第17話 天才電脳少女、恐怖の友情破壊ゲームを異世界に持ち込む
マルティナ覚醒事件 (仮称)から、さらに1週間の時間がたった。
今日も10時から、オフィスのミーティングコーナーで会議を行う。
開始まで時間があるので、俺たちは雑談にいそしんでいた。
「……そこで、マルティナさんったら、「ア”ナ”タ”とじゃなきゃ、ダメなの~!」と、鼻水を垂らしながら、愛の告白を……w」
「ちょっ、ポーラ! 愛の告白じゃないわよ! それに、鼻水を垂らしていたって、なに!?」
「そうだぞ、ポーラ。こいつが垂らしていたのは、よだれだ。さすがの残念B級ヒロインだな」
「もー! それは言わないでって言ってるでしょ!」
……とまあ、まったくもって通常運転だ。あの出来事から、魔力?の制御がうまくできるようになったのか、爆発事件が減ったのは大変結構なことだ。
「……むーむー」
なにやら、遥がむくれている。
今日の遥は私服だ。プラチナブロンドの髪をサイドテールにし、空色のワンピース、ピンクのリボンがワンポイントで入った、レディースサンダルを身に着けている。
とてもとてもかわいい。しかも、今日はサンダルなので、生足だ。今日は、生足だ! (大事なことなので2回言った)
「……なにか、不満なことでもあるのか、遥。兄さんが何でもしてやるぞ?」
むくれている遥も大変かわいい。俺は萌えながら遥に話しかける。
「……ずるい」
……ん?
「……ずるいずるい! そんなオモシロ…んん、ひろいっくシーンがあったのに見れなかったなんて! ねえ兄さん、なんでわたしはその場にいなかったの?」
「……登校日だったからだ」
そう、遥は先週のマルティナ覚醒事件 (仮称)の際、登校日で不在だったのだ。
「今度から、イベントが起きそうなときは教えてね、兄さん。学校を抜けだしていくから」
「いかんぞ、遥。学生の本分は勉強だ。ちゃんと勉強していないと、淳みたいな変態になるぞ」
「いきなりの流れ弾!?」
わがままを言う遥を、やさしく諭す俺。淳がショックを受けているが、教育のための尊い犠牲である。
「それは……でもわたし、中学校のカリキュラムは全部終えているよ?」
……そうだった、遥の通う私立中学は、中高一貫の名門校。単位制を敷いており、飛び級も可能なのだった。
今の見込みでは、来年には高等部に編入できるとか……優秀な従姉妹をもって、兄さん幸せです。ちなみに、遥は学校でウサギ係をしている。あざとい。
「遥ちゃんが、来年から高校生……ということは、合法っすね!」
「お前、海に沈めるぞ……」
聞き捨てならないことをぬかす淳。今夜早速、闇店市場で足に付けるオモリを買っておかねばなるまい……!
「? わたしは、今でも合法だよ?」
「「「「!?」」」」
天然無邪気な、危ないセリフに、その場にいる全員が悶絶したのであった……
「よ、よし。今日の会議を始めるぞ。」
「議題は、どんなゲームを配信するか、だ。」
時間になったので、気を取り直して俺は会議の始まりを告げる。
テーブルの上には、各種ゲーム機とソフトが積まれている。
「これが、”げーむ”っていうのね。こんな箱でどう遊ぶの?」
「噂では”乙女げーむ”というものがあるとか。興味津々ですね」
このふたりは、コンピューターゲームを見ること自体が初めてなので、今日は聞き役だ。
そして、ポーラの奴、なんでそんなことを知っている……
「まずは僕っすね! 現在大人気の対戦ゲームといえば、”大乱闘! 須磨ッシュベラザーズ!”っす!」
俺もよく遥とプレーしている。京都の会社製大人気対戦アクションだ。略称は「スマベラ」
須磨の海に住むベラを始め、北海道のニシン・ウニ、広島のカキ、明石のタコ、パラオのマグロ等、各地に生息する海産物をモチーフにしたキャラクターを操り、最大16人とオンライン対戦を行う。倒した相手を寿司ネタとしてゲットできるため、収集ゲームとしての一面もある。ちなみにホシササノハベラが、SSRだ。
「……結局海産物に戻ってくるわけ……?」
デモと称して、遊びまくる俺たちを、あきれたように見るマルティナ。ちなみに遥はアクションゲームは苦手のため、とても弱い。淳はランカーだ。俺?普通。
「だが淳よ。シードラゴンや、シーサーペント、巨大ダイオウイカのようなモン〇ン的モンスターが普通にいる世界で、ニシンやタコで戦うぞ! ってなるか?」
「うっ……そうかもしれんっすね。こちらの世界では、カキやタコは食べ物にしか見えないっすもんね……」
「いえ、ツッコミたいのはそこではなく……」
ふむ、ふたりの反応がいまいちだな。こいつは保留か……
「はい、兄さん。”おかわりストリート”はどうかな?」
おお! ”おかわりストリート”! 通称:おかすと。 裏人生ゲームと人気を二分する、ボードゲームだ。
サイコロを振って、止まった場所でいろいろなイベントが起こるというのが基本だが、株を買ったり、店舗を買ったりして資金とアイテムを増やしていく。
それでだけでなく、アイテムカードを使えば、相手の邪魔をしたり、店舗を奪ったりできる仁義なきゲームだ。最新版では、ランダムで「おかわり!」モードが発動し、文字通り邪魔を「おかわり」できてしまう。伝統の友情破壊ゲームとしても有名だ。
「アバターや、衣装とか、課金ポイントも多くあるし、「おかわり!」アイテムをガチャにすれば……おおもうけだね☆」
天使の笑顔だが、遥が怖い。最後の一滴まで搾り取られそうだ……
「遥ちゃんにならいくらでも貢ぐっす!」
「確か最新版では、大人気ファンタジーRPGとコラボしてたっすね。こちらの人たちにもなじみやすいのでは?」
ふむ、確かに悪くはないか……
「へー、面白そうじゃない? 試しに遊んだりできるの?」
「そうだな、ちょうどここに最新版があるし、みんなでプレーしてみるか」
俺はゲームの山から”おかすと! クエストファンタジー”を取り出すと、ゲーム機にセットした。
*** ***
「隙あり! くらえ、マルティナおねえちゃん」
「あああああ! またわたしの武器屋が、道具屋がああああ!」
ドラゴンカードにより吹き飛ばされるマルティナの店舗。
さらに「おかわり!」が発動し、なけなしの魔法石 (今作での株だ)も奪われてしまった。
「……ぉぉぉぉ……」
さらさらと灰になるマルティナ。まるで廃人のようだ。
「……ああもう、ハルカ! お詫びとして、ほっぺもちもちの刑ね! 揉ませなさい! 舐めさせなさい!」
「きゃー」
遥は、こういうゲームにはめっぽう強い。何やら、乱数発生が読めるそうだ。さすが天才電脳少女。
マルティナは欲張って大きく増やそうとするので、よく遥のカモにされている。
「しかし、遥よ。このゲームを善良なツキア皇国の人たちにやらせるのは、刺激が強くないか?」
内乱が起きて、トーチギ・カウンティが独立宣言とかになったら、責任を感じてしまうではないか。おいしいイチゴが食べられなくなるし。
「大丈夫だよ? このゲーム配信の目的は、お金を稼ぐことだから。ツキア皇国と、仲の悪い国でベータテストすればいいんだよ」
しれっと恐ろしいことを言う遥。
神様、俺の天使が堕天使になってしまいました。お助け下さい。
俺は、信じてもいない神に祈るのだった。