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 なんかテンション上がり過ぎてくらくらする。これ、テンションじゃなくて血圧が上がってるのでは? このまま倒れちゃうのでは? 今生のわたしの寿命、絶対O者の攻撃ではなく、司にとどめをさされてしまうのでは⁉︎

 ……なんて混乱しているわたしの目の前で。

 司の指が、鍵盤と戯れる。

 聞こえる音は、まさしく超絶技巧のきらきらなんだけど、全然、大変そうに見えない。遊んでるみたい。

 司って、ほんとに凄いピアニストなんだ……と、萌えとは別の次元で感服しそうです。

 向こうのステージのギター・ソロの音が霞んでしまう。

 これ、ステージの効果なのかな。いや、所詮あちらは録音されたオケに過ぎず、生演奏の迫力には及ばないということなのか。なんにせよ、司のピアノが凄い、というのは間違いないですね。凄い……ただただ、凄い。

 いやー、こんな演奏、無料で聞かせてもらっちゃってもいいんですかね。チケットはどこで売ってますか。

 わたしのために弾いてくれるみたいなこと、いわれたけど、これ独占していいものじゃないよね? 全世界に聞いてほしい音だよ!


 ごうん、とステージが揺れて、わたしはピアノに摑まった。

 せり上がって……る?


 司と、視線が合った。

 いつのまにか、馨様顔負けの……いや、馨様が顔で負けるっていうのは表現として駄目だ、没! やり直し!

 ええと、馨様もおどろかれるに違いない、きらきらの洪水が、ステージ上に満ち満ちて……これ、ひょっとして……。


 高く上がりつづけるステージが、その動きに回転を追加した。

 つまり、上がりながら回ってますぞ!

 そしてきらきらが溢れて、ステージから滝のように……ああっ、絶対O者のステージに、光線がびゅんびゅん飛んでいく!

 やっぱりそうだ、これ、司の地味に痛い攻撃スキル、《天空の音楽》だ!

 二百コンボ続くと攻撃がスタートして、以後、ミスしない限りじわじわと与ダメが増えつづけるという、プレイヤーの実力に比例したダメージを叩き出せるスキル。上級者がノーツの多い曲で使うことで最大ダメージが期待できるというか、実際フルコンしちゃうと敵は粉砕され過ぎて姿がなくなるとまでいわれてる、オーバーキルの代名詞。

 そうか、そこまで短い曲じゃないのに、これを選んだのは……そういうことかー!

 司、ガチだな!

 いやまぁ、どう見ても絶対O者もガチだから、対抗するならこれなんだろうけど。

 それでも、これだけじゃ勝てない……と、思う。初期攻撃力の差もあるし、そもそもライブ開始の時間差がある。

 あっちは、泣きのギター・ソロが終わりに近づいている。長い間奏だなって思ってたけど、今だけは、もっと長くていいのにって思うね!

 だって、このあとがラスサビで。それを歌い終えたところで、絶対O者の最大攻撃が来るからだ。


 もう、目をつぶって終わりを待つしかないのかな。


 ♪ あの日、君のまわりに光が見えた


 司が歌いはじめた。

 ……伴奏のメインがピアノってだけで、ふつうに歌唱曲だったことを、すっかり忘れてました。


 ♪ その光を追って、僕は走りつづける

 ♪ いつか、君を見失った時も

 ♪ その輝きだけは、色褪せない


 ラブエタはさ、全体に作詞がこう……。

 不幸な恋愛しか経験してないの? って気もちになるよね。

 ……いや、作詞に文句つけてる場合じゃない。なにか、わたしにできることはないのか。

 もう、絶対O者の歌が始まっちゃうよ。


 と、そのとき。

 司の声にかぶせるように。


 ♪ あの日、君に声をかける勇気が

 ♪ 僕にはまだ、なかったけれど


 歌いながら、馨様が降ってきたー!

