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第19話 異世界デジタル化チームの休日(テーマパーク編)

 

 ウニバーサルスタジオ・ジャパン。

 某合衆国の、巨大映画製作集団のライセンスを取得し、様々な映画をテーマにしたアトラクション、アクティビティなどを集めた総合テーマパークだ。期間限定のコラボアトラクションもあり、何度行っても飽きない。


 次の日の朝、俺たちはホテルを出て、ウニバーサルスタジオの入場ゲートの前に立っていた。ガリー・ポッターのコスプレをした少女たちや、黄色いマスコットを抱えた子供たちを連れた親子連れ。みんな期待に顔を輝かせながら、入場ゲートに吸い込まれていく。


「……」

「……」


 そんな華やかな休日の空気の中、テーマパークのあまりの大きさに驚いたのか、マルティナとポーラはぽかんと口を開けて固まっている。

 ふむ、驚いて声も出ないか。


「……ね、ねえナオヤ、ここが昨日あなたが言っていた、「てーまぱーく」なの?」

「……本当に遊ぶところなのでしょうか? 魔導士の方も多く見受けられますし、二ホン皇国の魔導研究施設なのでは?」

 なるほど、この光景を見ると、そう思うのも無理はない。


「現在、パークをあげてのガリー・ポッターコラボが開催中だ。魔法使いの格好をしている奴らは、コスプレだ。何も考えずに、楽しむがよい」

「こ、こすぷれ? 魔導士じゃなく、遊ぶためにそういう格好をしているってこと?」

「なるほど、だからナオヤさん、ジュンさんがそういう格好をしているんですね」


 そういうことだ。 俺と淳は赤いネクタイに黒いセーター、マントを羽織るという、主人公である魔法使いガリーのコスプレをしている。


「あー、その宮廷魔導士っぽい恰好は、そういうことなの。だから、わたしたちにも、魔導士としての正装をしてこい、なんて言ったのね」


 今日のマルティナとポーラは、ローウェル皇立学院の制服に、マントを羽織り、先端が少し折れ曲がった、黒い帽子をかぶっている。童話などで、意地悪ばあさんな魔女がかぶっている奴だ。

 おかげで、周囲に違和感なく溶け込んでいる。


「”ディミヌエンド”~!」

 ふむ。やはり本職、似合っているではないか、と感心していると、ふいに遥のかわいい声が響いた。


挿絵(By みてみん)

 そこにいたのは、いつものプラチナブロンドの髪に軽くふわふわパーマをかけ、オレンジラインの入ったグレーのセーター、黒いスカートに身を包み、黒い魔法使いのマントを羽織った天使だった。由緒正しき魔法使い少女のスタイルを守り、ストラップシューズを素足で履いている。うむ、大変に素晴らしい。今日はなんて良い日なんだ。


 遥は、魔法スティックをマルティナに向け、かわいく呪文を唱えている。そう、遥はガリー・ポッターのヒロインである、ハニーマイオーのコスプレをしているのだ!


「か、か、か、かわいいいいいぃぃ!」

「……(なでなで)」

「……(昇天)」

 絶叫するマルティナに、満面の笑みで頭を撫でるポーラ、満ち足りた表情で手を組み、静かに昇天する淳。


 こいつらの気持ちは大変よくわかる。俺はさっそく撮った写真を敬介 (3Dモデラ―)に送ると、俺専用の3Dモデルを作成するように依頼した。俺、この戦いが終わったら、コスプレ遥の3Dモデルを仕事PCで躍らせるんだ……

 ちなみに、”ディミヌエンド”は、劇中では相手を縮ませるために使っていた魔法だ。それをマルティナの胸元めがけて唱えるとは。遥め、なかなかやるな。


「……よし、そろそろ中に入るとするか」

 ひとしきり遥のかわいさをかみしめた後、俺たちは入場ゲートをくぐり、テーマパーク内に移動した。


 ***  ***


 入場すると、さっそくパークのマスコットである「ウニバ君」が愛想を振りまいてくる。ウニの格好をしたマスコットで、お客さんとふれあいたいのだが、針のせいで近づけないという、複雑な人の心をメタファーした、とても深いマスコットである。


「……やっぱり、海産物に戻ってくるのね……」

 なにやらマルティナが遠い目で呟いているが、どうしたのだろうか?


 やはり、最初はガリー・ポッターとコラボしているアトラクションに行くべきだろう。

 心配するな、ファストパスも入手済みだ。


 お目当てのアトラクションがあるエリアにやってきた。ガリー・ポッターの舞台となった城、村などが忠実に再現されている。遥が辺りを見回して、キラキラしている。かわいい。


「へー! これはウォリック・レガシースタイルデザインの魔導士の村ね! わたしも文献でしか見たことないけど!」

「グンマー・カウンティに行くと、いまだにこういう村があるそうですよw」

 彼女たちにとっても、この風景は珍しいらしく、楽しそうだ。

 ……ポーラよ、向こうでも群馬はそういう扱いなのか……俺は少しグンマーの住人に同情した。


 俺たちはファストパスを使い、ライドアトラクションの入り口に立つ。

「……これは、どういうものなの?」

「そうだな、コースター……トロッコのようなものに乗って、ガリー・ポッターの世界を追体験するんだ。バーチャルリアリティで空を飛んだり、魔法を使ったりできるぞ」

「よくわかんないけど、楽しそうね! 空を飛べるとか、わくわくしちゃうわ!」

 シルヴェスターランドでは、移動魔法が普及しているが、転移系の魔法が中心だ。飛行魔法は充満するエーテルの影響でうまく飛ぶのが難しく、ほとんど使われていないらしい。そのため、魔法が日常的にある彼女たちにとっても、空を飛ぶというのは、貴重な体験らしい。


