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たいへんお待たせしました、本編第四十話をお届けします。

twitterでプラブ・キャラ(登場済み四人)の人気投票を開催します。

リアルタイムで読んでくださっている皆様、よかったら参加してくださいね。

https://twitter.com/usagi_ya/status/1158583691561410560

階段を駆け上りながら、わたし、体調悪いんじゃなかったっけ、と思った。

いや、そもそも悪いのは体調ではなくて、どちらかといえば精神が不安定だったんだ、と思う。それが声に滲んで、翼様が察したんだろうなぁと思うと……。

あのひと、どこまでハイスペックなんだ、って感じ。


三階まで上がったところに、エレベーターホールがあった。かなり広い。

階下とはまったく雰囲気が違う、現代的なデザイン。黒い石を基調に、シルバーのアクセントと間接照明、ほそく切り取るように戸外を見せるはめ殺しの硝子窓、こんな薄暗い場所でも元気だなって感心するほど立派な観葉植物。

そして、その奥に立って待っているのは、身長一六九センチの翼様だ。

なんでわざわざ身長を思い返したかというと、天井が異様に高くて……翼様が、なんとなく小さく見えたから。

わたしを見て、少しだけほっとしたような顔をなさったのは、気のせいですよね、そうですよね……うん、気のせいだ。近寄れば近寄るほど、苛立ちが滲むその柳眉、険悪な眼差しがはっきり見えてきて、……怖い。


「立ち止まるな」

「と、止まってませんし!」


ちょっと進むのを躊躇しただけですし!

わたしが翼様のもとに辿り着いたのとほぼ同時に、エレベーターのドアが開いた。

これまたスッキリとしたデザインで美しい……しかも絨毯がふっかふかだよね! あれは乗らなくてもわかる、ハイヒール履いてると埋もれるやつだ!

なお、現在のわたしの履物は、ハイヒールではございません、ラッキー!

翼様は、無言でエレベーターに乗り込まれた。

はい、これわたしも乗るってことだよね、知ってる! でも、このエレベーターがどこに行くのかは、全然知らない! 上へ行くのか下へ行くのかさえも、まったくわからない!

乗ってみたら、絨毯はやっぱりふっかふかで、そして内部のパネルは思った以上にたっぷり数字が並んだもので……いや、あの高級ホットケーキ屋の建物ってどうなってるの? ビルに隣接してるのかな……そうだよな、立地的に考えて、周り中がビルばっかりのはず。

つまり、これは隣接した高層ビルのエレベーターだ。

どうだ翼ホームズ、わたしにだって推理くらいできるんですよ!


「まったく……」


翼様は、ため息をつかれた。

なんということでしょう、世紀のイケメンが間近でため息をつくって、パワフルにグッときますね! これがSNSだったら、イイネを連打してつけたり外したりすることになり、翼様の通知欄が大変なことになった結果、叱られる流れです。


「少し目を離すと、こうなるんだからな。やはり、手元に置くべきか」

「……こうなるとは、どうなっているんでしょうか?」

「男に囲まれるということだ」


なんだその逆ハーレム!

いや……実際、囲まれてましたが。まるでゲームのように。

ゲームのように……。


「翼様」

「なんだ」

「翼様は、どうして、わたしをかまってくださるんですか?」

「かまう?」

「借金を肩代わりしてくださったり、就職も面倒みてくださったり、あとは……」


こうやって、心配してくださったり。

見上げると翼様と視線が合って、ああ、ほんとうに綺麗だなと思う。白目の部分がすこし青みがかって見えるほど澄んでいて、虹彩も黒とか茶色とかではなく、ブルーグレイっぽい。お高くて購入をためらう、万年筆のインクみたいな色だ。

そんな風に形容したことがバレたら、間違いなく翼様には呆れられるだろうけど。

でも、これは知性の色っていうか、なんか憧れの色っていうか、美形を連打されてる心にも染みる美しさというか。

……。

美形を連打?

ぼんやりしているわたしの顎に、翼様の手が添えられた。

……えっ?

これは伝説の顎クイッ……ではッ!?

わたしはぼんやりを通り越し、呆然なのか陶然なのか、とにかく魂が吹っ飛んだような状態になった。

えっ待って、待って待って待って、現状認識が追いつかないです、美形の超弩級アップとか情報量が多すぎてわたしの貧弱な脳細胞では処理できない!


「アリスが僕の世界の中心だからだよ」


処理できないーッ!

頭からピーッと湯気が出るかと思った瞬間、幸いにもエレベーターが止まった。

翼様は、ふっ、という美形にしかできない笑いを華麗にキメると、どうぞ、と開いたドアを示した。


「降りたまえ」


偉そうなのか低姿勢なのかわからない!

