第13話 魔法世界デジタル化推進チーム、企画会議する(前編)
さわやかな朝日がオフィスを照らす。
大きな成果を目指し、こだわり過ぎて終電を逃す。しかたなく、会社で泊まることになったが、十分な手ごたえを胸に、満足感とともに眠りに落ちる。そんな一夜を過ごした後の朝、少し埃っぽいオフィス。俺はこの空気が結構好きだ。
「フム、やはり寝るのは、連結アー〇ンチェアーに限るな。美脚美人OLの椅子なら、なおよい」
「ふあーーあ、いいかげんベッド買ってもらいましょうよ~、無意識にそういうセリフを吐くから、社畜って言われるんですよ、僕たち」
……なぜだ!? 世の中のエンジニア系サラリーマンの共通認識ではないのか!?
「そういうのは、先輩の世代までで、間に合ってるっす。今は働き方改革の時代ですよ。」
……いかんな、どうやら、まだまだ社畜根性が抜け切れていないらしい。もっと遊ばねば。
「いちおう、仕事はしましょうよー。それより、今日は10時から企画会議でしょ? レディたちの前で、寝ぐせや鼻毛はダメですよ?」
「そうだな、遥の前では、かっこいい兄さん、でなくてはな。身だしなみを整えて、朝飯に行くか」
「……遥ちゃんとは、同居しているんだから、先輩の性癖、バレバレなんじゃないですか?」
「……やかましい。遥は天使なのだ」
*** ***
10時きっかり、ミーティングコーナーに全員が集まった。
開始時間は正確に。延長はしない。タイムイズマネーだ!
……ん? なにやらマルティナの奴が、もじもじしているな。 遥とポーラがニヤニヤしているし。おおかた、激辛カレーでも食べて、トイレが近いのだろう。
まあいい、会議を始めるとしよう。
「今日の議題はこれだ」
昨日夜にさっとまとめた議題をモニターに映す
1:新魔導通信端末の利用企画
2:企画に必要なリソース (機材、etc)
3:企画に必要なコスト
4:企画に必要な期間
「まあ実際、今日の時点では、2~4は重要ではない。企画が、想定を極端に超えていなければ大丈夫だ。」
「という事で、まずは思いつくままにアイディアを出してくれ。ブレストで行こう」
先入観なしに、どんどんアイディアを出す (ブレイン・ストーミング)のだ。どんな意見にも光る点はある。
「……動画配信とかどうかな? 日本の温泉風景を流すの。北は登別から、南は指宿まで……はるかちゃん、渾身の現地取材!」
「んん……、これは、カレーね! テラ、最高の文化であるカレーを、皇国や、その他の国の人々に紹介する! 新型の魔導水晶を使えば、香りをお届けすることもできるわ!」
「うふふ、男女幅広くカバーできる案がよいかと。男ふたり、深夜の居酒屋に繰り出す。仕事の相談だけのはずが、店の主人も巻き込んだ情熱の一夜が……」
「これは、お子様見守りサービスっすね! 不審者だけでなく、モンスターなどの危険もいっぱいっす! 問題があったときに、迅速に弁護士に相談できるよう、24時間全方向4Kで録画っす!」
……いろいろ、色々だ。突っ込みたい点は山ほどあるが、これはブレストだ。批判は意見が出そろうまで避けねばならん。
「兄さんの案は、どんなの?」
俺が思わず、こめかみを押さえてぷるぷるしていると、遥が小首をかしげて聞いてくる。
うむ、優秀な俺が先に案を出せば、それに決まってしまうからな。最後に発言するつもりだったのだ。
「まずは物流革命を起こす。ツキア皇国は、鉱物資源は少ないが、海産物・農産物は豊富だ。大規模な港湾施設は首都である皇都にしかないが、首都への陸路は整備中だ。大量輸送は海路しか望めない」
「そこで、まずはノースマリン・カウンティの豊富な海産物を利用する。生鮮品は鮮度が命だ。特にカニ、ウニ、イクラ等の価値の高い海産物の需要を可視化する。次に、港ごとの水揚げ量を一元管理、転移魔法を駆使し、必要な場所へ必要な鮮度で、海産物を届ける。いくつか資料を見たが、現状、廃棄が多く、せっかくの海産物が持つポテンシャルを生かせていない。俺の試算では、年間5億7千万イーエン(65億円)程度の利益改善が見込めるはずだ。20パーセント程度のマージンをもらえば、研究費にも回せるだろう」
「「「「……」」」」
ふ、こいつら声も出ないようだな、物流の申し子と呼ばれた俺の実力を分かったことだろう。
ここから、俺たちの伝説が始まるのだ!
海産物王に、俺たちはなる!