「わわわわ! めっちゃ動くじゃない! きゃーー!」

「うふふ、こうやって敵に当てればいいんですね」

「(わくわく)(キラキラ)」

 コースターの動きについていけないのか、ひたすら叫ぶマルティナと、すぐ順応し、敵を正確に撃ち落としていくポーラ。隅々まで見ながらわくわくしている遥と、楽しみ方も三者三葉で面白い。


 コースターは一気に高低差を下り、大きくカーブすると、目の前に巨大なドラゴンが現れた。ステージのボスキャラらしい。


「くっ、やらせないわ!!」

 おもわず、いつものようにマルティナが魔法を使おうと、手を前に出す。

 おいおい、ここは日本だぞ、使えるわけが……


 ぼふっ


 やや間抜けな音とともに、野球ボール大の火球が生まれ、一瞬俺たちの顔を照らし出した後、すっと消えた。


 はあっ!?


 思わず呆然とする俺たち。そのまま、コースターは終点に到着し、アトラクションは終了した。


「おいマルティナ、アレは何だったんだ? こちらにはエーテル粒子がないから、そもそも魔法が発動しないんだよな?」

 アトラクションの出口で、記念に受け取った写真を見ながら、(1枚千円。アトラクションのハイライトで、驚くお客さんの姿を撮った、まあよくある奴だ)俺はマルティナに確認する。写真係のお姉さんも、これは何だろうと首をかしげていたぞ。


「う~ん、僅かに魔法が”発動”する手ごたえがあったのよね。何だったのかしら」

「マルティナおねえちゃん凄い! こちらでも魔法を使えちゃうなんて! さすが天才魔導士!」

「そ、そうね! わたしは天才なんだから、こういうこともあるわ!」


 素直な遥の称賛に、素直にドヤるマルティナ。理屈もなしに、そんなことになるのか?

「おそらく、先日の事件の際に発生した膨大な魔力が、エーテル粒子を固定化して、一部マルティナさんに残っていたのでしょう」

 なるほど、ポーラのそれっぽい解説に、納得してしまう俺たち。


「そういえばマルティナさん、今日の下着は、先日の事件の時と同じものを履いてませんか? マルティナさんはいつも洗濯が雑ですから、魔力で固定化したエーテル粒子のカスが下着に残っていたんだと思います。うふふ、マルティナさん、まるでおのこし(残尿)をローブに染みさせた、昇天寸前の老害宮廷魔導士Aさんみたいですね☆」

「フム、そういわれると先ほどの火球、汚い花火だったな」

「ちょっとふたりとも! 言い方言い方!!」

「……ぷっ」

 あんまりなポーラの説明に、抗議の声をあげるマルティナ。その様子があまりにおかしかったのか、思わず吹き出す遥。


 にぎやかな休日が続いていた。


 ***  ***


 ひととおりアトラクションを回り、俺たちはパーク内のカフェで一息ついていた。


「へへ、マルティナちゃんも大したことないっすね。「魔導士たるもの、どんな激しい動きにも耐えて見せるわ!」っていってたのに」

「くっ、ジュン! アナタがタフすぎるのよ!」


 こいつらは、あまりに怖すぎて人気が無い、やり過ぎアトラクション「フライング・プテラノドン」10回耐久勝負をしていたらしい。俺だったら、金をもらってもお断りだな。なんにしてもマルティナ、相手が悪かったな。淳はどんな絶叫マシンに乗っても、顔色一つ変えずに多重リピートが可能な三半規管ぶっ壊れ男なのだ。エンジニアなんかより、戦闘機パイロットにでもなればよかったんじゃないか?


「そうだ、みんな。せっかくだから、カメラ機能のテストをしとこ」

 遥はそういうと、ポシェットから新型魔導通信端末のデモ機を取り出した。

 カメラ機能をタイマーモードにし、テーブルの上にセットする。カメラ機能については、こちらの部品と制御ソフトウェアをそのまま使っている。


「そうだな。よし、遥、マルティナ、こっちにこい。ポーラと淳は、後ろに立って」

 俺たちはポーズをとると、仲良く写真に納まった。

「おお、良く撮れてるじゃないか」

 再生してみると、撮影した俺たちの思い出が、鮮やかに超硬化魔導硝子でできたモニターに表示される。


「そういえば、兄さん。 端末(このこ)の名前は、どうするの?」

「そうだな……「アルカディア」というのはどうだ?」

「どういう意味なの?」

「昔の言葉で、「理想郷」という意味だな。この端末が、シルヴェスターランドに新たな世界をもたらしてくれる、という意味を込めて。それと、新しい「メディア」になってほしいという、言葉遊びを込めているな」

「へ~、ナオヤにしてはいいセンスしているじゃない! それでいきましょう! みんなも、異論はないわね?」


 全員が笑顔でうなずく。


 よし、こいつの名前は、「アルカディア」だ!


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