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第33話 異世界デジタル化チーム、(ローカル)英雄になる

 

 ドラゴン退治の目的であった、”特殊な魔導水晶”を回収し、戦いの疲れを癒すためにコーチ・シティに戻ってきた俺たちを待っていたのは、歓迎の嵐だった。


 港には、

「祝! グレイト・ドラゴン退治! コーチの女神、ポーラお嬢 寄贈:コーチ漁業ギルド」

 と横断幕が貼られ、ポーラの舎弟……同僚の漁師を始め、コーチ市民が歓迎に集まっていた。


 地元の新聞は号外を発行し、500年ぶりのグレイト・ドラゴンの出現と、それを退治し、シッコク島の危機を救った英雄! と俺たちのことを紹介している。どうやら、ポーラがあの極限状態の中でも、俺たちの戦いの模様をアルカディアで記録し、マスメディアのアカウントに送っていたらしかった。


「アルカディアの宣伝にもなりますし、貢献度をアピールすることで、新たなスポンサーの開拓にもなるかもしれません」

 とは、ポーラの談であるが、ともかく俺たちは盛大な歓迎を受けていた。


「ふへー、疲れたわ」


 マルティナが、ソファーにぐてーっと横になる。だらしない格好だが、今日ばかりは仕方ないだろう。今朝、戻ってきてからずっと、歓迎式典、受勲式、マスコミの取材と、休む暇もなかったのだ。


 ここは、コーチ・シティの郊外、シッコク島最大のリゾート施設である。海と山に囲まれた、風光明媚な土地で、宿には露天風呂も完備されている。遥は「異世界温泉!」とテンションMAXになっていた。かわいい。


 休息を兼ねて、数日滞在しようと思う。ちなみに、俺たちだけの貸し切りである。


「さて、この後はコーチ漁業ギルド主催の夕食会だったな。 それが終われば、ようやく自由時間か」

 俺と淳は有給申請を出し終えると、更衣室でスーツに着替える。公式な場だ。やはり社会人はスーツでなければな。


「ね、兄さん、わたしは何を着ればいいかな?」

「そうだな、遥は学生だし、制服がフォーマルだろう」

「らじゃー」


 中学校に休みの申請と、その期間の宿題を提出し終え、更衣室に走る遥を、ブルミ君がとてとてと追いかける。ちなみに、神獣ブルフォレスト・ミンクが人間に懐くのは、有史記録上初めてとのことだ。


 アルカディア上で神獣クラスタ (そんなものがあるのか?)がざわめいていたらしい。


 まあ、遥は地上に舞い降りた天使だからな、そういうこともあるだろう。


「ということで、お前も早く学院の制服に着替えてこい」

「う~、早く温泉はいりたい……」

「2時間我慢しろ。これも仕事のうちだ」

「ういー」


 マルティナはよろよろと立ち上がると、更衣室に向かって歩いていく。まったく、たるんでるな。


「お、そうだマルティナよ。”マールちゃん擬竜化モード”は、昨日のうちに配信しておいたぞ。素晴らしいことに売り上げランク1位だ」

「いつの間に……それはうれしいんだけど、マールちゃん、どんどん変な属性が付いてない?」

「おお、案ずるな。マールちゃんについて、どんな会話がアルカディア上でなされているか、遥がデータ化してくれたぞ。これがそのタグだ」

「……なになに?」


 #貧乳天使

 #愛すべきポンコツ

 #淫〇ピンク

 #脱マニア向け

 #貧竜少女マールちゃん new!!

 #精〇タンク new!!


「ロクなのがない!?」


 マルティナの悲鳴が、広間に響くのだった……。


 **  **


 リゾート施設のレセプションルーム。多くの丸テーブルが置かれ、壁際には色とりどりの料理が並んでいる。名産であるカツオのたたき、シイラやクジラの焼き物などのぱっと見、俺たちになじみの深い食材に加え、真っ赤な巨大きのこのバターソテー、シーサーペント?のステーキ、超絶珍味とされる、ドラゴンの白子など、よくわからない食材も並ぶ。多彩な焼酎、ワインもあり、見ているだけでよだれが出そうだ。


 俺たちは一応主賓扱いになるので、先に部屋に入って、真ん中のテーブルに座っているのだが……


「そういえば、ポーラの姿が見えないが、どこに行ったんだ?」

「一応、あの子の父親がコーチ漁業ギルドの長(ギルドマスター)だからね。市長その他(VIP)の出迎えがあるって聞いたわ」

「なるほど」


 その時、司会者と思わしき女性が、もうすぐ夕食会が始まることを告げた。


 ガチャっ

 ざざざざざっ


 次の瞬間、入り口のドアが開き、いかついスキンヘッドの黒服たちが大勢入ってきて、俺たちの前に整列した。


「??」


 何が起こったのか、俺たちの頭の上に「?」が浮かぶ。


「皆様方、こちらコーチの荒くれ者にございます! こたび、ウチのお嬢が、大変お世話になりやした! なにぶん、粗野な者どもの集まりでございますから、皆様には無礼もあろうことかと存じますが、是非にご容赦を! お控えなすって!」

「……は、はあ、これはご丁寧に……」


 俺たちは盛大に困惑していた。なにが始まるのだろうか?


