第39話 新年とともに訪れる、民主共和国、崩壊の兆し(前編)
全員で満喫した皇国大収穫祭を終え、師走は足早に過ぎていった。 年末年始休暇もあっという間に過ぎ、サラリーマンらしく新年の得意先回りなどを終えたあと、俺はようやく、ツキア皇国のいつものオフィスで一息ついていた。
今は1月のおわり。昨年末より開始した、ポンダム民主共和国における新型アルカディア展開と、SNSの利用状況について、結果報告が上がってくる日である。
「お、ポーラちゃんと、マルティナちゃん来たっすよ」
ふたりが資料を手に、オフィスに入ってくる。
「おはよー、ナオヤ、ジュン」
「おはようございます。 ジュンさん、ナオヤさん」
「うう、今日も寒い……こたつこたつ」
「マルティナ、お前、出勤するなりコタツか……」
「しょうがないじゃない! こんなに寒いんだもん……はあぁ、幸せ……」
まったく、しかたない奴だ……確かに今日は特別寒いな……皇都もすっかり雪景色だ。
「……あれ? ハルカはどうしたの?」
「ああ、学校に用事があったらしく、遅れて来るそうだ」
「ふーん、ハルカの学校かぁ……いつか遊びに行ってみたいわね!」
「残念だったな……17歳になったお前には、中等部への入学資格はないぞ……」
「うー! そんなの、言われなくてもわかってるわよ!」
……マルティナはいつも通りだ。昨年の皇国収穫祭の夜、もしかして……と思ったが、考え過ぎだったようだ。 まあ、コイツとは一回りトシが違うしな……
「よし、先に始めるか。 ポーラ、まずポンダム民主共和国における展開状況を教えてくれ」
「はい、先月から新型アルカディアの格安配布を始めましたが、現時点で10万台程度配布できています……3年契約縛りで」
「共和国秘密警察も、通信の盗聴は出来ないようで、各地で盛り上がっています。 ふふふ、色々と……3年契約縛りで」
「お、おう、順調そうで、何よりだ」
ポーラの奴、プーラちゃんを使って腐女子聖典なる、危険なものを配布していたが、共和国女子のメンタルは大丈夫だろうか……そして本当に3年契約させてるんだな。
「特に、反共和国の気風が強い、旧周辺国中心に配布しましたので、もうすぐ面白いことが起きるかもしれませんね♪」
面白い事、か。 帝国文春を読んだが、ポンダム民主共和国は急速な膨張と強圧的な統治で、各地で不満が高まっているらしいな……ポーラが、なにかを仕込んだと言っていたが……
ガチャ……
「ん、少し遅れちゃった。 兄さん、みんな、おはよう」
陰謀を巡らすポーラに震えていると、遅れていた遥が到着した。
学校に寄っていたので、冬服セーラーにもこもこコート、パンダ耳のイヤーマフにミトンの手袋、マフラーともっこもっこしており、大変かわいい。きゅいきゅいと駆け寄るブルミ君を抱き上げ、コタツに入ってくる。
「おはよう、ハルカ。 学校で何してたの?」
「きょう? わたしはウサギ係だから、うさぎさんのお世話をしてきたよ」
「くっ……遅れる理由すら、かわいいだと……!?」
遥が醸し出す、かわいいゾーンに、マルティナが驚愕している。まあ、いつものことだな。
「すまんな遥、もう始めていたぞ。 アルカディアSNSの利用状況を纏めてくれたんだったな」
「うん、兄さん。 これだね……今のところ、順調。 アルカディア契約者の90パーセント以上が使ってるね」
「傾向としては、自撮りポイートと、ご飯食べたよポイートが多い感じだね。 あと、ヴァイナー公国では、「○○してみた!」ポイートが流行ってるね……「ドラゴンの巣に素手で突撃してみた!」とか」
「ふむ、大体俺たちの世界と同じ傾向か……って、ヴァイナー公国の連中は命知らずだな……ロシア人か?」
「あと、わたしたちのアバターが載せた、チュートリアルその他に対する、スパチャ成績だけど……なんと、なんとマールちゃんが一位。しかもぶっちぎり」
ガタッ
「!! ほんと!? ついにマールちゃんの時代が来たのね! おおお、感激だわ!」
衝撃の結果に、思わず立ち上がるマルティナ。 なん……だと?
