恋、音楽、そして…。キレイ事だけじゃ愛せない。
―彼女の名前は、神谷まひる。
彼女の憧れは
太陽に向かって咲く ひまわりの花。
そして、
イソップ童話の【北風と太陽】に出てくる
“太陽”だった。
何があっても
太陽の光のように
温かく
優しく
あなたを包みこんであげたい
そんな女性になれたらいいな、と。
それが彼女の夢だった。
わたしも
あなたの太陽になりたい。
またこんな気持ちになるなんて…。
まひるは戸惑いながらも、嬉しい気持ちを隠せなかった。
彼女は同じアルバイト先の月雄の存在が、とても気になっていたからだ。
彼への思いは恋なのか、
単なる好奇心なのかもわからない。
神谷まひる。
彼女は今、39歳。
一度、結婚しているが破綻している。
月雄は27歳。
彼よりも13歳も年上だ。
しかも、まひると月雄はまだ知り合ったばかりだ。
だけど、まひるは恋をしている。
月雄のおかげで毎日がいきいきして、とても楽しく、新鮮に思えるようになっているのは事実だった。
けれど、彼女は月雄と出会う前の4年間で
3人の男性と出逢い、恋に落ち、
大きな失恋をしていたために、少し臆病になっていたのだ。
1人目はまひるの元夫、4歳年上の正和。
2人目は
1歳年下のプロのミュージシャン、芹沢。
3人目は18歳年下の大学生、崇司。
彼らとの恋が終わってから、彼女はすっかり自分に自信が持てなくなっていた。
いつも明るくて活動的なまひるは、周りの人たちからは自信に満ち溢れているように思われていた。
まるで悩みなんか1つもないかのように…。
だけど、彼女の心は まだ完治していない。
本当はまだ とても苦しい。
もちろん、自信もない。
(今のままじゃ…。まだ進めないよなぁ…)
まひるは、ふと、珈琲を飲む手を止めた。
月雄に告白しても、またフラれるのでは?
私は幸せになれるのかな?
あ~あ、自信がないよ…。
前に進みたいのに、自信がなくて前に進めない。
幸せそうな他人を見ては羨ましくなり、うまくいかない自分を、さらに追い詰めていた。
(ダメだなぁ…)
まひるはそんな自分が、ほとほとイヤになっていた。
(いい加減、何とかしないと!)
そして、まひるは決心した。
今まで捨てられなかった思い出の日記を
思いきって捨てることに決めたのだ。
前に進むためには、過去を清算しないといけない。
重かった気分に渇を入れるように腰を上げると、「よし❗️」自分に声をかけ、勢いよく窓を開いて部屋に新鮮な空気を入れた。
押入れの奥に封印してあったダンボール。
紙テープを剥がして箱を開けると、黄色く変色したかなりの数の大学ノートが出てきた。
この何の変哲もない幾つもの大学ノートこそが、まひるの日記だ。
ダンボールを開けて、最初の日記を開いてみると、
そこには1通のはがきが挟まれていた。
(ああ…。これか、懐かしいな…)
遠い記憶が蘇り、
このはがきを受け取ったあの日へとまひるの心は戻ってゆく。
そして、正和と出逢ったあの頃へと…。
時は静かに遡っていく。