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番外編 プライベート・ラブ 櫻塚隼人イベント「白い人」

 むちゃくちゃお待たせいたしました。

 アンケートで一位をとった隼人さんの番外編です。

 隼人さんは、とてもかっこいい。

 たとえば、人がたくさんいる駅での待ち合わせでも、ぱっと目につく。どこにいるのかな、なんて探す必要がないくらい。

 オフ・ホワイトのニット、首元にはシルバーのペンダント。上等そうなツイードのジャケットに、ラフなジーンズ。これがビシッと似合っちゃうんだから、おそろしいよね。

 どこか遠くを眺める横顔が、綺麗だな、って思った。

 声をかけようか迷ったそのとき、隼人さんがこちらを向いて、ぱっと笑顔になる。


「今日もかわいいな」

「そんな……」


 にこにこと上機嫌で見られると、恥ずかしい。

 ここで否定しても、かわいいったらかわいいって話になるのは目に見えている……隼人さんだもんなぁ。なにか、ほかの話題を探さなきゃ……。


「隼人さん、なに見てたんですか?」

「え、俺なにか見てた?」

「あっちの方を見てたから、なにかあるのかなって」

「いや、……そっか」


 隼人さんはまた、ちょっと遠くを見る目になった。

 わたしの方を見て笑ってくれるのも好きだけど、この、ちょっと遠い感じも、なんか好きだなって思う。

 わたしのことなんか知らない、関係ないって世界にいるときの隼人さんが、好きだ。

 そういう距離感でなら、わたしは隼人さんを鑑賞できる。どう返事をしようって悩まなくていい。ただ、綺麗な人だな、かっこいいなって眺められる。

 もたれていた太い柱から身を離し、隼人さんはわたしの肩を抱き寄せた。


「危ない」


 すれすれを、知らない人が走り去る。風だけを残して。


「す、すみません」

「今のは、相手が謝るとこだよ。……まぁ、行っちゃったけどな」


 見上げると、隼人さんと視線が合った。


「おっさんがこんなことしてると、セクハラ扱い?」

「隼人さんは、いやらしくないから、大丈夫です」

「え、それは嬉しいけど不安だな。俺以外の男を相手にするときは、絶対、気ぃ抜くなよ? いやらしくなさそうかどうかって判断な、そこな?」

「大丈夫ですよ」


 隼人さん以外に、近づいたりしないし。

 隼人さんにだって、近づきたいかどうか、わからないし……だって、ちょっと距離を置いて眺めたいんだもの。


「じゃ、行こうか」


 隼人さんのぬくもりが遠ざかって、それはそれでちょっと、こころもとない感じもあるんだけど。でも、すぐに、今度は肘を掴んで引き寄せられた。

 また、通行人の邪魔だったみたい。


「場所が悪いんですね」

「早く改札を通っちゃおう。電車の方が空いてるよ、きっと」


 そのまま手を引かれて改札まで。そこで一列になるから、はなれて、そのまま距離をキープ。なんだか、これくらいがちょうどいい。

 海が見たいな、と、なにげなくつぶやいた言葉に、行こうぜ、って答えてくれるのが隼人さん。

 海辺を走る路線を選んで、どこかビビッと来たところで降りて観光しようぜ、って。そういう、ゆるい感じの小旅行。

 電車は混んではいなかったけど、ふたり並んで座れる席はなかったから、立っていることにした。疲れたらそこで降りればいいしさ、と、隼人さん。


「海が見えなくても?」

「見えなくても。ちょっと休憩して、次の電車に乗ってまた海を目指せばいいよ」

「なんか、隼人さんらしい……」

「どこがだよ。そういえば、こないだ電車でさ、若いカップルがいてさ」

「若いってところ、強調しなくていいのに」

「いや強調するよ? だって、若いっていいなって思ったからさ。音楽聴いてたみたいなんだけど、イヤホンの右と左をつけてて、ああー、音を分かちあってるんだなー、若いなー、いいなー、ってなったんだよね」