「それでは、紹介させていただきやす! オヤジ! お嬢!」


 その声とともに、レセプションルームの入り口から、ポーラと一人の男が入ってきた。男は、2メートルを超える堂々とした体格。頬や腕には大きな刀傷があり、どう見てもまともな人間に見えない。


 ポーラはいつも通り、お嬢様然とした笑顔を浮かべているが、いつもの魔導学院の制服ではなく、浴衣?着流し?のような服を着て、帯に帯剣している。黒服たちがびしりと最敬礼する間を、ふたりは悠然とこちらに近づき……


「私はコーチ漁業ギルドのギルドマスター、ガイウス・スチュアートです。この度は大変ご苦労をおかけしました。娘に代わり、お礼申し上げます」

「「「「ポーラの父親!?」」」」


 俺たちの驚愕の叫びが、レセプションルームにこだました。


 **  **


「先ほどは叫んでしまい、失礼しました」


 その後、夕食会はつつがなく始まり、和やかな雰囲気で進んでいる。お酒も入り、淳などは黒服の皆さんと何やら盛り上がっている。市長も挨拶していたのだが、印象が薄すぎて忘れた。というか、ポーラ一家が濃いのがいけない。


「いやいや、私はどうしてもこういうナリなもので、勘違いされてしまうんですわ、がはは!」

 話してみると、ポーラの父親、ガイウスさんは面白い人だった。……小指が短いのが気になるが……


「(ねえねえ、兄さん、やっぱりポーラおねえちゃんの家って、特殊家業)」

「(しっ! いけません遥。それは禁則事項だぞ)」


「ああ、この指ですか。 二十歳の時にシードラゴンにかじられましてな! いやあ、あの討ち入りは楽しかった! がはは!」


 俺たちの視線に気づいたのか、若いころのやんちゃを、豪快に笑い飛ばすガイウスさん。


(討ち入り?)

(もしかして、シードラゴン[隠語]なのでしょうか……)


「それにしても、アルカディアでしたか。ポーラから聞いていますぞ。 雌のドラゴンをキノコに投影しておとりにし、隙を突くとは、見事な戦術です。うちでも参考にさせてもらいます!」

「あと、海産物流の効率化について、アドバイスありがとうございます。 特にコーチのカツオ、ゴマサバは足が早くてですな、ナオヤさん作成の需要予測アプリ、大変重宝しております」


「おお! そう言って頂けると、俺は、大変……大変感謝の極み……」


 そうだった、そうだったな。俺の本来の仕事は、この世界のデジタル化 (物流や販売の効率化、高付加価値化)だったはずだ。なぜか、魔導スマホを作っているが……


「そういえば、聞けばナオヤさんは独身とか。ウチのポーラの婿に、どうですかな? コレはこんなですが、意外にかわいい所もありますぞ」

 俺が感涙にむせんでいると、いきなりとんでもないことを言いだす。このオヤジ、酔ってやがるな……なぜかマルティナと遥が、ぶっ! と噴き出しているが、なにか喉にでも詰まったのか?


「もう、飲み過ぎですよ、お父様。 残念ながら、ナオヤさんには先約がありますので……」

「なんと! それは残念……ふうむ、なるほど」


 なにがなるほど、なんだこのオヤジ! いかんな、俺も酔ってきたようだ。 ん? マルティナと遥の顔が赤いな……未成年なんだから、酒はいかんぞ。


 **  **


 ふう……染みわたるな……夕食会も無事に終わり、俺たちは温泉に入っているところだ。


 ここはリゾート施設の露天風呂。100人は入れるだろう湯船を、俺たちだけで独占とは、ぜいたくな話だ……


「むむ! この肌触りは炭酸水素塩泉! 和歌山の河湯温泉に匹敵する泉質だよ! コーチ、侮りがたし!」

「ふふ、温泉となるとハルカさん、ガチですね」

「気持ちいいんだけど、ナオヤたちがそばにいると、落ち着かないわね……」

 ……きゅい~~~ん


 そう、実はここの温泉は混浴、なのだ! KO・N・YO・KU!


 という事で、主に倫理的な規定でタオルを巻いて湯船に入ることを許していただきたい。ちなみにさっきの鳴き声はブルミ君だ。奴はラッコの様にあお向けに浮かぶと、ぷかぷかと気持ちよさそうに泳いでいる。


「…………」

 淳は両手を胸の前に組み、昇天している。魂が抜けていないか? 大丈夫だろうか。


「それにしても、学院のクエスト消化のつもりが、思わぬ大冒険になったな……」


「エンシェントドラゴンとグレイト・ドラゴンは、子犬と熊くらい違いますからね、しかたないです」

 凝り固まった体を湯の中でほぐしながら言う俺に、苦笑しながら答えるポーラ。 ……うーむ、それにしてもデカいな……ぷかりと浮いているではないか……


「う~、やっぱずるい……魔法は完ぺきなのに、なぜ大きくならないのかしら……」

 マルティナが首をかしげている。


 ふふ、いつもの光景に、思わず笑みがこぼれる。


「兄さん、楽しそうだね」

 遥が笑顔で近寄ってくる。 ああ、温泉ハルカと混浴とは、ここは天国だろうか……


「遥もな。 ここでの仕事は楽しいか?」


「うん! みんなもいるし、色々ドキドキすることもあるし、最高だよ!」

「ふふっ……(なでなで)」


 花が咲くような、満面の笑顔な遥を見るだけで、俺は満ち足りた気持ちになるのだった。


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