと眺めている。どうしてそんな風に私を見るのか分からないが、彼がまた動き始めるのを私は待った。


「君は美しい……こんな美しい人がいるのか……ここには、ザコ敵しかいない森のはずなのに」

「何を腑抜けたことを、私はあなたを斬り殺しますよ!」

「無駄だ。君に俺は殺せない、俺はレベルが999ある、それに対して君のレベルは4だ。君はいわゆる、この世界ではザコ敵なんだ」

「意味の分からないことを……!せやあああ!!」


彼の言っていることは分からないけど、なぜだか私のことを見下しているように感じた。人間に侮辱され私は激昂してしまった、我を忘れ両手で剣を握りしめると真っ直ぐに彼を叩き斬ろうとしたが。

彼は私に向かって指を突きつけた、あの指の形はあれに似ていた。前に人間が所有しているのを見た事がある、銃だ。彼は指を銃の形のようにして私に向けると、その指先から橙色の光が解き放たれ真っ直ぐ光が向かってきた。


「きゃッッ!」


それは最初、私に向けられた光かと思ったが。彼はその光を私に当てないように放出した。その光は私の背後にある岩に直撃すると、強烈な爆発を発生させ地面にそびえ立っていた岩は粉々に割れた。彼は私に自らの力を見せつけたのだ、指先一つで岩を粉砕することなど簡単だと。ただこの程度で怯む私ではない、私は必ず立ち向かう。


「すごいですね……ですがこれで怯むとでも」

「君の足、震えてるぞ?」

「……!?震えてません!」


私は確かに恐怖していた、彼の攻撃で私は簡単に死ぬだろう。だが人と敵対する魔物として引き下がるわけにはいかなかった、私は強い意志を持って立ち向かおうとする。ただ彼には戦う意志がないのか、それ以上自分から攻撃はしてこなかった


「やめておけ、君は俺に勝てないし、俺はここにいる魔物も傷つけない。ただ……俺の気持ちを聞いて欲しい」

「さっきから私を見下して!許しません!!」


常に優位に立っているという彼の態度が気に入らず私は我を忘れて彼に斬りかかった。でも彼は、ひょいと体を軽く傾けて私の剣を余裕で回避する、まるで剣の動きが見通されていたかのように。何度も斬りかかるが、彼は必要最小限の動きで全ての剣の動きを回避した。たまらず私は彼の腹部に剣を突き刺そうとしたが、その瞬間、彼は目の前から消えて。


「俺はここだ」

「なッ……!?」


彼は気づいたら背後にいた。一体どんな魔法なのか、瞬間的に彼は私の背後に移動していたのだ。私は剣を必死に振り回して腕に疲れを感じているのに彼は私の行動に対し常に落ち着いた態度でいた、その態度がなぜだか見下されているようで私の怒りを増幅させた。人間はいつも私たちの種族を見下す、彼だってきっとそうだ。


「聞いてくれ、君は元々ザコ敵としてプログラムされているから、もしかしたらこの森に留まるのが運命だと感じているかもしれない。でも俺ならその運命を変えられる。俺と一緒に、この森を抜け出してみないか?」

「戯言を……この森に留まり続けるのが私の役目。この森で人間を迎え討つのが私の運命さだめです!」


余裕そうにしている彼にまた斬りかかるが、彼の姿はまた目の前から砂が流れるかのように消えて。気づけば木の枝の上に移動して座っていた


「この、降りてくるのです!逃げてばかりいないで、あなたも私に攻撃してきなさい!」

「攻撃はしない!俺はこの異世界に、チートの能力を授かりながら転生してきた。俺が攻撃なんかしたら、君は即死する。そんなこと可愛い君にしたくない!」

「さっきからわけのわからない事を……私はザコ敵なんかじゃないです!人間はそうやっていつも私達の種族を見下して!」

「……見下してはいない」


座っていた木の枝から彼の姿が消えると私はまたどこにいったか探すが、髪に触れる手の感触。彼は私の長い髪を一房手に取ると、手に取った髪を顔に寄せ、私の髪の香りを吸い込んでいた。私は咄嗟に香りを吸っている顔を手で叩こうとしたが、彼はそれも余裕で回避してしまう。


「ッ!?この変態……!」

「すまない……だが君は俺を敵として見てるが、俺は君を女性として見ている。俺は君に恋した、君の言う事を何でも聞く。俺のチート能力を好きに使ってくれ、この通りだ!」


彼はその場に膝をついて、私に頭を下げた。

私はさっきから彼の言っている事が理解出来ないし、私は人間を嫌悪する。生まれつきなのか分からないが私は人間が嫌い。たしかにペティート族は人間にウサギの耳が生えただけのような見た目の種族だが、人間の多くは私たちの種族をケダモノと嫌悪する。そういう人を多く見た以上、私に頭を下げているこの男も信用することができない。岩を指先で壊せるほどの危険な力を持っているこの男を


「私の言う事を聞くなら……魔物を傷つけず、早くこの森を立ち去ってください。この森に、人間を近づけたくはありません」


彼にそれを伝えると、男は切なげな表情で私を見上げてきた。ぷるぷると瞳を潤ませながら唇を噛み締めて、立ち去ってと言っただけなのになんて切ない表情をするの。強力な力を持っているであろうその男は、すぐに殺せるであろう私の前で弱々しい顔を浮かべている。


「俺はトウヤ。アオイ 刀矢トウヤだ!君の運命がこの森を守る事なら、俺もこの森の守護者となろう、そして毎日君に会いにいく。俺は神様から最強の力をもらってこの世界に降りたが、富も名誉もいらない。欲しいのは君だけだ。君のことが好きだ!」

「……森にいたいなら、好きにしてください、ただここにいる魔物を決して怖がらせないで」

「大丈夫だ!俺は透明になれるから、これで魔物にも姿を見られず森を守ることが出来る。ほら見てっ」


彼は自分が透明になれることを証明するように、パッパッとその場で姿を点滅させるようにしている。一体彼はどれだけの魔法を持っているのだろう。


「そんな魔法を持ちながらどうしてこの森にいようとするのか分かりませんが……森にいるのは勝手ですが寝床は用意しません。ここは人間が過ごすための場所じゃないですからね」

「当然だ!配慮なんていらない。あと君が必要なものも何でも揃える、森を守るために必要なものとか!」

「……変な人。私の名はティラです」


あまりにも私の近くにいるために必死なものだから、私はつい顔が綻んでしまった。何なのでしょうこの変人は、透明になる魔法を備え岩を砕く力を持っているのに、私なんかのそばにいようとするなんて。


「ティラ、ティラか……素敵な名前だ、毎日君を見ていてもいいか」

「好きにしてください。森の魔物を傷つけないなら、もう何でもいいです」

「ああ、ありがとう……俺まだここに来たばかりだから、まだあちこち見て回りたいんだ。それじゃ!」


そう言うと、彼はまた姿を消してしまった。

一体何なんだろう、私のことをザコ敵呼ばわりしつつ、私に恋したと言って。転生とかチートとか、よく分からない言葉を使ってくる。いったい何の魔法の言葉なのか分からないけど、この繰り返し森で人を殺すために待ち続けるだけの人生に、少し変化が訪れた気がした。


その翌日から、彼は私を見かけては何度も笑顔を浮かべてた

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