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第16話 爆裂改め美少女素材魔導士、劇的展開でトラウマを克服する

 

 どろり、と生暖かい空気が体に絡みつく。視界はもやがかかったように朧げだ。

 目の前では、8~9歳くらいだろうか、小さな桃色の髪をした女の子が、嬉しそうに飛びはねている。

 力強く突き出した手のひらから、オレンジ色の光玉が生まれる。

 女の子は、嬉しそうに「それ」に、さらなる力を籠める。

 そのさきは、いけない。止めないと……

 強く願うのだが、動くことができない。

 光玉はどんどん大きくなり、輝きを増す。

 パアアアアァァァ…………!

 それは、女の子が、思っていた強さを、超えて ーーーーー



 ふっ、と、意識が覚醒する。

 いつもの自分の部屋。横を見ると、ポーラはまだ寝ているようだ。

 無意識のうちに、涙がこぼれていた。

 あの女の子は、自分だ ーー



 ***  ***



 企画会議から1週間がたった。

 あいかわらず、降り注ぐ日差しは強く、ファンタジーな茶色い屋根の向こうに見える海原からは、たっぷりと湿気を含んだ風が吹きつけてくる。

 ぶっちゃけ暑い。部屋に戻って涼みたい。かき氷食べたい。

 JKや、お姉さんたちが薄着になるという美点以外 (それが大きいのであるが!!)、俺は夏が苦手だ。そんな俺がなぜ屋外にいるのかというと…


「……これが、新魔導通信端末の素材となる、しりこんと、二ホン皇国の水晶ね?」

「ああ。サニー社製の、高性能圧電素子と、七甲山で大量にとれる紫水晶だ」


 ここは、魔導学院のグラウンドにある、魔法試験場だ。

 300メートル四方の大きさがある。攻撃魔法のテストや演習もできるように、超硬化魔導合金 (なにやら、破壊的な魔法の効果を減衰するらしい)?の防御壁を展開出来るようになっているそうだ。


 その試験場の真ん中に、うずたかく圧電素子シリコンと、紫水晶の山がそびえている。

「まあ、お前がいくら爆発を起こそうが、大丈夫というわけだな」

 原材料を運ぶために、無理を言って借りてきた10トントラック(電子機器を使っていない、30年前の骨とう品だ)のボディを叩きながら、俺は軽口をたたいた。

「……む、そんなことしないわよ」


 ……ん? 今日のマルティナは少しテンションが低いな。体調でも悪いのだろうか?


「……マルティナ、もしかして調子が悪いのか? いつものポンコツ淫ピが、鳴りを潜めているぞ。ただの美少女だと、つまらん」

「ちょ、なにがポンコツよ! 失礼ね! ……って、美少女、うえっ!?」

 怒ったと思えば、赤くなるマルティナ。忙しい奴だ。少しは調子が戻ってきたか?


「おいおい、騒ぐな。冗談だ」

「……どの部分がよ?」

「フム、後者だ」

「後半部分!?」

 がーん、とショックを受けるマルティナ。


 実は「つまらん」の部分だけだがな。これだけ見ていて楽しい奴も、そうはいない。


「……はあ、細かいことが、どうでもよくなってきたわ。 で、これを素材変換すればいいのよね?」

 マルティナは、くしゃりと前髪をかき上げると、サンプルとして素材の山から取り出した、10セットほどのシリコン圧電素子と、水晶の前に立つ。


 まずは素材位相(マテリア)の分析だ。一つ息をつくと、エーテル粒子の流れを意識し、解析魔法の術式を展開していく。

「今から集中するから、声をかけないでよね」

 ポウ……魔法が発動し、マルティナの手のひらが、青白く光る。

(……素材適合率……63パーセント……思ったよりも低いけど、わたしの素材変換魔法なら、行けるかな)


「……ふぅ」

「どうだ? マルティナ、行けそうか?」

 青白い光が消えた。解析を終えたらしいマルティナに声をかける。

「うん、問題ないわ。 思ったより適合率は低かったけど、変換魔法を強めにかければ大丈夫よ! まかせて、どーんと変換しちゃうから!」

 バッチリよ! とガッツポーズするマルティナ。

 ふむ、気負っているのが少し気になるが、まずはやってみるのがいいだろう。


「よし、マルティナ、素材変換を試してくれ」

「うん、わかったわ! 難しい魔法だから、集中させてね」

 マルティナは改めて素材に向き合うと、静かに目を閉じる。


 ……もう一度、魔力を掌に集中させる。大丈夫。魔力は十分だ。

 恐ろしく複雑な術式に、いつもより強めに、魔力が注入されていく。芸術作品にも似た、精緻な構成。

(……集中……集中……ナオヤに良いとこ見せなきゃ)

 ……っつ!?

 次の瞬間、強烈な違和感が、わたしを襲った。

 御師様(せんせい)に い い と こ 見 せ な きゃ?

 ーーー 暴走する魔法、はじけ飛びそうになる次の瞬間、憧れていた御師様を、わたしが


 フラッシュバックーー


 ぞくり。 自分をつなぎとめていた、なにか蓋のようなものが開いたのを感じた。

 ……駄目、止められない!?


「いけません! マルティナさん!?」

 ポーラの声が遠くで聞こえる。自分でも信じられないほど、膨大な魔力が注ぎ込まれていく。


 いや、このままじゃ、いやあああああぁぁああああ!!