 このステージ、かなり高くなっちゃってるんだけど、小銀丸、さすがの脚力ですね。もちろん、小銀丸も来てます。


 ♪ いつか、君にまた追いつけたなら

 ♪ 次こそは、君に打ち明けよう


「アリス、遅くなって済まない。これで、いいだろうか?」


 うお。これは、さっきイベントを済ませたっぽい激レア装具……。


「馨様、完璧です!」


 手渡された装具は、薔薇の飾りがついた、細身の剣。レイピアみたいな? これで直接攻撃もできるし、先端がマイクになってる設定で、歌唱力も増幅されます。

 あと、薔薇の花びらが、舞います。効果がなにかあるのかは、わかりません。

 しかし……装具装着なんてスマホのメニューからやってたから、どうすれば。

 馨様は、戸惑うわたしの前に跪いた。

 え。


「その剣で、わたしの両肩を叩いてくれ。アリス、君の騎士(ナイト)として仕えることを許す、とね」


 こ、これは躊躇するでしょ……。でも、急がないと絶対O者が……。


「早く、アリス。それとも、わたしの忠誠は受け入れられない?」

「とんでもない! もったいないです。えっと、でも、いきますね」


 わたしは覚悟を決めて、馨様の肩をそっと剣で叩いた。


「馨流星。わたしに仕えることを、許します」


 その言葉が終わると同時に、装具は薔薇の花の渦と化してわたしの手から消え、馨様の腰に移動した。


「この身は君の剣となり、盾となることを誓おう。ありがとう、アリス」


 馨様は早速、激レア装具を抜くと、その刀身にくちづけた。全乙女が失神しますね、これ。わたしも倒れていいですか?


「行くぞ、応慈!」


 そして、そのまま絶対O者のステージに突撃……。

 あー、これ正式なスキル名が思いだせないけど、通称《ライブ破り》。

 ほら、道場破りみたいな、あれです。

 馨様の魅力で敵のステージを乗っ取るらしいのですが、まぁつまり、直接的な妨害行為だよね!

 なにしろ、馨様が剣を振りまわすだけで、ぶわぁ、って薔薇の花びらが散るの、ここまで絶対O者が築いてきた湿っぽくて未練がましいアルハンブラ世界を破壊しにかかってるよね……。

 訂正します、薔薇の花びら、むっちゃ効果ある!


「アリス、俺のも着けて」


 小銀丸が持って来たのは、……これ、ピアス!


「こ、小銀丸、ピアスの穴開いてる?」

「ない。アリスが開けて」


 ですよねー、そうなりますよねー、はい、頑張ります! もちろん、ピアッサーなんてないですよね、直接ですね。良い子は真似しちゃ駄目だぞ!


「じゃあ、行くよ。痛かったら、ごめんね」

「アリスになら、痛くされてもいいよ」


 ブハ。なにこの子、馨様の薫陶受けちゃったの? いやいや、ピュア過ぎるんじゃろ、たぶん……。

 わたしは、なんとか手の震えを抑えて、小銀丸の耳にピアスを着けた。小銀丸は、痛いとはいわなかったけど、針が貫通したところで、少しだけ身体が動いたし、やっぱり痛かったんじゃないかなぁ。


「なんか……」

「なんか?」

「凄く、よく聞こえる。音が。今なら、音に乗ってジャンプもできそう」


 なんか凄いらしいことはわかったが、それになんの効果が⁉︎

 ……あっ。判定強化か!

 判定強化スキルは、音ゲーの成功ゾーンを延ばしてくれる、実質難易度低下スキルみたいなもの。司のスキルは、ミスが出ないこと前提の攻撃だから、これが効果あるとちょっと楽になるはず。


「あとこれ。司のも取って来たけど、着けられそうもないかな」


 絶賛、演奏中だからなぁ。


「一応、わたしが持っておくね。ありがとう、小銀丸」

「いいってこと。じゃ、俺も歌っちゃおうかな」


 小銀丸の声は、ややハイトーンなので、司のこの曲には似合うかも。


 ♪ きっといつかなんて言葉

 ♪ 努力しつづければという呪縛

 ♪ 踊らされて道に迷い

 ♪ 気もちが折れそうな日もある

 ♪ だけど、自分を信じずに

 ♪ どうして未来へ進めるだろう


 下のステージからは、絶対O者のラスサビが聞こえだしたけど、正直、迫力がない。馨様の《ライブ破り》、かなり効いてるっぽい?

 だって、馨様がこっちの曲に唱和なさるお声の方が、よく聞こえるもの。

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