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真っ暗で、なにも見えないけど……どうやら誰かにキャッチされてるっぽい。
びっくりすると声も出ないって、ほんとだなぁ。
出ないわ、それ以前に呼吸困難な感じ! わたし、大丈夫か? 息してるかッ!?
「確保したら戻るぞ」
「オーケイ。でもこの子、ほんとに使えるのかな?」
「使える」
うん、小銀丸と絶対O者の声だ。相変わらず有名人気声優さんたち、お疲れ様です……どうなってるんだろう。
いやそんなことより!
待って、と声にしたいのに、それができない。
苦しくて、カッとかハッみたいな音が少し出ただけだ。
「応慈がいうなら、信じるけどさぁー」
どうやら、わたしを抱きとめたのは小銀丸。声が近いし。
小銀丸って、小柄なはずなのになぁ。状況を考えると、お姫様抱っこなんだけど、それってすごく力がいるっていうよね?
わたし重くないのかな。
って思ったのが聞こえたみたいに。
「重たいから、さっさと帰るー」
ふん、軟弱者がッ!
そして、軟弱だろうが力持ちだろうが、帰るといったら一瞬で帰れるのが、ラブエタ・クオリティ。
情緒もなにもなく、バッ! ってなって、シュタッと降り立ったのは、もう学園だ。
暗闇からいきなりの燦々たる陽射し全開ゾーンへの到着は、凡人のわたしには、辛い……。たぶん、生粋のロンロン市民であるアリス本体も、こんな本質的に明る過ぎる環境、馴染みがないだろうなぁ。あそこ、昼でも霧がいっぱいで薄暗い日が多い印象だしなー。ごめんね、本体。
「ほら、自分で立ってよ」
小銀丸が、今にも放り出しそうな素振りを見せた。
謝りかけたけど、いや、わたしなんも悪くないよね? 勝手に持ち運ばれたっていうか、攫われたよね?
これ、誘拐だよね⁉︎
とりあえず自分の足で立ってみる。小銀丸とは、だいたい同じくらいの身長かな……。
いや、体型とかどうでもいいし! これからのことを考えないと。
しかし、だいたい霧っぽかったロンロンに比べて、ラブエタ世界の明るさよ……。
目眩がする。
ラブエタ世界の学園は、一応、巨大資本による運営という設定で、若武者たちの活動を援助するために、各種豪華施設が調えられている。
ひとことでいえば、セレブっぽい場所なのだ。
白亜の校舎は、なんかこう……ヴェルサイユ宮殿? 正直、ラブエタの設定関連はあまり突っ込んで調べてないから、モデルにしてる宮殿があるのかどうか、とかわからないです。
前庭とか、左右対称のデザインで、こう、ドーン! って感じ。
ドーン!
駄目だ、語彙が死んでる。さっそくラブエタ世界に影響されてるのだろうか⁉︎
「あ、戻って来たんだね。その子が僕らの適合者?」
「我々と組むかはともかく、適合者だ」
まだ適性テストしてないと思いますが……。
と思いながら声のした方をふり向くと、黒い上下に身を固めた絶対O者と、……うわ、あれは馨流星様じゃないすか!
馨様は、好感度を上げるのが難しいキャラで、馨様を編成に入れられるのは重課金の証、とまでいわれており!
わたしは……うん、高嶺の花は美しいわー、って思いながら、合同ライブでの勇姿をありがたく拝見していた一般人です。
馨様は中性的な美貌というか……凛々しくて、美しくて、なんかこう……清らか。心が洗われるというか、空気まで変わるっていうか!
存在自体が光、とまでいわれる馨様は、好感度が低い相手に対しても、とても丁重にふるまってくださいます。いやもうほんと、こちらに笑顔を向けないでください……前世でまったく課金してないので……申し訳なさが!
なお、髪色は紺で、眼は青灰色でいらっしゃいます。
「ようこそ、美しいひと」
声優さんは女性です。実は馨様は女性説もあるほどですが、水着ショットもあるのでなぁ……。
ていうか、美しいのは貴方様です!
まぶしい……まぶしいよ!
「おい、なにやってる。さっさと適性判定を済ませるぞ」
こ……この声は!
ふり向くのが怖いけど見たい! もしかして、まさかしなくても、推し!
「司はせっかちだな」
はい確定、ふり向かずに確定したー!
ラブエタは、半笑いでプレイしていた……とはいえ、推しはいたんですよ、推しは! いやわたし、なにを力説してるんだろう……。
彼の名前は司シュタウフェンベルク。ふわっふわの金髪に、黒い瞳のギャップが美しい、見た目はまさに王子様。
性格は、まとも。
ラブエタ世界の常識担当、理性の癒し枠。
とんでもない展開になったときに、困ったやつらだな、とか、これはキツイ、とか、主人公に同意を求めるように、ちょっと目線をくれたりするところが、こう……。
そういうシチュエーションが、グッとくる。あと、好感度が簡単に上がるのも、ポイント高かったです。馨様が高嶺の花なら、司は路傍の……いや、それは言葉が過ぎるな。
まぁ、貧乏でも仲良くしてくれる、入門キャラって感じです。
なるほど、なるほど……このユニット、基礎戦闘力すごいな。
「ところでお嬢さん、よかったら、名前を教えてもらえるかな?」
「アリスって呼ばれてたぜ」
馨様の質問の答えを、小銀丸が横からかっさらった。さすが小銀丸、空気読まねぇ!
絶対O者がうなずいて、小銀丸の回答を補強した。
「わたしも、そう聞いた」
「そうか。アリス……なんて可憐な名前なんだ」
馨様の笑顔、マジまぶしい。光学兵器か!
「いいから、適性判定を済ませようって。皆で囲んで、その子、威圧されてるじゃないか。ほら」
ぐい、と手を引かれて顔を上げれば、推しの……ちょっと困ったような笑顔が!
こいつら、悪気はないし、いいやつなんだ、わかってくれてるよな? でもまったく、困ったもんだよな、そうだろう? っていう!
あれが!
リアルに立体に至近距離にー!
逆らえない。
いやでも、わたしの立場を主張するなら、この人だ。
今しかない!
「あの、帰らせてください! もといた場所へ……」
全員が、え、って顔になった。
「なんで?」
小銀丸が、ハァ〜? って感じに顔を歪めた。
「なんでって……これ、誘拐ですよ! あなたたち、誰なんです。ここは、どこ⁉︎」
質問の答をだいたい知ってるから、えらくしらじらしい棒読み演技になってしまった……。緊張のあまり、そうなってると解釈していただきたいものです。
ツイッターに「どの作中乙女ゲームをプレイしたい?」というアンケートを設置しました。
期限は二日間ですので、よろしければご参加ください。
https://twitter.com/usagi_ya/status/1088619107786797056




