お化け屋敷? その②
数日後
俺は教室で友人たちと談話していた。
「ねぇねぇ。この間のお化け屋敷騒動あったじゃない?あそこ、また人がいるらしいよ~。」
そんな会話がふと聞こえてきた。
「えぇ~どうせまたヤンキーのたまり場とかになってるんじゃないの?」
「この辺治安悪いから嫌だよね。」
この間のお化け屋敷騒動とは絶対に俺たちの話だ。しかし、また誰かがあそこに?
聞き耳をたててみると、どうやらまた窓に人影が写ったり、近くを通ると物音がしたりする現象が多発しているそうだ。まるで誰かが住んでいるみたいに。いや、しかしこの間は結局それで誰かが住んでいたんだ。住んでいたというと少し違うような気もするが。
とりあえず俺は帰宅して、桔梗さんにその噂話について話した。
「これも乗り掛かった舟ですし、念のため、今一度見ておきましょうか。日が暮れるまで時間もあります。今から行ってみましょう。」
ということで俺たちはすぐさま向かった。
この間と同じく屋敷の前まで来ても、桔梗さんも俺も特に何も感じなかった。俺はもし、この間のように不良たちがいた時のことも考え、念のため木刀を持ってきていた。
ギギギ
重い扉を開き中へ入る。
すると、ほんの、ほんの少しだけ肌がピリピリとする感覚があることに気づいた。
「桔梗さん。」
「はい。わかっています。」
俺たちは奥の方だと睨み、慎重に足を進めていった。
やはり屋敷内は暗い。霊がいても視覚では見つけにくいかもしれない。そう警戒しながらゆっくり、ゆっくりとドアノブに手をかけた。
パリン!!
その時、後ろで急に花瓶が落ちる音がした。
俺たちはすぐさま振り向き、桔梗さんは鬼の姿に変貌し、刀を構えた。
「わわわわわ!ごめんなさい!僕っ!何もしてないです!ごめんなさい!」
そこには中学生くらいの男の子が腰を抜かして座り込んでいた。
「…なるほど。やけに微力な霊力だと思いました。てっきりまだ距離があるのかと思ってしまいましたがこんなに近くにいたのですね。」
「お姉さん、お、鬼?僕を迎えにきたの?」
男の子はぶるぶると震えている。
「はい。この刀、断魂刀といって、魂を斬ることができる刀なんですが、これで幽霊…、あなたを一太刀で強制的にあの世へ送ることができます。例え未練があっても。」
「そうなのか。デスサイズ的なものか。」
「い、嫌だ!怖い!」
男の子は急に俺の方にすがりついてきた。
「まてまて。もうお前は死んでるんだから、怖いも何もないだろ?」
「…その…僕、中学生の時に自殺したんだ。刃物で。だから思い出しちゃってダメなんだ。」
「自殺?それはまたなんで。」
男の子は、ユウタというらしい。中学生のころ、同じ学校の不良生徒たちから毎日いじめられていたそうだ。確かにいじめというのは身体的にも精神的にも酷かったものだったらしい。しかし、不良生徒となると、教室の陰でこっそりやるような陰湿ないじめでもないだそうし、周りの大人たちも助けてやれなかったのか、気づいてやれなかったのかと感じてしまい、余計に残念だ。もし俺がユウタのクラスメイトだったらそんないじめ、絶対気づいていたはずだ。まさか不良たちが怖くて教師たちは黙っていたのか?
