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 小銀丸は、人間じゃない。

 ウサギの化身という存在がなんなのか、正直、わたしにはわからない。

 魔族であるシルヴェストリが、よくわからない存在であるように。小銀丸もまた、なんとなく理解不能なところがある。気がする。

 種族の壁っていうか。

 偏見っていうのとも違うつもりなんだけど。

 地上三階までジャンプできる生きものが、人間と同じ考えかたをしたら、そりゃちょっとおかしいでしょ。


 違う、というのは悪いことじゃないと思う。

 お互いに違うということを許容できて、尊重しあえるならば。

 たぶん、若武者たちのあいだでは、それができているんだろう。でなければ、小銀丸はこんなにのびのび育たないし、頭が冷えたら大丈夫、みたいな信頼感もないだろう。

 もっとも、小銀丸の芯になっているのは、若武者仲間よりも師匠の存在みたいだけど。


「師匠はさ、スッゲェおっかねぇんだ」


 山猫の化身だものなぁ、とわたしは思う。ウサギの化身とは、捕食する側とされる側という間柄じゃないのかな。怖くて当然というか、かれらはどういう付き合いなんだ。

 師弟か。

 そうか師弟だな? むしろなんで師弟関係を結んでますか⁉︎


「この近くに住んでるの? 師匠は」

「いや、この世界じゃねぇよ。ずっと遠く。それこそ、ぼろぼろな場所だよ。応慈が迎えに来るまで、魔妄のこととか、知らなかったしな。なんか変な感じだけは、あったけど」」


 小銀丸の導入章、見たはずだけど……覚えてないなぁ。

 ラブエタって、新キャラ加入すると(ラウンジで声かけたりプレゼントしたりして友好度が上がると、ということだ)導入章が見られるんだよね。

 見ると音符、すなわちゲーム内通貨の一種がもらえるから、加入したキャラは全部見た。

 小銀丸は、こまめに声をかければ課金しなくても仲間になってくれる、フランクな若武者だったから、当然、見たはずなんだよね。

 ただ、なぜかスキップできない仕様だったから、逆に見ないっていうか……。オート再生にして、テレビ見たりしてた気がする。PCで攻略サイト見てたり。

 どのキャラも似たり寄ったりのエピソードって感じで、飽きちゃってたのもあったし。

 シナリオライター仕事しろよー、って思ってたんだけど、どうやら小銀丸の章では仕事したらしいな……それもノリノリで!


 ま、ザックリまったく別物だって可能性もあるんだけど。

 ここはラブエタであって、ラブエタじゃないみたいだから。

 なお、キャラ別導入章以外にも、第一部っていうストーリー・モードがあって、それがまた盛り上がらない話だったんだよなぁ……。

 なんていうか、美形を並べりゃ売れるだろ、って思ってんじゃないか、開発⁉︎ ……みたいな? そんな簡単なもんじゃねぇんだよ、って思っちゃった記憶がありますよ、それはそれはうっすらとした記憶だけれども。

