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お化け屋敷? その①

 次の日


 目が覚めた。もしかすると昨日のことは夢だったのかもしれないと、そう少し思いながら居間へ向かった。


「おはようございます。」

 そこには既に桔梗さんがいて、朝食の支度を手伝っていた。全然夢じゃなかった。


「おはよう。桔梗さん、ずっとその服?」

桔梗さんは昨日と同じ、スーツを着ていた。

「はい。派遣先では失礼のないよう、正装でいるようにと上司から言われていまして。しかし、寝る時はさすがに浴衣ですよ。」

「ふうん…。」

 死神も大変なんだなあと思いながら俺は食卓に着いた。それからしばらくして、全員集まり、朝食を取り始める。


「ところで、いきなりですが、この辺りで心霊現象や妖の噂などはありませんか?」

 と、桔梗さんは白米を頬張りながら聞く。

 しかしほんとうにいきなりだな。いや仕事熱心なのはいいことだとは思うが。


「特に俺は聞いたことないけど。」

「私もないわ。」

「ないねぇ。」

「ないかなあ。」

 それを聞いた彼女は少しがっかりしたような顔をした。

「そうですか…。この辺りの町は長らく担当がいなかったので霊や妖怪がかなり湧いていると思ったのですが…。ではまた何か情報がお耳に入った際は私に教えてください。」

「わかった。だけど桔梗さんは俺がいない間どうするんだ?もしかして神社のしごと手伝っ」

「担当地域を見廻ってみます。」

「あっはい。」


 まあ彼女はあくまでも霊退治に来たんだよな。こういうことには期待しないでおこう…。


 そんなやり取りをしながら朝食を済ませ、俺はいつも通り学校へ向かった。


 いつも通り教室の自分の席に着き、いつも通り頬杖をついてスマホをいじる。

 するとクラスの連中がいつもより少し興奮気味で噂話のようなものを話していることに気が付いた。俺はそれに少し耳を傾ける。


「やめときなって、あぶないよ。不審者かもしれないよ。」

「え~、でも気になるじゃん!面白そうだし!ね!皆で肝試しいこうよ!」

「でもでも、ほんとにお化け出たらどうしよ~!」


 お化け…?幽霊の噂話か。

「なあ、なんの話してるんだ?」

 俺は思い切って話しかけた。


「なんだ、藤家くん知らないの?学校の近所にある廃屋にお化けが出るって噂!」


 学校の近所の廃屋…ああ、あそこか。確かそこは学校で立ち入り禁止とされているほどの古い洋館で、確かにいかにもお化け屋敷という感じだ。


「聞いたことなかったな。お化けって、一体どんなことがあったんだ?」

「前から噂では、物音がしたり、窓に人影が写ったりするって言われてたんだけどね、ついにこの前、うちの学年の男子が行ってみたらしくて!そしたら、玄関付近でいきなり花瓶が落ちたり、女の人の声みたいなのが聞こえたりしたんだって。その子たちはビビッてすぐ帰っちゃったらしいけど。ねぇ!藤家くんも気にならない?」


 物音、人影…。これは桔梗さんに言ってみるべきだな。


「そうだな。気になる…が、行くのはダメだな。立ち入り禁止だろ?それにもし本当に悪霊とかだったら危ないし、絶対やめろよ。」

「えー。まあ藤家くんが言うなら…。」

「藤家くん家、神社だもんね。」


 俺の一言でクラスの連中はその話をやめた。あの場所は霊がいるかもしれないから危ない、と言うより建物自体が古くていつ崩れるかわからない本当に危ない場所だからな。これであそこに行こうとするやつがいなくなるといいが。


