第14話 魔法世界デジタル化推進チーム、企画会議する(後編)
引き続き、ミーティングコーナーからお送りする。
俺はホワイトボードに、みんなの案を手早くまとめた。
・ニッポン縦断温泉紀行:遥
・カレー布教動画(臭い付き):マルティナ
・男だらけの情熱night(腐):ポーラ
・子供見守りサービス(盗撮):淳
・海産物流革命:直也
「僕の案に、悪意コメントが!?」
淳、うるさい。
「……ねえ、ナオヤのアイディア、正統派だとは思うんだけど、なんかこう、面白くないわね。地味じゃない?」
……なに!?、こいつ、普段の反撃のつもりか!
「……20パーセントのマージンというのが厳しいかと……現状ツキア皇国では、漁業で魔法を大々的に使用することは禁止されており、人手での作業が中心ですので、利益が少ないのです」
……く、漁師の娘の指摘はシビアだな
「……なんか、生臭そうっすね」
お前のは指摘じゃない!
「……むー」
なにか、遥が気にしているな。
「どうした? 遥、気になる点があるなら言ってみろ」
「ありがとう、兄さん。手堅い案だと思うんだけど、「部分最適」になってしまわないかな? 直接端末を利用するのは、一部の業者さんだけになるし。最初は利益が出なくてもよいから、普及率を優先して、標準プラットフォームにしちゃうのは、重要だと思う」
「……ハルカに賛成だわ。 魔法の分野でも同じなんだけど、基礎魔法部分の術式・波動方程式の特許を押さえることが重要だわ。これだけ普及した移動魔法、皇国じゃなくて、西の大国に魔導特許を取られたから、ウチは年間数十億イーエンもの使用料を払っているのよ。 中央国際魔導管理局(CMA)特許の認定審査では、そのあたりも考慮されるわ」
ふむ、ふたりの言う事にも一理ある……某共和国や某合衆国が、ツキア皇国以外の国と組んでいるわけだしな。先に基礎技術を押さえられてしまうと、やっかいだ。
「手堅い案もやりつつ、派手な案もやればいいんじゃないっすか?」
「私の実家、皇国漁業協同組合の理事をやっていますので、ある程度提案をいただければ、仔細はお任せください」
なるほど、悪くない。ポーラ家の協力を得られるなら、運用の労力も、そこまでかからないだろう。
「……次に、お前たちの案へのコメントだが」
遠慮なく行くぞ、覚悟しろよ。
「まず遥、それはお前が行きたいだけじゃないのか? いや、遥のレポートなら再生数は稼げると思うが」
「あのね、再生が落ちてきたら、わたしが水着になるの」
ガタッ!
「うおおお! それはいいっすね!」
興奮して、椅子から立ち上がる淳。
「駄目だ!! 淳のような変態がモニターの前でハァハァするんだぞ!? お兄さん許可できません!」
「……ぶー」
「……ぶー!」
ぷく―、とむくれる遥はかわいいが、最近の子供はネットの怖さを知らん。ロリコンは怖いんだぞ。
「次にマルティナ、カレーの匂いがする携帯端末とか、なにかの嫌がらせか?」
「わたしは、カレーを普及させ、ココ〇チ皇国支部、500店舗のオーナーになるの!」
「……やけに壮大な野望だが、他でやってくれ」
「……ぶーぶーぶー」
マルティナが抗議しているが、カレー臭がする端末など、俺は嫌だ。
「そしてポーラ、お前の案は、要・年齢制限だ。ヘタすれば捕まるぞ? というか女性向けだけなのか?」
「あら、御心配には及びません。上流階級の奥様方を押さえれば、皇国法典など、どうとでもなります。そのあとじっくり男性向けも……」
にっこりと優雅な笑みを浮かべているが、目が笑っていない。……第一印象撤回。怖い女だ。
「最後に淳、お前のはただの犯罪だ」
「なんでっすか!? 僕は学校を守りたい!」
「いつぞやの、ロリコン教師のような言い訳をするな!」
俺はバン! とホワイトボードを叩く。
淳の案は絶対に却下だ。こいつのことだ、どこかに抜け穴を作り、データをこっそり横領するに違いない。
「ふう、まったくお前らの案も、たいがいではないか。しかも、配信系は、現状厳しくないか?」
そうなのだ。改良案は考えているが、現時点では、端末への動画配信は、(インフラ部分の)性能的に厳しい。
考え込む4人。もう少し、現状に合った案があればいいのだが……
「……兄さん、対戦ゲームを配布するのはどうかな?大規模MMOとか、FPSじゃなくて、4人対戦くらい。それなら性能的にも大丈夫だと思う」
「アイテムガチャとか、アバター衣装などで、課金要素を準備するの」
遥が挙手し、追加のアイディアを説明する。
「……フム、現実的で、悪くないかもしれんな。」
「よし。 ひとまず、その方向も検討しよう。あわせて、普及させる方法も考えたい。ポーラ案の、上流階級から押さえるというのは悪くないしな」
4人が頷いたことを確認すると、ホワイトボードの内容を写真に撮り、俺は撤収の準備を始めた。俺としたことが、予定時間を過ぎてしまった。