「くっっ! 間に合ってっ」

 ポーラが防御壁のスイッチを入れ、加えて青白い魔法陣の形をした、防御シールドを展開する。

 次の瞬間、スパークが走り、蓄えられた膨大な魔力が爆発した!

 ぎりぎりで防御壁が間に合い、マルティナが粉々になるような事態は避けられた。しかし、相殺しきれなかった衝撃が、彼女を空高く吹き飛ばす。



 まずい。マルティナの奴、気絶しているようだ。あの落ち方では……!

 考えるより、体が動いていた。俺は瞬時に落下軌道を予測すると、落下地点に向けて走り出した。

「……おおおおっ!」

 野球のスライディングの要領で、落ちてくるマルティナの下に入り、いったん全身で受け止める。勢いを利用し、頭を打たないように抱え、ゴロゴロと地面を転がる。背骨がきしみ、息が止まる。

「……っくっ……はぁはあ、大丈夫か?」

「…………ぁ」

 マルティナは朦朧としているようだ。見たところ、目立った傷も、骨折もない。ひとまず無事だ。



 ーーー やだ、せんせい、しんじゃやだぁ

 ーーー わたしをかばって、ボロボロになった御師様に縋りつく。

 ーーー ふん、無事だったか……お前のその力は……恐ろしい力だが、上手く使えば……世の中のためになる……

 ーーー いいか、この貸しは……高くつくぞ……50パーセントだ……いいな、マル公……



「…………ぉい…………大丈夫か」

 まどろむ意識の中で、声が聞こえる。これは、せんせい?戻ってきたの?

 その大きな背中に手を回し、わたしは甘える。

「……えへへ、せんせい……あったかい……うへへ」



 ……なんだこいつ、いきなりニヤニヤしたかと思うと、抱きついてきやがった。いい加減暑苦しい。あとよだれを垂らすな。


 べしっ!


 なんか腹の立った俺は、十分に力をためたデコピンを、マルティナのおでこに決めてやる。

「!? あ痛ったあぁぁ! ……へ?ナオヤ?」

「へ、ナオヤ、じゃない! 痛い思いまでして助けてやったのに、なにが「うへへ」だ!」

「いいか、ヒロインというのはな、助けられたら、主人公が乱れた前髪をそっ、と直してくれるまで、目を覚ましたらいかんのだ!」

「そして目を覚ましたら、恥ずかしそうに頬を染め、主人公にお姫様抱っこで運ばれるのだ!」

「……いまどき、そんなベタなヒロインいないっすよ」

 何やら淳のツッコミが聞こえるが、無視して続ける。

「やはり、お前はかませヒロインの、淫乱ピンクだな! ならば、序盤のお色気イベントとして、その美脚で俺を踏むがいい!」

「……なにどさくさにまぎれて、自分の欲望を満たそうとしてるんすか……」


 目が覚めたわたしの前で、あまりにいつも通りに罵声を飛ばしてくるナオヤ。

 呆然としていたけどわたし、いつにもましてヒドイこと言われてない!? って淫ピってそういう!

 でも、なぜか悪い気分じゃない。


 かちり。自分の中で歯車がかみ合う音がした。莫大な魔力が、自分の思い通りにコントロールできる!

「……あーーーもう! この超絶美少女素材魔導士のマルティナちゃんを捕まえて、無茶苦茶言ってくれるわね!」


 ガッ…!


 脚で踏んづけるとナオヤが喜びそうな気がしたので、膝蹴りをお見舞いする。

「ぐっ……それはそれで、良い!」

 転がりながら、性懲りもなく変態セリフを吐くナオヤを見下ろし、わたしは叫ぶ。


「わたしはおしとやかでも、完璧ヒロインでもないわ。でも、アナタとは、こんな関係がいいの!! ()()()()()()()()()()()()()()()


 わたしの心の中にわだかまっていたトラウマが、消えていくのを感じる。お前はそれでいいんだ。御師様が笑った気がする。


 もう! 思わず恥ずかしいセリフを言ってしまったじゃない! それに気づくと同時に、残っていた術式に、絶大な魔力が流れ込む。大丈夫。コントロールできている。素材変換魔法の七色の光が、素材の山をも、飲み込み……

 光が消えたときには、超々硬化魔導硝子(マジックグラス)感応水晶(センシングクリスタル)の山が出来上がっていた。


「あれだけの素材の変換を一度になんて……通常の魔法使い100人以上の魔力がないと、できないことです」

「トラウマが払しょくされたことで、深層意識にかけられていたリミッターが外れたのでしょうか?」

「小さいときは神童と呼ばれていたマルティナさんでしたが、これが彼女の本当の力?」

「……ポーラちゃん、説明セリフ、お疲れっす」


 とてもすっきりした気分。わたしは、いまだ座り込んでいたナオヤの手を取る。

「まったく、さすがだな。これで大量生産にめどがつくだろう。 ただ、恥ずかしいセリフは禁止だ」

 僅かにナオヤの顔が赤い。

 ふん、これからも、わたしの凄いところを見せてやるわ!

 ……ありがとね、ナオヤ!


「……かくして、後日史上最高の素材魔術師と呼ばれるマルティナ・フェーザントの伝説は、ここから始まるのでした……完」


「ちょっとポーラ! 勝手に終わらさないで!」

 まったく、いつもオチをつけないと気が済まないの?


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