「人を見て羨ましいと思うことがあれば、自分でもやってみる派なんじゃなかったんですか、隼人さんは」


 そう、隼人さんはそういう人。あ、でもこの流れだと、わたしが一緒にやることになるのかな……と考えていると、隼人さんが苦笑した。


「うん、そうなんだけどさ。俺、ステレオでちゃんと左右に音分けてあんのを片方しか聴かないのはちょっとなー、とか思っちゃう方だから。たとえば、ふたりぶんのイヤホンにそれぞれ音を飛ばして、一緒に聴いた方が、音楽はちゃんと楽しめる。アーティストが本来届けたかった音に近いものを聴けるんだから。でも、それだと、ひとつのイヤホンをふたりで使うのとは違うよな……なんか違う」

「かなり違いますね」

「だろ? でも、やっぱり、俺はもう片方のイヤホンだけじゃ幸せになれないんだ。左右両方で、しっかり聴きたいんだよ」


 それが、おっさんになるってことなんだよ――と、隼人さんはいった。

 窓の外に、まだ海は見えない。


「それでも、イヤホン片方ぶんの情報しかなくても、その音楽はその子たちの思い出に刻まれるんでしょうね」

「……そう、それ! そういうの、いいよなぁ」

「でも、隼人さんにもあるんでしょう?」

「え、なにが?」

「若い頃に刻んだ思い出」


 隼人さんは、暫く無言でわたしを見たあと、窓の外へ視線を向けた。


「うん、あるね」


 たくさんあるんだろうな、と思う。

 隼人さんの横顔は、やっぱり、とても綺麗で。あらためて、思ってしまう。わたしを見ていないときの隼人さんが、好きだな、って。


「たくさん?」

「たくさんあるよ。偲布(しのぶ)さんのこととか」


 さっきもね、と隼人さんは低い声でつづける。


「この駅で、待ち合わせしたことあったな、って思ってたんだ。構内にある店も、みんな変わっちゃったなぁ……。あれ、何年前だろう」


 わたしは知ってる。

 隼人さんの横顔が綺麗なのは、きっと、大好きな人を思いだしているから。

 その眼差しが遠いのは、亡くした妻を追い求めているから。

 わたしは……。


「でも、こんな風に海に行ったことはなかったな」

「もっと計画ちゃんと立てて行ったの?」

「そうそう、分単位でさ、ああして、こうして、って。それもさ、やっぱり若かったからだと思うんだよね。今はもうおっさんだからさ、今の自分が納得いくように生きてるんだよね。うん、そういうこと」


 そういって、隼人さんはつり革に体重をかけるように前屈みになって。

 わたしの耳元で、ささやく。


「なにが起きてもフレキシブルに対応できる経験値を踏まえて、適当ぶっこいてんだ。だから、計画なんてなくたって、大丈夫。一緒にいたら、どこだって楽しいし、海なんか行ったらもっと楽しい。だろ?」


 間近でにっこり笑われて、頬が熱くなる。

 横顔じゃなくても、隼人さんは、やっぱり――。


「ほら、海が見えたよ」


 こんなんでいいのか全然わからないなーって思いながら書きました。

 久しぶり過ぎて話を忘れていたので、最初から読み返し、読んでも読んでも終わらないので「なっげーよ、こんなに書いてんじゃねぇぇぇよ!」と、自分に怒ったりしました。


 この番外編も、プラブのイベントってどんな感じかなぁ、ボイスありだったら電話してるって設定が自然なのかな、いやべつに電話に限らなくてもいいだろう、それともLINEみたいな会話画面でチャットノベル形式になってるイメージとか……と、いろいろ考えて迷った挙句。

 いいからふつうに小説で書け、これは小説なんだから!


 という開き直りが来たので、このようになりました。


※この番外編の主人公キャラクターは、本編の「アリス」ではなく、ゲームメーカーが想定している「主人公」です。

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