ていうか、なに? 今、なにが起きようとしてたの? まさかとは思うけど、顎クイッからの至近距離って、あの……つまり、その……なに? なんなの!?

魂抜けた状態でエレベーターを降りると、そこは屋上だった。つまり、エレベーターは上がっていたということだ。

そして、屋上はただの屋上ではなく、ヘリポートだった。

しかもヘリが待っていた。いつでも飛び立てる状態なので、回転翼がぶんぶん回っている。いや、ぶんぶんなんて可愛い音じゃない。すごく……爆音です。あと、風も凄い。この風の中なら、ナントカレボリューションごっこもできますね! 翼様なら似合いそうというか、現在進行形でさらっさらの髪や仕立てのいいスーツが暴風になびいて、しかし美しいという離れ業をやってのけていらっしゃるので、もう似合ってます。


「来るんだ」


と、たぶん、翼様はおっしゃったんだと思う。ヘリの音が凄くて、はっきりとは聞き取れないけど。わたしの勘では、きっとそう!


「翼様!」

「聞こえない」


いいから乗れ、と翼様はヘリコプターの方に顎をしゃくって見せた。

ああ〜、これもほかの人がやっても特になんとも思わないけど、翼様がなさるとこう……いいですよね! 絵になる! むしろ動画で保存したい!

だから翼様お願いです、どうか液晶画面の向こうの存在になってください!

3Dで顕現なされている現状、わたしの反応がまったく追いつきません。無理です。無理。語彙がないけど、無理!

尊さの立体化、リアルタイム演算が追いつきません!


「どこへ行くんですか!」

「僕がアリスを独占できる場所だ」


想像以上に脳天直撃する回答きたー!

いやいや無理無理、もうほんと無理だから!

翼様が、わたしの手首をつかむ。それから、ふと気を変えたようにその手が緩んでてのひらをなぞり――いやそのムーブはちょっと、ちょっと無理じゃないですか、なんか無理っていうか無理オブ無理ですね? と思ったけど声にはならないまま――ゆっくりと、翼様の綺麗な指が、わたしの指にからみついた。

いや!

無理ですね!?

気絶することもできないまま、わたしは自分の手をガン見していた。

だってそうでしょう、手と手がこの位置にある、ということは。ですよ。ですよ?

顔を上げたら、またしても翼様の凄い美形顔が間近にある、という事態がですね。容易に予測できるわけですよ。そうでしょう? そうですよ!


「アリス」


ヘリコプターの爆音さえ、あ〜なんか背景に音が響いてますね程度にしか認識できなくなる、翼様のお声がですね。かなり……かな〜り近くから聞こえるということもですね、評価のポイントですよね。

もう手から目が離せないぞ!

ただの自分の手だけど!

できるだけ翼様の指は見ないようにして……。


「なにを見てるの?」


ひいいっ、待って、今……今、耳に息がかかった気が……いやいや気のせいだ、きっとヘリコプターのせいだ、うん。うんうん。

翼様が笑った気配がして、それから。翼様は、わたしの指にからめていた指をゆっくりほどいた。でも、だからといって、手を離すわけではなくて。

翼様が、わたしの手をひっくり返す。手の甲側が見えていたのが、てのひら側が見えるようになって。

そして、その視界を翼様の頭が、あのさらっさらの髪が遮って、そして、てのひらになんかこう……やわらかいものが……!

まっ……。

ちょ、まっ……これ、キ……キ……キ……。

次の一文字で単語を確定する勇気がないわたしのてのひらに、二回目の、やわらかな感触。

ていうか、気がつくと翼様、跪いてらっしゃるし。いやこの姿勢だったら、ふつうは手の甲にこう……アレじゃないの? なんでわざわざてのひら?

そう思う間もなく、三回目!

しかもこれ、徐々に手首の方に移動してますね、いや、えっと、マジ無理!


「やめ……やめてください!」

「もうちょっと、マシな台詞はないのか?」


翼様が顔を上げて、わたしを見た。

もうマジヤバいです、先輩! いや誰が先輩なのかはわからないけど先輩助けて、理想の美形が自分の足元に跪いて見上げるっていうシチュエーション、こんなの、ほんと、無理! 絶対、現実じゃない!


「翼様は、ゲームの人なんですかッ!?」


思わず口走った言葉に、翼様は眼をほそめた。それは、よくやったと褒めるようでもあり、同時に、一抹の悔しさを感じさせるような表情でもあって。

……え?


「そういうことだな」


まさかの!

全肯定!

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