 放課後、帰宅してさっそく俺は桔梗さんにそのことを話す。


「ふむ。確かにそれは気になりますね。単なる噂話ではなさそうです。」

「だよな。桔梗さんの方はどうだった?何か見つかった?」

「いえ、今日は大和様の学校の反対側を見廻ってみましたが特に何も。ですので、明日あたりさっそく向かってみたいと思います。」


 そういえば桔梗さんは俺や家族のことを様付けで呼ぶ。桔梗さんの立場もわかるが、俺はそう呼ばれるとむずがゆい。


「桔梗さんあのさ…。その、様ってやつやめないか?外で様付けってのもなんか恥ずかしいし…。」

「大和様がお嫌でしたらそうします。では大和さん、ではどうでしょうか。」

「うーん、それだとなんか変な誤解を生む気が…。」

「では、大和くんなど…。」

 桔梗さんは顎に手をあて、考える仕草を取る。


「桔梗さんが呼ぶとなんか違和感が…。」

「じゃあ…、大和殿、主、先輩、プロデューサー、マスター、お館様などはいかがでしょう。」

「おかしいだろ!?桔梗さん現世に来る前に何履修してきた!?普通に呼び捨てでいいんだって!!」

 彼女、たまにわけわからんことを言ってくるな。天然なのか、わざと俺をからかっているのか。

「…そうですか…わかりました…。」

 そしてなんでちょっと残念そうなんだよ。


「あ、あと敬語じゃなくても別に…。」

「あぁ、これは気にしないでください。私は誰に対してもこの喋り方ですので。もう癖のようなものですし。」

 敬語が癖ってどうなんだそれは。


「な、なるほど。そういえば桔梗さんはその…何歳なんだ?多分だけど俺たちの方が本来敬語を使うべきなんじゃ…。」

 仮にも女性に年齢を聞くのはどうかとも思ったが、人間ではない彼女の年齢に興味が湧いてしまった。


「いえ、敬語なんて。私はただの派遣死神ですから。年齢は…そうですね。実は自分でも何歳か細かく把握していません。私は地獄に生まれた鬼ですが、その時現世では確か弥生など…、そのあたりだったと覚えています。」

「弥生!?まじか…。というか地獄はやっぱりあるのか…。」

「あ、すみません。神道の教えとは違いましたね余計なことを言ってしまいました…。」

 彼女は少しうつむき加減にそう言った。


「いやそこは別に気を使わないでいいんだが!というかもう君の存在のおかげで割とどうでもいいんだが…。そ、そうだ、地獄ってどんなところなんだ?」

 地獄があるとわかった以上俺も変な行いは出来ないな。これからしっかり生きよう…。

「地獄はとても広いですよ。詳しくは言えませんが。私は今のように冥府庁で死神になる前は地獄で極卒をしていました。やはり地獄に落ちることはおススメしませんよ、大和。」

 そう言う彼女の顔は何故か少し笑っているように見えた。というか何で今このタイミングで名前を呼んだんだ。怖い。


「ご、極卒…。そ、そうなんだな…。」

 桔梗さんってもしかして優しそうな外見とは裏腹に…とかそういうタイプのやつかまさか。

「話が逸脱してしまいましたね。では大和。明日学校の帰りにそこへ案内してもらってもいいですか?よければ放課後、稗田高校の近くで落ち合いましょう。」

「ああ、わかった。」


 そういうことで俺たちは明日例の場所へ向かうこととなった。




次の日



俺は終業のチャイムと同時に、桔梗さんとの待ち合わせ場所の校門に向かった。


「早いな、おまたせ。」

 俺が向かうと既にそこには桔梗さんが待っていた。

 

「いえ。私も今来たところです。」

 そこで俺は気が付いた。周りがざわついていることを。

高校の校門の前でスーツに身を包んだ若い女性が一人で立っていたらそりゃあ皆疑問に思うのも当然だ。


「あの人だれだろ~。」

「めっちゃ可愛くね?」


「は、はやくいこうか桔梗さん…。」

 俺たちが行こうとすると、

「え?や、大和くんその人だだだだ誰!?」

と、後ろから聞きなれた大きな声が。

振り向くとそこには幼馴染でクラスメイトの山田志織がいた。


「あーえっと…。」

 やはり一般人に桔梗さんのことをしゃべるのはよくないだろうな。というかそれ以前に信じてもらえないだろ。さてどう説明したものか…。


「まままさか彼女!?」

 志織は口をパクパクさせながら言う。


「いやそれは違う!」

「そっか、よかっ…じゃなくて!!じゃ、じゃあ親戚の人?今まで見たことないけど…。」

「そ、そう遠い親戚!まあ色々あってウチにいるんだ。」

 もう適当にやり過ごすしかない…。

「ふうん…。」

 そう言って志織はまじまじと桔梗さんを見る。


「……はじめまして。桔梗といいます。」

「幼馴染の山田志織です…。ふうん………ちょっとまって…すごい……美人!!すき!!」

といきなり志織は興奮しだす。


「……?そうですか…ありがとうございます。」

「意味わかんねぇ…もう行くからな。」

 そう言って俺たちは歩き出した。俺たちはこんなところで油を売ってる場合じゃあないんだ。

「ああ!行っちゃうの!桔梗さん!またお茶でもしましょうねー!」

 志織はそう叫びながらこちらに手を振っている。



「変わった方ですね。」

「ああ、昔からな…。あいつ、近所に住んでて、親は町内会長で昔から家族ぐるみで交流があるんだ。今は週末、巫女のバイトに来てもらってるし。だから変な嘘はつけねぇんだよな。」

