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殿下が、わたしの代わりに怒ってくれた。


「アーサー、それは酷い」

「なにがだね」

「今のは、彼女に『消えろ』といったも同然じゃないか」

「酷くないさ。わたしは、アリスの中にいる別の『誰か』を安易に霊と名づけることに反対しているだけで、彼女の考えや存在……という言葉が適切かは疑問が残るところだが、とにかく、彼女を認めないわけではないよ。誤解しないでくれたまえ」


君には当然通じてるだろう、という顔でこちらを見られましても、いいえ、全然通じてませんよ……ていうか、それは詭弁なんじゃないでしょうか!


「認めていただき、ありがとう存じます」

「礼をいわれるような筋合いの話ではないな」


嫌味にマジレス! さすがアーサーだな!


「しかしアーサー、彼女が霊でないとするなら、なんなのだろう?」

「さてね。可能性は無限にある。彼女の勘違いかもしれないし、魔族が細工をしたのかもしれない。このあたりが非常にあやしいところだが、ほかにもあるだろう。我々には知らされていないルールに基づいた、なにか新しいもの。あるいは逆に、古過ぎて文明の表層から忘れ去られてしまった、なにかなのかもしれない。なんにせよ、現段階ではなんともいえないね」

「それはそうだが、作りごとにしては実に豊かというか……心そそられる部分も多いと思わないか?」

「よく考えてみたまえ、エドワード。戯曲だの小説だのといったものが、どれほどの人気を博しているか。それらはすべて、ひとりの書き手の頭から生み出された、作りごとではないのかね?」

「アリスは作家ではないだろう?」

「誰だって、生まれながらに作家なわけでもないね」


あーいえば、こーいう。アーサーではなくアーコーって名前でもいいんじゃないか、この男。

自分の正義に忠実というか、誠実というか、……まぁアホだよね。

頭の良いアホ。

呆れ顔から察するに、殿下もわたしと同じ結論に至ったみたい。


「やれやれ。君には感心するよ」

「それはどうも。さて、そろそろ出発しよう。わたしは喉が渇いた」


立ち上がるときになって、自分がアーサーの上着の上に座っていたことを思いだした。

脱いだ上着を回収するのも、アーサーは実に手慣れていた。嫌味がましくない程度に埃をはたくと、なにごともなかったかのように、着用。


「助かりました」

「どういたしまして」


もっと、踏みにじってやってもよかったんじゃないかな。いや、座りにじる? そんな言葉、あるかは知らないけど。

アーサーだって、上着を提供しなければよかった、と考えているかも。


わたしは、彼が好きなアリス、ではないのだし。


……まぁでも、身体はちゃんと、本来のアリスのものなんだしな。

それにアーサーのことだ、後悔などないだろう。それは、なんとなくわかる。彼は、そういう人だ。

うんごめん、今のは、わたしの僻み。


王宮への道は長くて、わたしたちは無口になってしまった。

みんな、考えることがいっぱいあるだろうし。

わたしだって、考え通しだ。


この世界に限らず、いろんな乙女ゲーム「っぽい」世界……いや、乙女に限らずゲームっぽい世界とか、フィクションっぽい世界とか、あらゆる可能性に満ちた平行世界(パラレル・ワールド)が、実は存在している……のだとして。

今、たまたま「わたし」がプレイしたことがあるゲームばかりが既に三タイトル、交錯しているんだよね。

この「わたし」の意識はシルヴェストリの――つまり、『聖痕乙女』の世界で発生するわけだけど、そこでの過去はまだ思いだしていない。

小銀丸や絶対O者の発言から、『乱舞・永遠の音』の世界には、アリスはまだ存在していないらしい。

でも、今いるこの世界、『帝都倫敦 霧に消ゆ』のキャラの皆さんは、アリスを知っている。単に知っているという以上に愛し、庇護しようとしている。


アリスという存在が「既にある」ことの重みでいうなら、ロンロン>聖痕乙女>ラブエタだろう。

だから、この身体はこの世界に属するものだと考えていいと思う。


で。身体だけ、ってことはないよね。

この世界で生まれ育ったこの身体には、本来の「アリス」がいるはず。

なのになぜ、わたしがアリスの身体にいて、ちゃっかり自我として機能してるんだろう。

霊だという思いつきが事実だとしたら、どうやってアリスに憑依したのかな。いつ? そして、なぜ?

エリザベス様やアーサーを魅了した、善良なアリス。

あなたは、どこにいるの?


正直、全員が油断してたと思う。完全に。

足の遅いわたしを気遣って、ペースはあまり上がらなかったけど、それでも。はじめは並んだり、後ろからついてきたりと歩調を揃えてくれていたふたりが、少しだけ、わたしより先を歩きだしていて。

かれらが通り過ぎたばかりの地面に穴があいて、驚愕のあまり声が出ないわたしが、そこに落下してしまったのも。

ふたりが異常に気づくのと、小銀丸が穴を閉じるのが、ほぼ同時だったのも。

完全に、気を抜いていたからだ。


「兎穴へようこそ、アリスちゃん?」



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