 エンディングまで頑張った自分を褒めたい、という感想の方が強く残っていて、内容ははてさて……って感じだけど。


 ま、うっすらとでも記憶にあるのは、ゲームだからだよね。

 わたしが能動的に思いだせるの、ほんとにそれだけだし。

 親兄弟の顔も名前も思いだせないとか、ひどいんじゃないの。いやまぁ、兄弟に関しては、いなかったという可能性があるけど。でも、親はいないと生まれてこられないからね。

 いたはずなんだけど、な……。


「故郷をはなれて、寂しくないの?」

「んー、べつに。師匠のことは懐かしいけど、そんくらい。それに、ここに来てるやつらは皆そうだからな」


 なるほど、若武者は全員、よそから来てるのか。そういえば、そんな設定だった気もする。

 そもそも、この世界がなんか特殊な場所って設定だったかなぁ。うーん。

 ゲームの攻略に直接関係ないからか、どうも思いだせない……。


「腹減ったなぁ」


 ため息をついた小銀丸の顔が、びっくりするほどせつなさ満点で、同情を誘う。

 わたしは、そこまで空腹でもないけど……あの食べそびれたミルフィーユには、未練がありますね。だって、すごくおいしそうだったんだもの。


「巻き込んじゃってごめんね」

「ばーか、巻き込んだのはこっちだろ。最初に、その……魔妄とかいって、悪かったよ」


 そういえば。すっかり忘れてたけど、こいつに魔妄呼ばわりされたとこから、はじまったんだったなぁ……。


「魔妄って、いったいどんなものなの?」

「魔妄は魔妄だよ。なんか変な感じがするやつ。あんたもちょっと変な感じあるから、勘違いした」

「変な感じ……って」

「変な感じだよ。世界から浮き上がって見える。魔妄自体は、なんていうか……。なんだろう? そうだなぁ、イラっとする空気みたいな感じ」


 ……馨様とは別の意味で、なにをいってるかわからない発言、きましたな。


「なにかに取り憑くの?」

「そういう場合もあるっぽい。ライブやったあと、人が気絶してたりするから。魔妄が抜けると、そうなるみたいだぜ」


 気絶……。って、馨様の光にやられたとか、絶対O者の声に腰が抜けたとか、そういうのも含まれてるんじゃ、という考えがちらりと脳裏を過りましたが、考え過ぎというか。いやそうじゃない、乙女ゲーム脳過ぎなのか。

 あああ、さすが乙女ゲーム専門人格(仮)だな!

 わたしって!


「そんなことよりさ、どうするんだ? たぶん、じきに来るよ、皆」

「……説得する方でお願いします」

「りょーうかい」


 ちょっと間延びした返事をして、小銀丸はにやりと笑った。


「平和的にね?」


 不安になったわたしを、誰が責められようか?(反語)

 だって、小銀丸だよ。うっかり親切にしてもらって、ほだされてるけど。

 本来この子はトラブルメーカーで、トリックスターで、懲りないいたずら者で、戦闘狂なんだよ。

 勘違いではないし、ゲームと違ってこの小銀丸は平和的でしょ、なんて楽観できない。

 そもそも、わたしを魔妄と決めつけて、いきなり襲って来たんだからな!


「あと三分くらいかな」


 ねぇ、返事は⁉︎

 平和的な説得だよね?

 大丈夫なの⁉︎


「三分で、皆が来るの」

「そう。足音が聞こえるから、わかる。俺、耳いいからな」


 得意げに耳を動かすのはやめたまえ、もふもふしたくなるから!


「えっと……どうやって説得するか、ちゃんと計画しないと……」

「まー、大丈夫だと思うよ。頭冷えてるって。あいつら、俺よりずっと頭いいしさ。あ、流星は、どうかな……」


 小銀丸の馨様評価が、地味にひどい……。


「馨様は、大丈夫よ」

「なに、その信頼感?」

「馨様は、滅びた世界をご存じだから、ちょっと余分に一生懸命になってらっしゃるんだと思う」


 そうだ。

 思いだしたわ!

 動画共有サイトで見たわ!

 重課金乙女の、激レア装具固有イベント・ストーリ動画‼︎

 運営さんごめんなさい、タダで見ました、っていう罪の記憶なんだけど、見たわー。小銀丸の導入章は思いだせないのに、馨様の持ってもいない激レア装具の固有イベントが思いだせるのも、なんか申し訳なさでいっぱいです。


「それ、なんも大丈夫じゃねぇだろ」

「そうだけど……でも、馨様は大丈夫。仲間を信じる人だし、乙女に悲しみの涙を流させるなんて、絶対に許さないもの」


 そういうストーリーだったのよ。うん、そう。珍しく激情をあらわにして暴走した馨様を止めたのは、彼の故郷が滅び去っていることを知った主人公の涙。

 ……なんか決め台詞もあったと思う。

 激レアだけに、それを手に入れると馨様との絆は盤石といわれた装具のイベントですよー、懐かしいな。


「だから、馨様は大丈夫。必ず、味方してくれる」

「ああ、なんと尊い信頼だろう!」


 ……。なんか、声が。

 小銀丸が、ニヤリとした。


「穴の外で、本人が待ってるみたいだぜ?」

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