「今は考えたら本当に自殺したことが馬鹿馬鹿しいんだけどね。」
ユウタは内気で真面目な性格故、奴らからの口止めを真に受け、誰にも相談できなかったという。
「それじゃあ、ここに残ってる理由は自殺への後悔…。不良たちへの憎しみってところか?」
「きっと…そう。」
ユウタは先月までこの屋敷に住み着いていたそうだ。しかし、あの強盗グループがここに来るようになってしまってからは奴らが怖くて地下室に身を潜めていたらしい。
「…だから何なのですか。それがこの世に残っていい理由にはなりません。」
桔梗さんは冷たく言い放った。
「桔梗さん…。でも、俺なんとかしてやりたいよ。ここに残ってる未練が解けそうなら。」
俺は男の子の前に立った。
「本気ですか。」
桔梗さんは刀を構えた姿勢を崩さない。
「俺は人間だから、元々人間だった幽霊のこともちょっとはわかるんだ。こうやって話合える霊ならば、解決してやりたい。俺は俺のやり方で霊を、魂をこの世から解放してやりたい。」
「あなたは何もわかってないのです。そんなことをしてもきりがない。」
「きりがなくても、俺の出会った奴らだけでもいい…俺が救ってやりたいと思った奴らだけでもいい…。俺、アンタの…アンタの簡単なやり方じゃ納得いかねぇ!」
「単なるあなたのエゴでしょう、それは。」
「…確かにそうかもしれねぇ。もしかしたら桔梗さんの世界では間違ってるのかもしれねぇ。けど、俺は俺の思ったやり方でやっていきたいんだ。桔梗さん。」
桔梗さんはじっと動かないまま俺をまっすぐな瞳で見つめている。しばらく沈黙が続いた。
ギイィィィ
すると正面口の大扉が開いた。
「おぉ、ここか。確かに出そうだな~!」
「ばーか、幽霊なんてでねぇよお。」
人が入って来た。男子高校生だろうか、5、6人ほどいる。
俺は咄嗟に隠れた。
「このような時にっ…!」
「なんだ、あいつら…ってタバコ!?あれはよく見ると隣の高校の制服だな…。確か不良が多いと有名な。」
「ふ、不良…。」
ユウタは幽霊だから奴らからは見えないはずだが、俺の後ろに隠れている。
やはり奴らのようなのが怖いのか。不良が。不良……そうか!
「ユウタ、桔梗さん。ちょっと。協力してもらってもいいか?」
・
・
・
「ふ~。ここバレなさそうだな~しばらくここでやるか~。」
「そうだな、近くにコンビニもあるしよお。」
ドンッ
「なんの音だ?」
ドンドンッ
「お、おい、まさかここ誰かいるんじゃねぇのか?」
「まさか、いねぇよ!それにここはこの間の事件で地主があと数ヶ月もすりゃ取り壊しにする予定らしいからな。」
「じゃあなんだよこの音は!?さっきから部屋の壁中から聞こえるぜ!?」
ガタン!!
「ひえ!が、額縁が!落ちてきたぞ!」
「やべぇ、ここなんかいるかもしれねぇ!おい出るぞ!」
男たちは大扉の方へ向かって走った。
「あ、あああ開かねぇ!!!」
「なにやってんだ!鍵か!?もう壊しちまえ!」
「誰かが外から押さえつけてるのか!?」
「ち、違うんだよこれ!!外じゃあない!!内側に開く扉だっ!!!内側から何かに引っ張られて…!!」
「なっ!!」
「おおおい、お前!後ろ!!額縁がっひとりでにっ!!」
「なん…」
一人の男に大きな、美しい女性が描かれた肖像画が覆いかぶさった。
「ひいい!まってくれ!」
そして次々にロビーにある花瓶や燭台が男たちに飛びかかった。
「うわああああああああ!」
「や、やめてくれええええ!」
一斉に部屋中に男たちの悲鳴が響き渡り、すぐさま静かになった。
・
・
・
「…やった!うまくいったね!僕たち!」
「やったな!ユウタ!」
「…そうですね。」
ユウタも、桔梗さんも顔に笑みを浮かべている。
この間の強盗グループたちが侵入者を脅かすのに使っていた仕掛けがまさかここで役に立つとは。
「これで彼らも懲りるといいですが。」
「あぁ、もうここに来ることもないだろう。」
すると、ユウタの霊体が青白く輝きだした。
「あぁ、わかった。僕、もう大丈夫なんだ…。トラウマを克服できたんだ!」
「…!そうか。よかったな!」
「…っまさか本当に…。」
桔梗さんは少し驚いている様子だ。
「ありがとう!お兄さん!お姉さん!楽しかったよ!」
「あぁ!じゃあな!」
「…はい。」
ユウタはそのまま光に包まれ天へと消えていった。
「こんな、こんな簡単なことで。」
「あぁ。たまたまだったのかもしれねぇ。完全にはユウタのことを理解できてなかったかもしれねぇ。でも、こうやってきっかけを作ってやることくらいは俺だって出来るんだ。」
桔梗さんは小さくため息をつき、また人の姿へと変身した。
「私は…、人間はとても複雑で面倒くさい種族だと思っていました。それぞれがそれぞれの社会で悩みを抱えていて、それが複雑に絡み合って、また新たな問題を生む一方で。そして死んだあとですらそれらを引きずって。そう思っていました。だけど、本当は純粋無垢で、だからこそ外部からの影響を受けやすい。もしかしたら、人間の基本は単純明快なのかもしれません…。」
「…さあ。俺にはよくわかんねぇけど。…帰ろう。」
「…はい。」