「……まさか、マールちゃんが一位とは……スパチャ履歴は……んっ?」
遥からシェアしてもらった、スパチャ履歴を確認すると、確かにマールちゃんがダントツだが、とびぬけて高額な投げ銭が何回もある。
「おいおい、なんだこりゃ……100万魔法石手形 (1億円以上)の投げ銭が、何回も入ってるじゃないか……」
「しかもそれ、同じアカウントだよ……」
「おお、本当だ……もしかしたら、共和国の支配者階級なのかもしれんな。 まったく、この世界の上級階級は恐ろしいな……」
ヴァイナー公国の貴族連中といい……運営側としては助かっているが。
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ポンダム民主共和国首都、エルウィン私邸。エルウィン・ホルネーは、マールの個人アカウント、”マールちゃんねる”に課金し、悦に入っていた。
「ふふふ、やはりマールちゃんは可愛いわい……ほら、また1000万だ……」
エルウィンが投げ銭すると、マールちゃんがかわいく反応する。 もちろん、この金は国家予算である。共和国の金は、ワシの金なのだ。
「このまま、ワシが世界一のカレー屋にしてやるわい……ん?」
現在、エルウィンがみているのは”マールちゃん カレー王を目指す!”という、ドキュメンタリータッチの動画配信コーナーである。 どの辺をターゲットにしているのか、よくわからない。
案の定「カレーって何? よくわかんない」「う〇こ食ってるときにカレーの話すんなよ!」「貧乳はカエレ! プーラちゃん最高」「プーラ厨は陰キャ」などの荒らしコメントが入る。
はあ、ネットマナーがなってないな……エルウィンはため息をついた。
”みなさん、喧嘩はほどほどに。マールちゃんも、プーラちゃんも、彼女たちを愛でる気持ちはみなさん共通のはずです。 スパチャアイテムを皆さんに共有しますから、みんなで楽しみましょう!”
エルウィンの仲裁により、レスバトルは収まったようだ。 共和国を牛耳る恐怖の最高人民評議会終身議長は、ネット上では常識人だった。
その時、貧相な国防相から連絡が入る。陸軍の師団で軽微な反乱があったらしい。
「そんな些末な報告でワシの至福の時間を邪魔したのか? めんどうだ。 反乱分子がどこにいるか分からんのだから、関係者の周囲含め1万人ぐらい粛清しておけ。 師団長は銃殺な」
まったく、ワシに反抗するヤツは駆除すればいいのだ……エルウィンは粛清の指示などすぐ忘れ、”マールちゃんねる”に没頭していった。
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ポンダム民主共和国 辺境部
元ルーム王国 王都某所
レジスタンス、「ルーム王国解放戦線」のリーダー、カミラ・ルームは歓喜で踊りだしそうだった。新型アルカディアを手に入れてからというもの、レジスタンス組織間の連絡や、補給の手配が、格段にスムーズになったのだ。
反共和国のコミュニティも盛り上がっており、併合時に無理やり国有化された、旧周辺国の企業を中心に、資金提供の話も絶えない。このままいけば、2月末をめどに大規模な蜂起をすることが可能だろう。 嬉しさのあまり、プーラちゃんのフジョッ・シ聖典新作を購入してしまったほどだ。もちろん、カミラ自身のお小遣いを使ったのだが、今回も大満足だった。
彼女は、慎重に決起計画を練っていく。共和国政府は、極度にエルウィン・ホルネーに権力を集中させている、いびつな体制だ。もちろんトップを討つというのも1つの手だが、カミラが注目したのは、国防軍だ。ここ最近、師団トップの粛清が相次いでおり、指揮系統が動揺している。ここで、軍トップである国防相を何とかすれば、配下の師団の反乱すら誘発できるかもしれない……軍が無くなれば、エルウィンは裸の王様だ……魅力的な案ではあるのだが、実行するには情報が足りない。
エルウィンや国防相の動静は最高の国家機密となっており、容易にはこちらもつかめない。 なんとか、情報を手に入れられないだろうか……カミラは、地下のアジトで思案を巡らせていた。




