ふかふか
ふかふかだ。
ふかふかに包まれている。
これまで触れたことがないような高級な肌触り。
羽毛布団というやつだろうか、敷布団が身体の線に沿って沈んでいるような感覚がする。
柔軟性に優れているんだなあ。
……おかしい。
俺のうちこんな高級布団あったっけ?
というか、俺は昨日いつ寝たんだっけ?
うぅ、身体が熱い。
俺、熱があるのか?
自覚した途端に息苦しさを覚える。
さっきまでふかふかな布団を堪能していた自分が馬鹿みたいだ。
なるほど、これはあれだな。
肺炎かなにかになって病院に搬送されたとかそういうやつだ。
瞼が重い。目を開けて周囲を確認したいのにうすぼんやりとした景色しか映らない。
それにしても病院のベッドってこんなに快適なものだったのか。
というか母さんは俺がいなくて大丈夫だろうか?
俺がいないときにまともな飯を食っていた覚えがない。
早く治して、家に帰らないと。帰らないと……
「あっ、目を覚ましてる! 奥様、奥様!」
?
幼さが残る女性の声だ。看護師だろうか?
しかし、「オクサマ」と言ったか?
病院で使われている業界用語のようなものだろうか。
まるで「奥様」と言っているように聞こえた。
「まぁ、意識が戻ったのね。
坊や、私の声が聴こえるかしら?」
おっとりとした優しい声が枕元に届く。
まさに「奥様」のイメージにぴったりな声だ。
ぼんやりそんなことを考えていると頬に手が伸びてくる。
ひんやりとして心地よかった。
「まだ熱が高いわね。
ゆっくり休むといいわ」
そう言って、頬に触れた手が離れていく。
なんだか名残惜しく思いながらも、今の言葉は自分に対して言っていたものだと気づき驚いた。
まだ成人していないが「坊や」なんて言われる年でもないし、そんな風体でもない。
俺が坊や? 彼女は奥様?
なにがなんだかわからず、考えようとすると熱が上がってくらくらする。
「カイ、お医者さまに意識を取り戻したと連絡を」
「かしこまりました、奥様」
「リリー、あなたは引き続き看病をよろしくね」
「はい、かしこまりです奥様~!」
声が聴こえる。
聞こえるがもう訳が分からない。
ここは病院じゃないのか?
俺は一体どこにいるんだ?
くらくらする。くらくらする。
瞼を開ける力が尽きる。意識が遠のく。
俺は再びふかふかのベッドに沈んでいった。