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ちょっと、情報を整理しよう。
わたしはあのゲームを知ってるけど、知ってる、と漠然と思ってるだけだと、なにを、どこまで知ってるのか、自分でもよくわからない。
つまり、ちゃんと思いださないといけない、ってことだ。
あんまり思いだしたくない気もするけど、しかたない。頑張れわたしの記憶力、いやどっちかっていうとゲーマー魂かな。
……どっちでもいいな! 思いだすぞ!
ラブエタ(というのが、『乱舞・永遠の音』の非公式略称だった)は、基本、なんでもありだ。
攻略対象となる若武者たちは、魔妄という、音を歪めてしまう魔物みたいなもの(その正体がなんなのかは、よくわからない)を追って、世界を旅している。
学園に通いながら世界を旅するんですか、って思うわけですが、そういうレベルじゃないです。
ここでいう世界というのは、地球上に限らない。あらゆる異世界を含んでいるのです。
ふてぶてしいほど、ひらきなおってましたよ。ゲーム全体が。
あそこに魔妄の気配が! よし行くぞ! ピカー!(謎の演出とともに、どこか知らない場所へ移動)
こういう感じ。説明もない。理屈もない。行くといったら行く! そして、いつのまにか帰ってます。
アニメやほかのゲームとのコラボイベントも、やり放題。
なんでもありだし。どこにでも行くし。世界観的に矛盾はない、と自慢してた気がするけど、むしろ世界観なんてものがあるのか、の方が疑問なのでは……。
声をあててるのが人気声優さんだから、人気アニメとコラボすると、中の人がかぶることも多いんですけどね。それを利用して、やれ生き別れの兄弟だとか、ドッペルゲンガーだとか、はたまた声が同じでも言及ナッシングってパターンもあり、まぁ好き勝手にやってましたよね。
もちろん、生き別れの兄弟設定なんて、コラボが終われば公式には忘れ去られます。ファンは根強く二次創作を発表したりしてましたが、公式様がその後、それについてなにかするってことは、ありません。
基本的に、風呂敷は広げるもの、どんどん広げて世界を覆っちゃえ、くらいの勢いしかないゲームだったので、やっぱりねって感じではあったけど、それにしても、せめて兄弟設定についてはなにか……。
まぁ、多分権利関係に期日指定があるんじゃないかな……何年何月何日まで、これこれの利用について許可、みたいな?
なんかフォローして欲しかったけどなー。
いや、コラボ契約のことを考えてもあんまり意味ないね、ゲーム本体に集中!
見た目はかっこいい、声もイケボ揃いの若武者たちから、好きなタイプを選んで四人のユニットを組み、ライブで歌って魔妄と戦う、というのがゲームの基本。
この戦闘が、音ゲーね。
音ゲーの獲得ポイントで敵の体力を削っていく、といえばいいのかな。
親密度を上げてあるとスキルが発動しやすくなって、攻撃力が上がったり、味方が回復したりする。
連携スキルっていうのもあって、こっちは主人公ではなく、若武者同士の親密度に依存する。つまり、ユニット・メンバーを固定して経験を積むと、連携スキルが発動しやすくなる仕組み。
主人公と若武者の親密度は、地道に話しかけたり、デートなどイベントで上げるほか、課金アイテムのプレゼントでも上がる。
放置してると親密度は下がってしまうので、イベントごとに、有利な特殊スキルがある若武者と急いで親密度を上げたり、コラボの特殊装備ガチャで特効をつけたり……。本気でやるとなると、どうしてもリアル・マネーのパワーを投入することになるゲーム設計ですよ。
そう、ラブエタは「基本無料の超大型ソーシャル本格乙女ゲーム」だったのです!
個人的には、いかがなものかと首をひねることの多い案件だったけど、ログボもらって推しの台詞を聞くだけで幸せというライト勢から、ゲーム性? 世界観? そんなの関係ねぇ、とにかく貢がせろ、とばかりに重課金する勢もいて、けっこう賑わっていたと思う。
協力ライブで出会うユニット、たまに、怖くなるほどお金かかってるのがあったもんなぁ。
わたしはイベント順位とかは考えないことにして、毎回のトンデモ展開ストーリーを楽しんでいた。無茶苦茶過ぎて、逆に目が離せないというか。
人気声優の皆さんはさすがというか、どんなに目が点になるような展開でも、
イケボでしたけどね。プロってすごい。
あと、ガチャは滅びろ。
ああ、つい脱線してしまう、そうじゃなくて! つまり!
ラブエタ・キャラは、どこにでも出現可能なんだよね。ゲームの設定として、それが可能になっているわけで。
アーサーが鏡越しに手を入れて来たのは、明らかにゲーム本来の設定を逸脱してて、わたしを仰天させたけど。ロンロンってそういうゲームじゃなかったでしょ、って思うし、殊にアーサーは、そういうキャラじゃなかったはずだから。
ラブエタに関しては、来ちゃったか、という感じしかない。
うん、大雑把にだけど、だいたい思いだせた気がする。
しかし、これを王太子殿下にご説明申し上げるのは……いったい、どうすれば。
霊のお告げ戦術にも、限界はあるよね。
って悩んでるあいだに、殿下が半歩、前に出た。
「やあ、招かれざる客人の皆さん。おふたり、であってるかな?」
で……殿下すごい。この状況で、さらっと挨拶するとか!
「呼べばもっと来るけどな?」
「小銀丸、この男から魔妄の気配はしないが?」
イキってる小銀丸を、絶対O者こと王陵時応慈が抑えた。さすが絶対O者様。
なお、中の人は誰でも知ってる超実力派声優です、すごい、オリジナル台詞がこんなに聞けるなんて……えっ、待って待って、しかも無課金よ!?
いや、それをいえば今までだってそうか……ヴィジュアルにばっかり注目してたから、台詞については考えてなかったけど!
この現世、どうして回想モードないの? せめてログ閲覧ボタンを……そしてスピーカーのアイコンをタップすると同じ台詞を聞ける機能を……!
「あやしいのは、あっち。女の方」
正直、今の自分は「あやしい女」呼ばわりされてもしかたないと思いますが、小銀丸にいわれたくないです。
「突然あらわれて、なにをいうかと思えば。アリスの身柄は僕が保証できる。この国の王太子である、アルバート・エドワードがね」
「この国の王太子、と来たか。権力をひけらかすのは、好かないな」
応慈様対王子様という、すごい絵面になった……。
小銀丸がトラブルメーカーだとしたら、絶対O者はトラブルバスター。なんでもかんでも収拾をつけてしまう。
ただし、力技で、だけど。
やつらがライブを始めそうな予感がしたので、わたしは王太子殿下よりさらに前に出た。
霊のお告げ戦術を使うなら、ここでしょ!
「なにか誤解があるようですが、わたしは魔妄ではありません。倫敦に住む霊能力者に過ぎませんが、あなたがたからは、異界の力を感じます。おそろしい……わたしではとても太刀打ちできない力です。霊たちが教えてくれます。あなた方は、とても遠くから来たのですね。いったい、なんのために? なにを求めていらしたのですか?」