「そうなのですね。確かにこちらの事情は外には知られたくありません。冥府にも色々と機密事項がありますので。例え、その筋の人間であっても私が死神であることは極力言ってはならないので、よろしくお願いしますね。」

 そうなのか。だから表向きは式神ということか。

「わかったよ。」


そうこうしているうちに、俺たちは目的地へとついた。



「ここだ…。」

「ふむ。確かに雰囲気ありますね。」

 桔梗さんはよく、顎に指をあてて考えるようなポーズをとる。

「どうだ?何か気配はするか?」

「いえ、今は特に。とりあえず中に入ってみましょう。」

 俺たちは、正面玄関と思われる大きな観音開きの扉から中へ入った。


ギギギ

 やはり中も老朽化が進んでいる。ロビーにある花瓶や肖像画は誇りまみれだ。

「本当にお化け屋敷という感じですね。今にも出そうな。」

「そうだな…。でも霊がいる時みたいなゾクゾクする感覚はまだねぇな。」


 その時

 ドンドンドン!とロビーの奥の方から壁を叩くような音がした。


「なんだ!?」

 すると今度は肖像画が壁から落ちた。


「うわあっ!」

俺は驚いて桔梗さんにくっついてしまった。


「大丈夫ですか?」

恥ずかしさのあまりさっと離れる。


「ごごごめん!俺、霊は怖くないけどこういう、急にくるやつは苦手で…。まじで心臓に悪いぞ…。」

「ふふふ。でも、急に驚かしてくる悪霊もいますから注意してくださいね。」

 外から漏れる光がニヤッと口角を上げる桔梗さんを照らしている。

 まじか、悪霊嫌だなあ、なんて思っているとまた、ドンドンドン!と音がした。


「…これは…、本当におかしいですね。行ってみましょう。」


 俺たちは音がした方の部屋に向かった。

 扉を開けるとそこには。


「誰もいませんね。広い部屋ですが。」

「…でもこれおかしいな。ほら、この部屋は埃が少な…、いやまて。ロビーだってそうだ!床には埃が少なかった!」


 桔梗さんの方を振り向く。


 そこには男に刃物を向けられ、人質とされている桔梗さんの姿が。


「き、桔梗さん!」

「あーあ、わざわざ脅かしてやったのに何で入ってきちまったんだ~?誰だか知らねぇが俺たちのアジトに入って、ただで返すわけにはいかねぇな。」


 男は体格がよく、どう考えても俺では太刀打ちできない。それに桔梗さんを人質に取られている。どうすればいい…。と考えていると、奥から続々と男の仲間らしき連中が出てきた。


「なんだよ。お、なかなか可愛い姉ちゃんじゃね。使えそうじゃん。」

「ほんとだな、でも胸はねぇなあ~。」

「遊んでやる?」

「男はどうでもいいな、連れていけ。」


 連中は俺を囲んで殴りかかった。こんな時、男なのに、剣道で鍛えているはずなのに、役立たずで情けなくなる。


「ごめん桔梗さん…!」

 拳が恐ろしくて、避けようと身を屈めた瞬間。


「……あれ?」

「大丈夫ですか?はい、お手を。」

 いつもと変わらぬ無表情で桔梗さんは俺に手をさしのばす。


「え?は?」

 周りを見渡してみると、そこには一網打尽にされた男たちがいた。


「おかしいと思ったのです。全然気配はしないのにポルターガイストがいるかのような現象が起きていたので。」

「え?は?」

「お怪我はありませんか?」

 よく状況が呑み込めない。


「い、いやないけど…。」

「でしたらよかったです。一人前になってもらうまで、私が責任をもってお守りするとお父様と約束していたので。」

「じゃあやっぱりこれ一人で…?」

「そうです。しかし安心してください。峰打ちです。さあ、ここから早く出ましょう。」

 すると男の一人が立ち上がった。


「お前らあああ!」


「…あら。すみません。手加減があまり得意ではなくて。本当に面倒くさいですね。」


「調子のんじゃねえ!」

 大男が殴り掛かってきた。しかし、桔梗さんのカウンターがクリーンヒット。


「ふぅ。さあ、警察に行きましょう。」

「あっはいそうですね。」


 絶対に桔梗さんを怒らせてはいけない。


 結局、あのお化け屋敷は強盗グループのアジトのカモフラージュとして、お化けがいるように見せかけていただけであった。アジトにいた残りの仲間も一網打尽にしてくれた桔梗さんの協力…もあり、警察はすぐにやつらを逮捕することができた。






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