表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/43

第10話 元社畜、プロジェクトチームを立ち上げる

 オフィスの端にある、ミーティングスペースに集まる。顔合わせの会議(キックオフ)という奴だ。

 読者的にはつまらないだろうが、最初の会議は重要だ。高度な柔軟性を発揮しつつ臨機応変に! という便利な言葉があるが、それは、何も考えていない奴の言い訳だ。進むべき道を事前に共有しておいてこそ、プロジェクトを成功に導けるのだ。


 B級コンサルタントのようなことを考えつつ、俺は打ち合わせ用の資料を、モニターに表示する。

 おっと、その前に……

「マルティナも初めてだったな。ここに座っている天使が、天才プログラマー(ウィザード)の遥だ。」

「もう、兄さん、はずかしい。 えっと、加賀 遥です。プログラムが少しだけ得意です。ぶいv?」

 遥は、恥ずかしそうに自己紹介すると、こてんと小首をかしげた。うむ、今日も愛らしい。


「…………」

「…………ああ、女神よ……感謝いたします」

 マルティナとポーラは目を見開き、固まっている。


「…………ちょっ、なによこのかわいい娘は!? 天使って言ってたわね……主従契約したってこと!? 駄目よナオヤ! 天界・魔界(いかい)との接触は、三聖界相互不可侵条約第7条6項で厳しく制限されているわ。天魔第六監察軍に逮捕されても知らないわよ……?」

「…………ほう…………(なでなで)」


 勘違いしたのか、いきなり謎の中二設定を語り始めるマルティナ。ポーラは素早く遥の背後に回り込むと、満足げに彼女の頭を撫でている。

「あのな、お前は何か勘違いしているようだが、遥は従姉妹で俺が保護者だ。契約とか監察軍とか、怪しげな設定をつけるな」

 俺が遥に(しいく)されるのは、かまわんがな!

「設定とか言われた!?」

「…………(にこにこ)」

 ショックを受けている設定厨女と、満足したのか満面の笑みを浮かべているポーラ。


「続けるぞ? まず、これが基礎概念図だ。」

 気を取り直し、パワポの資料をモニターに映す。


 1:マルティナの魔導鏡と遥の端末の特徴を組み合わせた端末(ハードウェア)

 2:ルーベンス第2波動方程式/VoIPを組み込んだ基礎変換理論(フレームワーク)

 3:音声・映像データを魔導波に変換・復元するファームウェア(ミドルウェア)

 4:魔導波を送信・受信する送受信経路(インフラストラクチャ)


「この4つを組み合わせることで、小型高性能な通信端末を実現させる」

「ちなみに、現時点で2と3については、遥が概念モデルを構築済みだ。 マルティナ、後でルーベンス第2波動方程式とやらの詳細を、遥に伝えてくれ」

 遥が小さくダブルvサイン。かわいい。


「のこりは、1と4だが……淳、ポーラ。4についてはどうだ?」

「そうっすねー。魔導波は一種の信号だとおもうんで、こちらの通信機器(ルータ・スプリッタ)で扱えると思いますよー」


「魔導波に、指向性を持たせて発信することは出来ます。ですが……」

「ん? 何かあるのか?」

「はい……距離が遠くなると指向性が薄れるんです。その為、長距離の通信というのは難しいかと……」

「どのくらいまで届くんだ?」

「そうですね……おおよそ、5キロメートルといったところでしょうか?」

「それなら問題ない。これは俺たちの世界の話になるが、電波……お前たちが言う魔導波のようなものだが……も、距離に従い減衰するんだ。基地局を複数置くことで、中継・増幅し、遠くに届けることができる」

「……なるほど、それなら魔導水晶の空きチャネルを使えば、なんとかなるかもしれません」


「よし、悪くない。細かい点はおいおい詰めるとしてだ。おい、そこの素材屋」

「素材屋!?」

 大体の方向性が固まってきたところで、ぽへーとしているマルティナに声をかける。

「自分の興味のない分野の話だからって、気を抜くな。これだから技術屋(テクノラート)は……鼻毛が出ているぞ」

「え!? うそ、気付いていたなら、もっと早く言いなさいよ!」

 我に返り、わたわたするマルティナ。鼻毛の件は冗談だ。マントの端にクリーニング屋のタグっぽいのが付いているのは本当だがな!


「目が覚めたか? それで、素材専門家として、1についてはどうなのだ?」

「あ、うん。理論上は問題ないと思うわ。ただ、魔導鏡の材料となる、超々硬化魔導硝子(マジックグラス)感応水晶(センシングクリスタル)の調達が問題ね。二つとも、とても希少な素材なのよ。」

「フム……遥が作った端末で使用している、シリコン圧電素子を主素材に使うのはどうだ? なんたら水晶の方も、普通の水晶でよいなら、こちら側の七甲山にいくらでもあるが」


 むむ……と考え込むマルティナ (クリーニングタグ付き) その様子をにこにこと眺めるポーラ。 ……この女、わかってて放置してるのか?


「それならば、先日お前が言っていた、物質の組成を組み替える遺失魔法(ロスト・メソッド)とやらを使うのはどうだ? トンカツがイカフライになるんだろう?」

「!? なるほど、その手が!」

 適当に言ったつもりだったのだが、なにやらいい線をついていたらしい。


基礎素材位相(マテリア)が近ければ大丈夫なはず。ナオヤの世界にある素材を使えばいいという事ね! しりこん・すいしょうのマテリア次第ではあるけど……行けると思うわ!」

 トンカツとイカフライはマテリアとやらが近いのか……? まあ、こちらの世界の常識に突っ込んでも仕方ない。


「よし! おおよその方向性は決まったな。今回の会議は終わりだ! 担当者同士で細かい点を詰めてくれ。次の会議は本日1600開始だ。解散!」

「え?もう終わっちゃうの? 私、もう少し素材について議論したいんですけど」

「問題ない。詳細は専門家同士で詰めるべきだ。 そうだな、マルティナと遥、淳とポーラで分科会(チーム)を組もう。詳細はこのメンバーで話してくれ」

「分かったけど、ナオヤは何をするの?」

「俺は企画案を考える」

「企画って?」

「出来上がった新通信端末、を何に使うかだ。マルティナ、研究手段を目的にしてはいけないぞ。成果を何に使うのかが重要なのだ。」

「どれだけ凄い理論を作っても、万人が使ってくれなければ、技術書の端に載るだけだ。そうなったらお前はいやだろう?」

「……なるほど、さすがね」


「……こうゆうことを言っているときの兄さんは、サボりたいだけです」

「……ナ~オ~ヤ~?」

 適当に言ってこの場を終わらすつもりだったのだが、遥には通じなかったようだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